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わがままお嬢様は美しいものがお好き  作者: 日乃のぼる


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メイドは噂好き?


ウィリアム青年とは良い初対面とは言えなかったが、その他に関してはケイトのメイドとしての生活は悪くない始まりだったと言えよう。


まず案内された自分の部屋が、ケイト好みの簡素で余計な装飾のないつくりなのが良かった。共同部屋ではあるが、カーテンで自分のスペースを守られていて、同居人も気さくで優しい人たちばかりだ。


これだけでも充分だが、翌日から始まるメイドとしての生活もケイトにとっては新鮮で大変にやりがいのあるものだった。指導担当の先輩メイドから教わりながら、ケイトははりきって掃除に励んだ。


「ああ、ケイトちゃん、お疲れ様。仕事、頑張ってるね。慣れてきたかい?」


「先輩、お疲れ様です。はい、少しずつですがなんとか」


使用人たち専用の休憩部屋で休むケイトに声をかけるのはメイドの先輩だ。


「そうかいそうかい。みんなもケイトちゃんは物覚えがいいからと褒めてたよ。今度同じ担当になった時はよろしくね」


笑顔で褒めてくれる先輩にケイトも思わず顔がほころぶ。自分がいないところで褒められるのは照れ臭いがやはり嬉しいものだ。


「もっと皆さんのお役に立てるよう、頑張るのでよろしくお願いします!」


やりがいのある仕事、優しい先輩、働きやすい職場。自分はなんて幸運なんだろうと思った。中途半端な地位の貴族の娘として生活していた時より、断然今のほうが楽しい。もしかしたら、メイドが天職なのかもしれない。ケイトは本気でそう思っていた。




「…うわ」


「……」


仕事中、曲がり角で会ったのは最悪の初対面だったウィリアムだ。ウィリアムは初日と変わらず何にも考えてなさそうな顔でこちらに興味を持つ様子もなく、どこかへ歩いて行った。ケイトの嫌悪の一言に反応すらない。


ただ取り残された新人メイドは眉をひそめる。


「…なんて失礼な人なの」


「ケイトちゃん、セバスさんと知り合いなの?いいな~」


「わっ!」


急に現れたのは同部屋のメイドだ。ケイトと同年代の彼女は、数ヶ月早くこの屋敷で働いている。爛々と目を輝かせる彼女のある一言にケイトは眉をひそめた。


「せ…セバス…さん?って誰のこと?」


「もちろんさっきの背の高い執事さんのことだよ!」


先ほど出会ったのはウィリアムという名前の執事だった気がするが。ケイトの見間違いなのか、それとも同僚が間違っているのか。


そういえば。昨日のことを振り返る。執事長が、ウィリアムの名を読んだ時、彼は苦虫を潰したような顔をしていた。そして苦言を呈すように執事長に「執事長。僕の名前はもうウィリアムではありません」と話していたような。彼のあまりに悪い態度の方が記憶に残っていたため、今まですっかり忘れていた。そうか、彼はセバスという名前なのか。


「ケイトちゃん?」


同僚に声をかけられ、ケイトは我に帰った。


「ううん。なんでもない。セバスさんとも知り合いじゃないよ。たまたま同じ日に屋敷入りして初日に挨拶をしただけ」


「そうなんだあ」


目をキラキラと輝かせる同部屋のメイド。どうやら彼女は考えてることが顔に出やすい女の子みたいだ。ケイトは同僚の言いたいことがなんとなくピンときた。


「セバスさん、めちゃくちゃかっこいいよねえ。私たちより年下なんだけど、大人っぽいし」


知らなかった。彼は自分よりも年下らしい。背が高いうえに、表情も変わらないから、幼くも見えない。自分よりも少し年上かと思っていた。


「しかも!執事養成学校をトップで卒業した超超エリート!!!すごいなあ。将来有望だよねえ」


うっとりとした表情で語る同僚のメイド。完全に恋する少女といった感じだ。


「密かにメイド達の間では人気なんだよ。まあ、仕事柄、出会いなんてないからねえ、こう言う時ぐらいしか恋愛できないし。職場恋愛からの結婚なんて、素敵だよねえ」


「そういうものなのね」


ケイトは同僚の話に相槌をうったが、なんとなく共感はできなかった。セバスが人気なのも納得はいってないが(あんなにも無愛想な男のどこが良いのか)なにより結婚に夢を見ているところが、共感できない。


「結婚なんて、するもんじゃないわよ…」


「ええ、ケイトちゃん、なんか達観してる。もしかして…もう大人なの?」


全くもってそう言うわけではない。自分のこの屈折した考えは、中途半端な貴族の身分のせいで、あれこれ花嫁修行をさせられたのが大きい。夢なんて持てなくなってしまった。結婚とは、政治的戦略のひとつでしかなく、窮屈な縛りのある制度である。


「そういうわけじゃないけど…恋愛とかはいいかな。仕事の方が楽しいよ」


ため息をつきながらそう話すと、何を勘違いしたのか、同僚は羨望の眼差しをこちらに送ってきた。


不名誉なことにしばらくメイドたちの間では、「ケイトはまだ若いうちに大変な恋愛をしてきたらしい」という噂が飛び交っていたらしい…。

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