11.森へ
妖精女王の体が腐り始めたのを知って、女王が無理に取り込んだ分の魔素を、少しでも浄化できそうなモノを、ずっと探し回っていたらしい。
「ピーちゃんも、無意識での浄化ってやつ、してるのか?」
「これでもそれなりの魔力を持ってるから、しちゃってるのよ」
魔素が濃くなる前であれば、取り込む量と放出する量にバランスが取れていたので、身体に異常をきたす事はなかったらしい。
ただ、魔素が濃くなってからは、無意識に放出するだけでは、濃くなった分の魔素が体内に残ってしまうのだと言う。
さらに悪いことに魔素が残った状態だと、徐々に体が腐ってしまうとの事だった。
体内に残った魔素を、意識的に清浄な空気にして放出する為には、魔力を過剰に使わなければならず、その結果身長が縮んでしまったらしい。
それが、ヒビキの『職業:生き物使い』の『名付け』によって、縮む前に戻るどころか、さらに4センチ程成長した上に、保持していた魔力が倍に増えたという。
異世界の名づけってすごいな。
私に翼が生えてきたのも、『オカン』と名付けられたからかな、と納得する。
「無意識で浄化してしまうなら、意識的に取り込まないようにできないのか?」
「持っている魔力を体の表面にまとってたら、できない事もないんだけどね。ずっと魔力を放出し続ける事になるから、長時間は無理なのよ。」
「そっか……。急に魔素が濃くなったって言ったけど、原因はわかってるのか?」
「浄化できそうなモノを探すついでに、原因も探してたんだけどね。全くわかんなかったわ。外の世界の事を色々教えてくれた女王様にも、その辺りの話はいつもはぐらかされてね……」
このまま縮み続けて消滅してしまうのか、志半ばで森へ帰るべきなのかと、半ば諦めかけていた時。
強い魔力の反応を感じて駆けつけてきたら、失われている筈の世界樹の匂いまでしたので、喜びすぎておかしなテンションになってしまったのだそうな。
おかしなテンションと面倒くさそうな性格は、きっと生来のモノだろうと思いつつ、ヒビキの肩によじ登り、しょんぼりしているピーちゃんの頭をポフポフと撫でる。
「にゃー」(一人で頑張ってたんだね。えらかったね)
止まっていた涙が再び大粒で零れ落ちたピーちゃんが、私に抱き着いてきて大声で泣き始めた。
◆
「あのさ……。オカンはいいんだけど、ピーちゃんは飛べるだろ?」
現在の私の居場所は、旅人のマントを羽織ったヒビキのフードの中に足を突っ込み、上半身はヒビキの左肩にのしかからせて、ぶらぶらと両腕を揺らしている。
ピーちゃんは、ヒビキの頭の上に胡坐をかいていて、手綱よろしく髪を掴んでいた。
行く先は、3キロほど先に見えるうっそうと茂った広大な森。
「なんでオカンはいいのよ」
「オカンは、少し左足引きずってるから。ピーちゃんは、ずり落ちそうになる度に俺の髪の毛引っ張ってバランスとるから、地味に痛い。何本か確実に抜けてるし。」
「ひいきだー!!」
ぷりぷりと憤慨しながら、ヒビキの右肩に移動して、ちょこんと腰かける。
ここなら文句ないでしょと言わんばかりに足を組んだピーちゃんに、苦笑いで「しかたないなぁ」と返すヒビキ。
妖精女王が張った結界の入口は森の中心にあるらしく、取り急ぎ向かってみようと移動し始めた時に、少しぎこちなく歩く私の足に気付いたヒビキが、抱き上げてくれた。
何が起きるかわからない異世界で、両手が塞がっているのはマズかろうと、するりと肩に移動して、ここに落ちついている。
自分で歩かなくても移動できるって、すっごい、楽ー!!
人間だった頃より高くなった目線も新鮮で、ニマニマしてしまう。
「腹筋パンチといい、足といい、お前ほんとに母さんみたいだね」
優しく微笑みかけてくるヒビキにギクリとしながら、お茶を濁すように「にゃー」と返事しといた。
「そーいえばさ。ヒビキってなんでオカンの言葉がわかんないんだろうね」
「え?」
「『生き物使い』は、すべての生き物の話してる事がわかる筈よ?」
「本当に?! オカン、もう一度何かしゃべってみて??」
「にゃー」(この場所気に入ったー)
「……わかんないや」
「『この場所気に入ったー』って言ってるよ」
通訳してくれるピーちゃんに感謝しながら、「なんでだろうねー」と三人で首をかしげる。
ピーちゃんに頼んで、私が母だと伝えて貰おうかと一瞬考えたけれど、何と無く言いたくなくて。
まぁ、いつでも言えるしね、と自分自身に言い訳をして、しばらく様子を見る事にした。
ふと、足元を歩く蟻に気付いたヒビキが、しゃがみ込んだ。
「蟻さんこんにちは。一匹で何してるの?」
苦笑いをして立ち上り、再び歩き始めたヒビキに、ピーちゃんが「なんて言ってたの?」と尋ねる。
「働きたくなくて引きこもってたら、蟻の女王様に『餌見つけてくるまで帰ってくるな!』って、巣穴から追い出されたんだって」




