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78.お久しぶりです領主様

「『動物使い』様!!」


 領主様の館で会った、ロマンスグレーの執事さんがヒビキに駆け寄ってくる。


「執事さん、どうしたのですか?

「領主様が倒れたのです。こちらで『動物使い』様が治療もして下さっていると報告を受けていたので、連れてきました」



 教会の入口で、受付係をしてくれていたシスターが、急いで領主様を担いでいる騎士様二人を奥の部屋へ誘導してくれている。


 シスター達の後ろを、早足でついていくヒビキと執事さん。

 さらにその後ろに、私を抱きかかえたアベルさんと、猫耳娘が付いていく。


 急患が入ったらそちらを優先する事になっていたので、私の前で順番を待ってくれていた町の人たちから、「先に領主様を診て下さい」と中座させて貰えた。



「奥様の石像の呪いを、ほとんど寝ずに解除し続けていたので、疲労が溜まったのだと思います」

「俺達がお屋敷に行ってからずっとですか?」


「そうなのです」


 ……単なる寝不足の疲れから来る過労っぽいから、私の出番はなさそうだけど。

 領主様のお屋敷に行ってから、かれこれ12日ぐらいは経ってるよね。

 ほとんど寝ずに……って、領主様無茶しすぎだよ。

 


 横長のこの教会は、現世で言うところの病院もかねていて。

 礼拝堂の奥には病室として使用している部屋が三部屋あり、さらにその奥にはシスター達の生活区画が続いている。

 各病室にベッドは四床ずつ設置されているけど、ヒビキや私達が治療したので、現在の入院者数はゼロ。


 一番手前の部屋に運び込まれた領主様をベッドに寝かせると、騎士様達はドアの外で待機してくれた。


「『動物使い』様、私達も受け付けに戻りますね」

「はい。お願いします」


 シスターと娘っ子達が部屋を出て行ったのを確認してから、空間収納から『妖精の王様の粉が入った小瓶』とコップを取り出した。


「オカン、お水ちょうだい」


 ヒビキが差し出してきたコップに、魔法で出した水を注ぐ。


「ありがと」


 お礼を云ったヒビキが、コップの中に王様の粉を振りかけて、スプーンでかき混ぜて溶かす。


「アベルさん、領主様の体をお願いします」


 無言でうなずいたアベルさんが、領主様の上体を少し起こすように抱き上げて、口を開けさせた。

 意識のない王様の口に、王様の粉入りの水を少しずつ流し込んでいくと……。


 土気色だった領主様の顔色が、みるみる赤みを取り戻していった。

 

「しばらくしたら、目が覚めると思うので、起きたらこれを食べさせてあげてください」


 小皿に入れた妖精キノコを、執事さんに渡そうとすると……。


「もう大丈夫です!」


 ガバッと起き上がった領主様が、元気に叫んだ。



「睡眠はちゃんと取らないと駄目ですよ」


 体調管理に厳しいヒビキが、腕組みしながら領主様を見つめている。


「早く妻に会いたくてね! これでも若い頃は騎士として鍛錬してたので体力には自信が――」

「倒れてたら意味ないですよね?」


 ニカリと笑って返事する領主様の言葉に、かぶせるように窘めるヒビキ。


「――面目ない」


 なんと、領主のお仕事を執事さんに押し付けて、ひたすら奥様の石像の呪いを解除し続けていたらしい。


 単純計算で2190体もあるもんねぇ。……奥様の石像。

 早く会いたいと思っちゃったら、際限なく続けられるよね。解除作業……。


 驚くべき事にお屋敷内にあった石像は、ヒビキ達と訪れた翌日には解除を終えて、さらに1区画から4区画まで、先ほどすべて終えたらしい。


 通りに見える範囲の、すべての石像の解除を終えた途端、気が緩んだのか意識を失ったとの事だった。


「いくらお休みになるようにと、ご忠告差し上げても聞き入れて下さらないし、日に日にお顔の色が悪くなっていくしで、胆が冷えました」

「いやぁ、すまん、すまん」


 カラリと云う領主様。


「と、云う訳で、今から妻本体の呪いを解きに戻らせて貰うよ。できればヒビキも一緒に来てくれないか?」

「それは良いんですけど……。領主様、”通りに見える範囲のすべて”っておっしゃいましたよね?」


「そうだが?」

「大変……言いにくいんですけど……。奥様の石像って、住民の家の中にも生えて来てましたよ」





 領主様と執事さんの顔が、口も目も、鼻の孔も、これでもかというぐらいに開かれた。


 ……知らなかったのね……。

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