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74.妖精が起きた

「じゃ、アベル脱いで」


 ピーちゃんの時々発症する説明下手が炸裂した。


「は?」


 アベルさんが思考停止している。


 そりゃいきなり脱げと言われたらそうなるよねぇ……。


「ピーちゃん、なぜアベルさんが脱がないといけないの?」

「だーかーらー。このお姉ちゃんは、超絶面食いの筋肉フェチって言ったでしょ? 寝起きの一番機嫌が悪い時に、この二つ揃えとかないと、ヘソ曲げるからさ」

「……な、なるほど……」


 現在のアベルさんはゆったりしたサーコートを着ている為、整った容姿は見えているけれど、見事な筋肉美は隠されてる……。

 しかし、お風呂上りでもないのに、室内で一人だけ脱ぐのは、勇気……いるよねぇ。


「ぼ、僕だけ……脱ぐのですか……?」

「えっ」


 助けを求めるように見つめられたヒビキが、素っ頓狂な声を上げた。


「ヒビキも可愛らしい顔してるから、お姉ちゃんの何処かのツボに入るかもしれないし、ついでに脱いどけば?」


 ピーちゃんが悪代官の微笑みをしながら付け足した。


「全裸にならなくても良いからさ。お風呂上りの時みたいに、上だけ脱いでれば大丈夫よ。たぶん」

「ヒビキさん! お願いします。僕だけ脱ぐのは恥ずかしすぎる! 助けて下さい」

「う……うぅ……」


 親ばかフィルターごしに見てるのは否めないけれど……。

 ヒビキだってなかなかイケてると思うよ?

 幼稚園の頃はヒビキのファンクラブもあったし!


「……わかりマシタ……」


 アベルさんの、すがるような視線に耐えかねたヒビキが折れた。



 男子二人組の、お着替えタイム……ならぬ、脱ぎ脱ぎタイム。


「どうしてこうなった……」


 完全に巻き添えを喰らったヒビキが、往生際悪くブツブツつぶやきながら脱いでいる。

 

「すみません……」


 申し訳なさそうに返事しながら、アベルさんも抜ぎ終わった。


 毎日朝晩自主トレーングしてたし、もともと水泳部で鍛えていたから、ヒビキもそれなりに筋肉は付いている。


 妖精のお姉ちゃんのご機嫌浮上には役立つと思うよ?

 部活の引退後は泳いでなかったから、去年の夏場に比べたらちょっと落ちてるけれど。

  

「さて……。ピーちゃん、他に何か準備するモノはありますか?」

「他は無いわ! さぁ、ばーんと結界破っちゃってー!」


 アベルさんが、軽く上げた右手全体に、薄い電気の糸が張り巡らされてゆくのが見て取れた。

 寝ている妖精の結界に、ゆっくりと近付けていく。


 そっと結界に触れた指先は、弾き飛ばされる事なく、侵入し始め……。


 五指の第一関節が侵入した所で止まり、掌に張り巡らされていた電気の糸が、結界の周りへと広がっていくにつれて……。


 キィイ――


 黒板を引っ掻いた時のような不快な音が発生する。


「うンわ!」

「嫌な音!!」

「んにゃ!」

「!!」


 皆でたまらず耳を塞いで見守る。



 アベルさんの額に滲み始めた汗が、頬を伝い顎からぽたぽたと落ち始めている……けれど、流石というか……。

 全く集中が切れる様子はなく。


「一気に破れないのですか?」


 止まらない不快音に、耳を塞ぎながらヒビキが問うた。


「そちらの方が簡単なのですが、それだと中の妖精にもダメージが入ってしまいますからね」


 なるほど。結界だけを中和して消そうとしているから大変なのかぁ。


 キイイ……イイ……ギィ……ギイイィイッ


 ひと際、不快音が大きくなり。


 パリン!


 ガラスが砕ける音がした。


 

「ふぅ……破れました」


 軽く息を吐いたアベルさんが呟いた。


「さすがね!」

「アベルさんすごい!」

「「お兄ちゃん格好いい!!」」


 すごいすごいと、みんなで拍手しながら騒いでいると……。


「なんや、騒がしいなぁ……」


 目を覚ました妖精が、目をこすりながらぼやいた。


「おねえちゃ~ん!」


 すぐさまピーちゃんが妖精に飛びつく。

 でた。ピーちゃんの猫なで声。


「ぶわ! なんやのアンタ! なんでこんな所おるん?!」

「やっと100歳になったから、出てきたの!」


「ほ~それは良かったな……って、まだ魔素濃いやん! 誰やウチの結界やぶったバカは……」


 抱き付いてきたピーちゃんの頭を撫でながら、早口で突っ込みを吐いた妖精がぐるりと周囲を見渡して……。

 ……アベルさんに釘づけになった。


「ちょっとアンタ! めっちゃいいオトコやん!!」


 あ。ピーちゃんの顔が、してやったりって感じでにやりとしてる。

 ……ほんと策士だよなぁ。


「でしょー! お姉ちゃん好みの素敵男子と会えたからさ。これはご紹介しなきゃと思ったの!」

「そーか、そーか。アンタもそんな気遣いできるようになったんかー!」


 ピーちゃんの頭をなでなでしまくりながら、視線はアベルさんから離さない妖精さん。

 アベルさんの全身を、上から下まで何度も往復して、たっぷりと観賞しているようだ。


 ふと、アベルさんから外された視線が、今度はヒビキに向けられる。


「ほほぅ……。こっちもナカナカええやん……。この先が楽しみな感じやな……」


 あ、ヒビキとアベルさんが、どこか遠い所を見はじめた。


 町を領主の奥様の石像まみれにした腐女神様と、趣味が合いそうな妖精さんだなー……。




第三の目標にしていたブックマーク50に達しましたー!!


いつも読んで頂いている皆様のお蔭です。

ありがとうございます。すごく励みになっております。

これからも、どうぞ宜しくお願い致します。


少しでも、応援しているよ!と思って頂けましたら、広告の下の☆を押して頂けると嬉しいです!

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― 新着の感想 ―
[一言] 関西弁!?(゜Д゜;) でもって黒板引っ掻き音……周りのお客さん大丈夫だったのかな(゜Д゜;)
[良い点]  ブックマーク50おめでとうございます!  PVも順調に5桁ですね。この作品は、ぼくの追いかける目標です。 [気になる点]  かわいい世界だなーと思って読んでいたら、まさかの筋肉鑑賞タイ…
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