25.もじゃもじゃ登場
「さて、貴方。『エルフの森』で何をしていたのかしら?」
矛先を向けられた王様に視線を向けると……。
そこには”ちゃんとした顔の”王様がいた。
力強く角ばった顎にギリシャ鼻。太い眉毛と、紺碧で切れ長の瞳。
ガハハと笑うのが似合いそうな大きな口。獅子のような金色の髪。
え。王様イケメン! 背筋を伸ばして座っている王様は、なんとなく威厳まで感じる。
少し潤んだような瞳で、ちゃんとしてる王様を見つめる女王様の、強張っていた表情がちょっとだけ緩くなってる。
なんであんなダメ白馬が王様なんだろうと思ってたけど、あれかな。女王様面食いなのかな。
ふざけてないで最初からその姿に戻ってたらよかったのに。
女王様の唯一の(と言ってもきっと過言ではない)”好みの場所”を、最後の最後まで出さないで、笑いを取ろうとしていた王様の斜め上っぷりに、どんよりしながら、王様が話し始めるのを待つ。
「……人間に会いたくなかったのでな。角が生えそろうまで、『エルフの森』に居たのだ。エルフが人間を嫌っておるのは有名だから、人間側も滅多な事で『エルフの森』には立ち入らんしの」
やっと進み始めたお話を、「そいつぁ俺達も知りてぇなぁ!」という野太い声が遮った。
声がした方向――私の足元――を見ると、マンホールより二回りほど大きな穴が開いており、髭もじゃで髪も眉ももじゃもじゃで、褐色の肌をしたもじゃもじゃのっ。もじゃもじゃのっ。
「いぎにゃー! にゃにゃー!」
ビックリしすぎて飛び上がる。いや、比喩じゃなくて。50センチぐらいはゆうにビヨーンと。
ビヨーンのあと当然着地するんだけども、着地先は私が座ってた椅子なわけで。穴は椅子のすぐそばにあるわけで。さらにその穴から顔を出してたもじゃもじゃが、穴から這い出てこようとしてたので!
叫びながらヒビキの膝の上に飛び乗って丸まる。無理無理無理。なにあれ、なにあれ。何あのもじゃもじゃ!
「テム爺さん!」
ピーちゃんの、嬉しそうな声がする。
え。お知り合い……?
「オカン、大丈夫。たぶんドワーフだよ」
私の背中を撫でながら、ヒビキがそっと耳打ちしてくれたので、恐る恐るヒビキの腕の隙間からチラ見する。
1メートルくらいの身長。ところどころに汚れが目立つコゲ茶色のオーバーオールを着た、ずんぐりむっくりとした樽のような体形。
頭髪も髭ももっじゃもじゃで、もじゃもじゃの隙間から、妙にくりくりとした可愛い瞳が覗いている。
唯一のおしゃれボイントなのか、もっじゃもじゃの髭は、お腹の下あたりで一つに纏めて結わえられ、ピンクのリボンが付いていた。
テム爺さんとやらが穴から出終わると、二人目のもじゃ頭が出てくる。
体型や服装は、テム爺さんと全く同じ。唯一違うのは、お腹の下あたりでまとめられているお髭が、2つで纏められていて、それぞれの先っぽにピンクのリボンが付いているぐらい。
「ポール爺さん!」
素早く飛んでトム爺さんの掌の上に乗っていたピーちゃんが、嬉しそうに声をかける。
ポール爺さんとやらがで終わると、3人目のもじゃもじゃ頭が見えた。
……どんなけ出てくるのよ。と不安になったけど、どうやら3人で打ち止めらしい。
「トー爺さん!」
トー爺さんのこだわりのお髭は、一つにまとめて三つ編みになっていた。
3人合わせてトー・テム・ポール! ……覚えやすいからいいんだけどね……。
「呼ぶのが遅れてごめんなさいね。まさか3人とも出てきて下さるなんて」
女王様が椅子を追加しようとしたのだろう。ぽんと手を合わせる。
「あー、いらんいらん。ワシらにゃ椅子なんぞいらんわい」
女王様の意図を察したトー爺さんが、軽い感じで右手を振った。
「世界樹の気配がしたのでな。全員で挨拶にきたのじゃよ」
ポール爺さんが云う。
テム爺さんを先頭に、一列に並んだもじゃ爺3人衆が、のっしのっしとヒビキの正面--ピーちゃんが座っていた椅子の隣--に空いていた椅子へ向かう。
ヒビキの後ろを通り過ぎながら、ポンと肩を叩いていく。
……え。ドワーフの挨拶ってそれだけなの?!
テム爺さんの掌に乗っていたピーちゃんは、今は私の頭の上で寝そべっていて、「3人ともドワーフなの。礼儀とか作法とかが大嫌いだから、気にしなくていいよ」と、こっそり教えてくれた。
3人で椅子を囲んで向かい合うと、じゃーん、けん、のジェスチャーをして、ぽんと出す、もじゃ爺3人衆。
トー爺さんとテム爺さんがパー。ポール爺さんがグー。
負けたポール爺さんが、オウ、ノーってな感じで頭を抱えるジェスチャーをする。
ポール爺さんが、ぴょんと飛んでつた草の椅子に腰かけると、重みに耐えかねたようにぐしゃりと壊れ、豪快な音を立てて尻もちをついた。
トー爺さんとテム爺さんが、ゲラゲラ笑いながらポール爺さんが立ち上がるのを手伝う。
ポール爺さんが立ち上がると、何事も無かったかのように、スンと落ち着いた雰囲気を出したもじゃ爺3人衆が、テーブルの上に顔だけ乗せるように横一列に並ぶと。
「さて、王様。さっさと話してくれやせんかね」
と、テム爺さんが云った。
……どこまでも自由なドワーフ爺3人衆に、「遮ったのはあんたらだ」とは突っ込まない方がよさそうだ。




