13.ホラーって、平気な人はトコトン平気だよね……
「手っ取り早く覚えられそーだなーと思ったからさー」
黙々と歩くヒビキの右肩に座ったピーちゃんが、絶対反省していない声で一人ごちている。
もはや定位置と決めた左肩で揺られている私は、足の痛みが少し痺れている程度になってきた事も相まって、ほとんど自業自得だったしなーと、ピーちゃんにモノ申したい気持ちは無くなっていた。
普段おとなしい子が本気で怒った時は洒落にならないぐらい怖い。
への字に口を曲げたまま、黙々と、黙々と、黙々と歩くヒビキ。
「そりゃさ、面白い事になりそーだなーって、ちょこーっとだけ思ったけどさー」
相変わらず火に油を注ぐような言い訳を並べ立てている。
「にゃー……」(ごめんね……)
いたたまれない気持ちになったので、肉球でヒビキの左頬をそっとなでて、ご機嫌取りをしてみる。
肉球の感触に怒りが解けたのか、ふふ、と笑ったヒビキが口を開いた。
「ピーちゃんはね、もうちょっと考えて行動すること。オカンは足が悪いんだよ? これ以上歩きにくそうになったら可哀想でしょ」
「……はぁ~い……」
「オカンもだよ。怪我したらどーすんの」
「……にゃー……」
お腹の上に飛び乗ろうとした事ではなく、私の足を気遣って怒っていたらしい。
……ええ子や……。
少し引きずってるだけで、普通のスピードで歩けるし、走る事だってできる。
まぁ、長時間歩く事は厳しいんだけどね。
もといた世界でも、何かと私の体を気遣ってくれた事を思い出して、次は怒らせない程度にふざけようと、ひっそりと誓った。
「さっきさ。オカンが着地したのって、俺の結界だよね?」
「そうよー。まだ覚えたばかりだから、体の周りに沿ってグルリと発動した感じかな? 使いこなせるようになると、自分の周りにドーム型の結界が張れるようになるわ」
「着地の衝撃よりも、明らかにダメージが大きそうだったのはなんで? オカン、1メートルぐらいしか飛び上ってなかったよね?」
「物理的な攻撃から身を守るために発動した結界は、当たった相手にダメージを数倍返しにするの」
……だからあんなに痛かったのか!
ヒビキの眉間に再び皺が寄り始めたのに気付いたピーちゃんが、慌てたように話題転換する。
「あ! ヒビキ! 森に着いたよ!」
昼なお暗く、うっそうと生い茂る森が広がっていた。
◆
ホーホーとか、ギャァギャァとか鳴く声は、鳥だろうか。
時折、そこかしこでガサガサと草木が動く音がする。
頭上高く重なってそびえる樹々は、陽光を遮り陰鬱な気分にさせてくる。
自慢じゃないけれど、私はホラーが苦手だ。
お客さんが実際に歩くタイプの『ゾンビが出るお化け屋敷』に入りたいと、せがむヒビキに根負けして挑戦した時は……。
途中で腰が抜けて、両脇をゾンビ役の方に支えられながら、非常出口から脱出させてもらった事がある。
イタズラ心を起こしたヒビキに、「ここから先は怖くないから! スカッとするからやってみ?」と勧められた、『ゾンビでハザードな家庭用テレビゲーム』では……。
体育館ぽい建物に入った途端、大音響とともに”ゾンビ化した巨大蜘蛛”が、テレビの画面いっぱいに登場した瞬間、年甲斐もなく悲鳴を上げてパニくった挙句、コントローラーをブチ投げてテレビの画面を割った事もある。
何が言いたいのかと言うと、今現在進行形で怖いのである。
もー、やだ、ほんとにやだ。
妖精女王を助けに行きたい気持ちはあるんだけど! あるんだけど! 暗いの怖い! 中途半端に薄暗いの怖い!!
音が嫌、鳴き声が嫌、なんとなくひんやりしてる風が嫌、突然ガサガサ言う葉っぱが嫌ー!!
「オカン、怖いのはわかるんだけど、爪立ってて痛い」
苦笑いで話しかけてくるヒビキの声に、慌ててヒビキの肩に食い込んでいた爪を引っ込めた。




