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31.トー爺さんからの贈り物

「おハヨ~」

「おしごト~」

「いッソげェ」


 朝の光で目を覚ましたらしき小さい妖精達が、上空から挨拶をしてくれながら、朝露を集めては女王様の寝椅子の近くに置いてある(かめ)に溜め始めている。


 小さい子達に手を振りながら挨拶をし返していると、トー爺さんが話の続きを切り出した。


「まだあるんじゃ」


 自身の空間収納の中から出してくれたのは、茶色い革で作られた肩掛けカバン。


「ピーちゃんがな。ヒビキが空を飛ぶときに、オカンを抱えておったのを気にしててな」

「空中で手が使えないのは不便だからね! 何かにビックリしてオカン落っことしても大変だし」


 つまり、このカバンは空を移動する時の私専用……?

 自分用の新しいカバンなんて、何年ぶりだろう! すごく嬉しい。

 なんて気遣いさんなんでしょう! ピーちゃん素晴らしいっ。

 私が使うんじゃなくて、私を入れて肩から提げられるってのが、何とも切ないけどね……。


「蓋は一部だけ外開きになるよう細工しておいたから、顔だけ出しとく事もできるぞぃ」

「ありがとうございます」

爺さんありがとう(にゃ~にゃにゃ~)

「マンティコアの胴の部分の革じゃからな。柔らかくて通気性にすぐれておるし、丈夫なんじゃよ。中は、仕切りを入れておいたから、外側はオカンに入ってもろぅて、内側に小物や良く使うモンを入れるとええじゃろう。後は小物袋じゃな。大中小で3袋作っておいたから、少額の硬貨なんかもここに入れて、カバンに入れておくがええ」

「空間収納はわりと有名な魔法だけど、妖精からの祝福がないと使えないからね。持ってると悪目立ちするのよ。人前では使わない方が良いわ」

「わかった」


 ピーちゃんがあれこれと補足説明してくれるのは、純粋にありがたい。


 カバンと同じ素材で作られた、一番小さいのが拳ぐらいのサイズ。コミック本ぐらいの中サイズ。A4ノートほどの大サイズの袋で合計3つ。

 それぞれ袋の口にひもが付いていて、両側からぎゅっと引っ張って締める巾着タイプの袋だ。

 マンティコアの胴体って、羊だっけ?……マンティコアだと思うと恐ろしいけど、羊だと思えば高級品っっ。


 さらにトー爺さんが出してくれたのは、卓上胡椒ぐらいのサイズのガラス瓶。


「この瓶はな。蓋が半分だけ開くようになっておってな、中の粉が少量ずつ出てくる。王様の角の粉を入れるとええ」


 ……フリカケみたいな構造に、クスリと微笑んでしまう。

 どこの世界でも、発想って似てくるのね。


 さらに出てきたのが、1キロ程度の米袋サイズの袋が一つ。

 中に何かが詰まっているらしく、パンパンに膨らんでいる。


「これが、昨晩預かった王様の角を粉にしたものじゃ。粉にも魔力が宿っておるのでな。魔力に引き寄せられた魔素が入りよると、効力が落ちる。袋の口は開けん方がええ。空間収納に入れておけば、あとは空の瓶を入れるだけで、袋の中の粉が移されるからの」

「練習してみれば?」


 うれしそうに何度か頷いたヒビキが、空間収納に王様の粉がはいった大きな袋を入れる。

 その後、中身が入っていないガラスの瓶を突っ込んでから再び取り出すと、瓶の中に粉が移っていた。


「すごい!」


 トー爺さんへキラキラした目を向けるヒビキに、満足そうにニヤリとしていた。


「空間魔法に慣れてくれば、カバンの中で出せるようになるがの。円を描く時の、”始点と終点”が合わなんだら、カバンごと次元の狭間に落ち込んで、二度と中の物をだせんようになるから気を付けるんじゃよ」


 ようは目を瞑って、ちゃんと閉じた円を空中に描け、って事よね。そりゃ難しいわ……。

 右手で三角、左手で四角を同時に書く遊びが流行った事があったけど、ヒビキ下手だったもんなぁ。


 不器用を自覚しているヒビキが「カバンの中で空間収納だすのは辞めておきます」といって苦笑いしていた。


「さて。ワシからの贈り物は以上じゃ。ポールとテムのヤツらも張り切って作っておったから期待するがよいぞ」


「あの! 小さい妖精達から貰ったお金でお支払するのは失礼かな、と思ってて。何か俺にできる事はありませんか?」


 ちょっとびっくりしたように目を見開いたトー爺さんが、さも愉快だと云う様に笑いだした。


「かまわん。かまわん。ピーちゃんから聞いたぞ。女王様だけでなく、朽ち果てかけていた王様も助けてくれたそうじゃないか」

「でも、それは神様から貰ったものをお裾分けしただけで、俺の力じゃないんです」


 困惑するヒビキに向かって、真剣な眼差しになったトー爺さんが云う。


「あのな。ヒビキよ。『世界樹のしずく』を与えられた者の内、何人がドロドロのぐちゃぐちゃに朽ち果てかけている魔物に近付いて、手ずから飲ませる事ができると思う?」


 『勇者』以外でも、神様から『世界樹のしずく』を与えられた者は、ごくごく少数だが存在する。

 心の清らかな者。正義に燃える者。守る者の為に立ち上がれる者。

 神様の基準は不明だが、勇者に近い志をもつ者に与えられるらしい。


 ただ、与えられた『世界樹のしずく』は――ダンジョンの深層からでる宝箱に、稀に入っている物はその限りではないらしいが――他者の手に渡ると泥水に変わる。


「『勇者』とは、勇気ある者に与えられる職業じゃ。竜王を屠竜(とりょう)し『世界樹のしずく』を使う勇気。この意味がわかるか?」


 首を振るヒビキに、トー爺さんが続ける。


「仲間が大怪我を負った時。道中で情を交わした魔物が、魔素に侵された時。世界を救う為に、冒険の最後まで『世界樹のしずく』を使()()()()()()、耐えられる精神力……その決断が出来る『勇気』を持つ者。いかなる仲間の……時には命にも囚われず、先へ進める者の事なんじゃ」


 だから――勇者が世界を救うまでの間、『世界樹のしずく』を与えられた他の者が、出来うる限りの範囲の中で、魔素に侵された生き物を救う必要がある――と。


「幾人かは使命を試みようとしたらしいがの。実際に、目の前で朽ち果てかけている魔物や人に、近寄れた者はそぅはおらん」


 なんとなく、わかる。

 もしもヒビキと私が入れ替わる事が出来てたとしても、私では……斑に腐っていた王様に『世界樹のしずく』を飲ませる事はおろか、近づく事もできなかっただろうし、何より森の中を進む事すら怪しい……。

 

「じゃからの、ヒビキ。『世界樹のしずく』を持っておるのは……お前さんの力ではないのは確かじゃが。それを正しく使う事が出来るのは、お前さんだからなんじゃよ。胸を張るがよいぞぃ」


 トー爺さんの言葉に、ヒビキの心の深いところで、何かが灯った気がした。

 なんだか、誇らしいような、でもまだ少し怖いような、大人になろうとしているような。




 ――そんな笑顔でヒビキが頷いた。


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