14.魔素の恐怖
※生き物が腐り落ちる表現があります。苦手な方はご注意下さい
左肩に乗っかってガタガタ震える私の頭を、左手でナデナデしてくれながら、慎重に進むヒビキ。
整備された道なんぞある筈もなく、比較的下草が少ない獣道を、ピーちゃんのナビを頼りに進んでいく。
時折枯れ木を踏む、ペキ、ポキという音にすら、毎回ビクビクと反応してしまう。
「ワタシが出た時より濃くなってる……」
「ピーちゃんは魔素が見えるの?」
「ううん、感じるだけ。空気が……ねっとりしてるっていうか、重いっていうか。そんな感じ」
「ねっとりかぁ……。俺も、無意識の浄化ってやつ、しちゃってるのかな」
「アンタもオカンもしてるわよ」
「……そっか……」
『世界樹のしずく』があるから、出会った時のピーちゃんみたいに、体が縮む心配はないけれど。
容量的に、無限に飲める訳ではないのだ。
……この世界のすべての生き物が、緩やかに絶滅への道を進んでいるように思えて、ゾワリと鳥肌が立った。
ざく、ざく、とヒビキの足音だけが響く。
不意に、ヒュッと風を切る音が聞こえたかと思うや否や。
ベチャ!
気持ちの悪い音を立て、目の前数センチの所で黒い物体が飛沫を上げて広がった。
そのまま、重力にひかれてズルズルと下に流れる。
「ぎぃに”ゃぁぁぁぁぁ!!」
目の前で広がった飛沫に、情けない声を上げたのは私だけで、ピーちゃんもヒビキも飛沫が飛んできた方向を凝視している。
咄嗟にヒビキが結界を張ってくれたので、体に直撃しなかったとはいえ……。
あたかも、透明なアクリル板の上を、ゲル状の黒い物体がズルズルと流れ落ちるような……気持ちの悪い光景に鳥肌がとまらない。
流れ流れて、べしゃりと地面に落ちたソレを、目を逸らしたいのに逸らせなくて凝視してしまう。
キモチワルッ!!
「王様……! 王様の気配がする!」
「どっち?」
「黒いのが飛んできた方向! ヤバイ感じがする! ヒビキ急いで!!」
「わかった!」
ガサガサと草をかき分けて走るヒビキ。
ずっと結界を張ってくれているらしく、行く手に飛び出してくる枝葉は、私たちに当たる直前ではじけ飛んでいく。
「いた! 王様!!」
ピーちゃんの叫びにヒビキが急停止する。
牛のような斑な模様がついた馬がいた。
おでこのあたりから、長い角が一本だけ生えている。
……ユニコーン? でも、あの斑模様は一体……?
そろりそろりと近づいていくと、立っているのも辛いらしく、四肢が震えている事が判る。
ゴホ! ゴホゴホゴホッ!!
馬が咳き込むと、黒い飛沫が口から飛び散った。
飛んできた飛沫が、再び目の前でべしゃりと広がり、ズルズルと流れ落ちる。
もしかしてさっき飛んできたのって、タンだったの?!
咳エチケットって知ってる?!
ドン引きしている私に構うこと無く、ピーちゃんが馬に向かって一直線に駆け飛んで行く。
「あ! ピーちゃんちょっと待って!」
慌ててヒビキが追いかける。
咳き込んで黒いゲル状の飛沫を飛ばしていた馬が、グッと一瞬息を止めた後、ゴボリと嘔吐した。
どろっとした黒い吐しゃ物が、地面に落ちる気持ちの悪い音にも、怯む事なく近づいていくヒビキ。
馬に、あと数歩という距離まで近づいた所で……気がついた。
斑模様に見えていた黒い部分は、皮膚が腐って変色した色だという事に。
口から魂が抜けそうなぐらいに衝撃を受けていると……馬の顔の大半にある……斑模様の部分が……ドロリと流れ始め……。
額に付いていた長い角と共に、べしゃり、ゴトリと落ちた。




