10.神様からの贈り物
そっと反時計回りに手を動かし、空間収納を閉じる。
神様からの、嫌がらせとも思える贈り物に、がっくりとうな垂れていると、ヒビキのお着替えが終わったようだ。
脱いだ服をきちんと畳んで、開きっぱなしだった空間収納に入れている。
「……あれ? まだなんか入ってる」
そっと取り出したモノは、30ml程度の液体がはいった小瓶だった。
透明な液体の中に、金粉のようなモノがキラキラと反射している。
「それだーーーー!!! やっぱアンタ持ってるんじゃない!」
突然叫んだピーちゃんの声に、ビクッと肩を上げながら、手の中の小瓶を見ている。
「これ、神様から貰ったんだ。俺が『必要だと思った者に飲ませるのじゃ』って」
「ふぅん。って事は、ワタシが貰って飲ませても効果はなさそうねえ……」
空の上で、神様が横たわるヒビキに話かけていたのはこれだったのか。
神様がヒビキに与えた”使命”とやらが、ビンの中の液体を飲ませる事なのかしら。
答えの無い疑問を、ぐるぐると考えていると、ピーちゃんがガバッと空中で器用に土下座した。
「お願いします! 少しだけでいいの! 少しでいいから、ソレを分けてください!」
「いいよ」
全く思案する様子もなく即答で答えるヒビキに、顔だけ上げたピーちゃんが、ポカンと口を開けた。
「いいの?」
「いいよ」
「アンタ、それがなんだか判ってるの?『世界樹のしずく』よ?」
「うん。神様からもらった時は、これが何かは知らなかったけど、空間収納から取り出す時に、名前出てきてたから判ってるよ」
「……世界樹は、枯れてしまっているから、現存する最後の『世界樹のしずく』かもしれないのよ?」
「うん。いいよ。必要なんでしょ?」
ピーちゃんの瞳から、大粒の涙がボロボロとこぼれ落ちる。
「ホントにいいの?」
「助けたい人が居るんでしょ?なんとなく分かるよ」
「~~~~~~!!!! うわあぁぁぁぁーーーん!!」
真一文字に引き結んだ唇がワナワナと震えた後、耐えきれなくなったように空中で突っ伏して大泣きするピーちゃんを、どう慰めれば良いのか思い浮かばないのだろう。
ヒビキが、助けを求めるようにこちらを見てくるが、私だって全く事態を呑み込めていないんだもの。首をかしげながら見つめ返すしかなかった。
◆
しばらく大泣きしていたピーちゃんが、上半身をゆっくりと起こし、ぽつりぽつりと事情を打ち明けてくる。
2000年前、暴走した竜の息吹で世界樹が焼かれ、怪我や病気に効く効果を持つ『世界樹の葉』や、身体の欠損を含め全ての身体的薬効を持つ『世界樹のしずく』が失われた。
世界樹は、薬効成分のある『葉』や『しずく』を生きとし生けるものに与えるだけではなく、大気中に含まれる『魔素』を取り込んで、清浄な空気にして吐き出してくれていたという。
『魔素』は、あらゆる生き物の負の感情からできるているらしい。
「じゃあ、今は魔素が増えるいっぽうなのか?」
「魔力の強い生き物が、無意識に空気の浄化をしているから、生活に支障がでないギリギリで、均衡は取れてたんだけどね……」
可愛らしい眉間にしわを寄せながら黙り込んでしまったピーちゃんを、じっと見つめるヒビキ。
「……ここ十数年で、大気中の魔素濃度が急に濃くなってきたの。正常な空気がないと生きていけない魔力の弱い妖精たちは、妖精女王が張った結界の中で生活していたんだけど……。結界の中にも魔素が入り込むようになってきたから…」
スカートの裾をぐっと握りしめながらうつむいたピーちゃんが、絞り出すように言った。
「入り込んできた魔素を、妖精女王が無理に取り込んで浄化するようになって…」
うつむいたまま、涙を流して肩を震わせている。
「無理に取り込んだらどうなるんだ?」
「……腐り落ちるの。体が」




