21.妖精女王
大樹に向かって空を飛ぶヒビキの後ろを、小さな妖精たちが付いてくる。
「いいいぃぃぃやっほおぉぉぉう!」
先頭を飛ぶ自分に、沢山の光が付いてくるのだ。
スモーク引いて飛ぶブルーインパルスみたいで、恰好良いもんね。
そりゃテンションあがるよね。わかる、わかるよ。
上昇したり、下降してみたり、宙返りしてみたりと、心の赴くまま飛び回るヒビキの腕の中で、ぐるぐる回る景色に目が回る。
雄叫びを上げながら、天井知らずに上がっていくヒビキのテンションに反比例して、私のソレはどんどん下がっていく。
体に掛かるGに気持ち悪くなり、胃液が返って来そうなのだ。
ゾンビといいお化け屋敷といい、ジェットコースターといい……私が苦手なものを、悉く得意とするヒビキ。
「三回宙返りー! ひゃっほう!」
ヒビキさんや……。もうちょっとソフトに飛んでおくれ……。ここにグロッキーな母ちゃんがいますよー……。口を開いたらキノコが出てきそうなんですよー……。
腕の中の白猫が、まさか”車酔い”ならぬ”空中遊泳酔い”をしているとは、思いもよらないのだろう。
螺旋を描いてほぼ垂直にぐんぐん急上昇し、マントをはためかせて一直線に下降っ!
地面に着地する少し手前でぴたりと停止。
マントがバサリと落ち着いたのを見計らい、何やら格好つけて、すとん、っと降り立ったところで、私の三半規管と胃液が限界を迎える。
急いで腕の中から飛び出し、池のほとりまで走っていって……吐いた。
嘔吐しちゃったキノコに前脚で土をかけ、その場にへなへなと寝そべりながら……私が自力で飛べる日は来ないだろうと確信した。
◆
「だイジょうブ?」
「つラいー?」
「お水ノム~?」
幼い声の妖精たちが心配してくれる声がする……。かわええ……。
「オカン、ごめんね。調子に乗りすぎた。ホントごめん」
心配してくれるヒビキの声がする……。ええのょ……。お前さんはなんも悪い事してないんだもの。ずっと飛んでみたいって云ってたもんね。
バスタオル纏って二階のベランダから飛び降りた事あったもんね……。夢が叶ったんだから、そりゃはしゃぐよ……。
「だらしないわねー。何の為に羽がついてるのよー」
ピーちゃんが追い討ちをかけてくる。ピーさんや……それは私も知りたいデス……
……っていうか、小さい妖精さんや、お水はまだかいのぅ……
「ちょっと、オカン! 早く飲みなさいよ」
片目を開けて見ると、ピーちゃんが真珠のような光沢を放つ葉っぱで作ったコップを差し出してくれている。 ヒビキがコップを受け取って、そっと飲ませてくれた。
「菩提樹の朝露だから元気でたでしょ?」
「にゃー! にゃ、にゃー!」(ほんとだ! 治った! ありがとうー!)
女王様の為に、毎朝小さい妖精達が集めて溜めている朝露を分けてくれたらしい。
ツンデレなピーちゃんと、可愛い妖精達にほっこりしながら、女王様の所へ行こうと言いかけた時。
ドオーン!バリバリバリッ!
すぐそばで雷が落ちた。
「怒ってルー」
「女王サま、怒っテるー」
小さい妖精たちが騒ぎ出す。
「あちゃー。始まっちゃったかー。ヒビキ、オカン、女王様の所に急ぐわよ!」
ふわりと浮き上がるピーちゃんの後を、私を抱きかかえたヒビキが続く。
相当反省しているらしく、私の背中を撫でながら、ものすごくゆっくりと上昇してくれた。
……過保護だっっ。
菩提樹の幹が、地上より30メートルぐらいの高さの所で、大きく外側へ枝分かれしている。
枝分かれし始めているあたりに、金色の芝生のような草が生えていて、ちょっとした広場みたいになっていた。
広場の中央に、つた草で編まれた寝椅子に横たわる女王様の姿が見える。
女王様の前には、何やら必死で話しかけている王様がいた。
女王様が……右手を上げ……真ん前に立っている王様へ向けて……振り下ろすっ。
ドオーン! バリバリバリッ!
王様の頭に直撃した雷が体表をすべり、脚まで下りると、金色の芝生の上を波紋状に広がって消える。
「あぁ~!」
明らかに喜んでいる王様の、恍惚とした声。
「貴方という人はっ」
ドオーン! バリバリバリッ!
「よりによってエルフの森でっ」
ドオーン! バリバリバリッ!
「なんという失態をっ!」
一言おきに放たれる雷撃を、ことごとくその身に浴びながら、毎回「あぁ~!」と声を上げる王様。
女王様、落ち着いて下さい。ソレ、あきらかにご褒美になってます。




