74.妖精が起きた
「じゃ、アベル脱いで」
ピーちゃんの時々発症する説明下手が炸裂した。
「は?」
アベルさんが思考停止している。
そりゃいきなり脱げと言われたらそうなるよねぇ……。
「ピーちゃん、なぜアベルさんが脱がないといけないの?」
「だーかーらー。このお姉ちゃんは、超絶面食いの筋肉フェチって言ったでしょ? 寝起きの一番機嫌が悪い時に、この二つ揃えとかないと、ヘソ曲げるからさ」
「……な、なるほど……」
現在のアベルさんはゆったりしたサーコートを着ている為、整った容姿は見えているけれど、見事な筋肉美は隠されてる……。
しかし、お風呂上りでもないのに、室内で一人だけ脱ぐのは、勇気……いるよねぇ。
「ぼ、僕だけ……脱ぐのですか……?」
「えっ」
助けを求めるように見つめられたヒビキが、素っ頓狂な声を上げた。
「ヒビキも可愛らしい顔してるから、お姉ちゃんの何処かのツボに入るかもしれないし、ついでに脱いどけば?」
ピーちゃんが悪代官の微笑みをしながら付け足した。
「全裸にならなくても良いからさ。お風呂上りの時みたいに、上だけ脱いでれば大丈夫よ。たぶん」
「ヒビキさん! お願いします。僕だけ脱ぐのは恥ずかしすぎる! 助けて下さい」
「う……うぅ……」
親ばかフィルターごしに見てるのは否めないけれど……。
ヒビキだってなかなかイケてると思うよ?
幼稚園の頃はヒビキのファンクラブもあったし!
「……わかりマシタ……」
アベルさんの、すがるような視線に耐えかねたヒビキが折れた。
◆
男子二人組の、お着替えタイム……ならぬ、脱ぎ脱ぎタイム。
「どうしてこうなった……」
完全に巻き添えを喰らったヒビキが、往生際悪くブツブツつぶやきながら脱いでいる。
「すみません……」
申し訳なさそうに返事しながら、アベルさんも抜ぎ終わった。
毎日朝晩自主トレーングしてたし、もともと水泳部で鍛えていたから、ヒビキもそれなりに筋肉は付いている。
妖精のお姉ちゃんのご機嫌浮上には役立つと思うよ?
部活の引退後は泳いでなかったから、去年の夏場に比べたらちょっと落ちてるけれど。
「さて……。ピーちゃん、他に何か準備するモノはありますか?」
「他は無いわ! さぁ、ばーんと結界破っちゃってー!」
アベルさんが、軽く上げた右手全体に、薄い電気の糸が張り巡らされてゆくのが見て取れた。
寝ている妖精の結界に、ゆっくりと近付けていく。
そっと結界に触れた指先は、弾き飛ばされる事なく、侵入し始め……。
五指の第一関節が侵入した所で止まり、掌に張り巡らされていた電気の糸が、結界の周りへと広がっていくにつれて……。
キィイ――
黒板を引っ掻いた時のような不快な音が発生する。
「うンわ!」
「嫌な音!!」
「んにゃ!」
「!!」
皆でたまらず耳を塞いで見守る。
アベルさんの額に滲み始めた汗が、頬を伝い顎からぽたぽたと落ち始めている……けれど、流石というか……。
全く集中が切れる様子はなく。
「一気に破れないのですか?」
止まらない不快音に、耳を塞ぎながらヒビキが問うた。
「そちらの方が簡単なのですが、それだと中の妖精にもダメージが入ってしまいますからね」
なるほど。結界だけを中和して消そうとしているから大変なのかぁ。
キイイ……イイ……ギィ……ギイイィイッ
ひと際、不快音が大きくなり。
パリン!
ガラスが砕ける音がした。
「ふぅ……破れました」
軽く息を吐いたアベルさんが呟いた。
「さすがね!」
「アベルさんすごい!」
「「お兄ちゃん格好いい!!」」
すごいすごいと、みんなで拍手しながら騒いでいると……。
「なんや、騒がしいなぁ……」
目を覚ました妖精が、目をこすりながらぼやいた。
「おねえちゃ~ん!」
すぐさまピーちゃんが妖精に飛びつく。
でた。ピーちゃんの猫なで声。
「ぶわ! なんやのアンタ! なんでこんな所おるん?!」
「やっと100歳になったから、出てきたの!」
「ほ~それは良かったな……って、まだ魔素濃いやん! 誰やウチの結界やぶったバカは……」
抱き付いてきたピーちゃんの頭を撫でながら、早口で突っ込みを吐いた妖精がぐるりと周囲を見渡して……。
……アベルさんに釘づけになった。
「ちょっとアンタ! めっちゃいいオトコやん!!」
あ。ピーちゃんの顔が、してやったりって感じでにやりとしてる。
……ほんと策士だよなぁ。
「でしょー! お姉ちゃん好みの素敵男子と会えたからさ。これはご紹介しなきゃと思ったの!」
「そーか、そーか。アンタもそんな気遣いできるようになったんかー!」
ピーちゃんの頭をなでなでしまくりながら、視線はアベルさんから離さない妖精さん。
アベルさんの全身を、上から下まで何度も往復して、たっぷりと観賞しているようだ。
ふと、アベルさんから外された視線が、今度はヒビキに向けられる。
「ほほぅ……。こっちもナカナカええやん……。この先が楽しみな感じやな……」
あ、ヒビキとアベルさんが、どこか遠い所を見はじめた。
町を領主の奥様の石像まみれにした腐女神様と、趣味が合いそうな妖精さんだなー……。
第三の目標にしていたブックマーク50に達しましたー!!
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