80.もう結構ですわ(最終話)
大きくなったお腹を撫でながら、私は溜め息を吐く。今年も旅行を計画していたのに、すぐに身籠るなんて。嬉しいから否定はしないけれど、これってレオのミスよね。興奮しすぎて暴発し、ヒットさせた彼が悪い。
睨みつけると、うっとりとした顔で頬を差し出す。ぱちんと叩けば、反対の頬が出てきた。もちろん、そちらも音を立てて引っ叩く。
「反省しているの?」
「もちろんだ、シャルの平手をもらえたんだから」
罰じゃなく、完全にご褒美になっているわ。
結婚式直後にお父様に後を押し付け、叔母様達と四人で逃げた。侍女も騎士も置いて、途中で二手に分かれる。街の奥さん達が協力してくれたので、追っ手を撒くのも難しくなかった。やはり味方につけるのは、奥さん達に限るわね。
逃げた先で、自堕落な生活を楽しむ。好きな時間に起きて、疲れたら寝て、お腹が空いたら食べる。その間に愛し合った。盛りのついた犬を相手に、時々命の危機を感じたけれど……概ね満足している。
もう一度旅行に行きたいと言ったのに、あの旅行でこの子を宿した。孫が楽しみなお父様とお母様は、ぴたりと旅行をやめた。私の仕事も分業して片付けてくれる。快適なのだけれど、窓から見える風景が同じなのが……。
「外出したいわ」
「シャルは俺の息の根を止めたいのかな?」
「散歩なら」
「万が一にも転んだら危ないだろう?」
疑問系なのに圧を感じるわ。お風呂に入るのも一人では許されなくて、レオがついてくるの。大きくなったお腹を撫でまわし、身体や髪を洗う。丁寧で助かるけれど、はあはあと息が荒いのはなぜかしら。
「産むときも立ち会いたい」
「いやよ」
この会話は毎夜の恒例だ。産む姿を目に焼き付けたい変態と、拒みたい私。平行線で交わる先はない。今は拒絶されて引き下がるけれど、そのうち根負けしそう。お腹に耳を当てて、幸せそうに目を閉じる……顔は美形の変態。
呆れちゃう時もあるけれど、この男を愛したのは私自身だわ。押し付けられた政略結婚ではなく、私が選んだ。
愛の重いユーグ叔父様を受け入れたセレーヌ叔母様のように。お父様がいないと死にたくなるお母様のように。私がいないと、息もできない夫がいてもいいじゃない。
「男の子と女の子、どちらがいい?」
「どちらでも……君に似ていたら最高だ」
あら、私は逆であなたに似た子が欲しいわ。外見の話で、愛の重さはお腹の中に忘れていいけれど。皆に「大きいな」と感心されるお腹を横にして、ベッドに寝転がる。明日は早かった……うっ!
「痛っ、いたいぃ……」
唸るように訴えた。寝転がる私を支えていたレオが、慌てて扉を開け放つ。
「であぇえええ! 産まれるぞ」
その合言葉、他に何かなかったの? 笑ったら、ずきんとお腹に抗議される。冷や汗が出て、何かが溢れてくる。もうだめ……痛みに転がり続けて数時間。夜明け前にようやく産まれた。
「早かったわね」
「おめでとう、シャルリーヌ」
「シャル、ありがとう」
たくさんかかる声に返事もできず、私は気を失うように眠った。しばらく起こさないで頂戴。どうせ起きたら忙しいんでしょう? 少しの間、眠らせてほしい。
目が覚めて、大量の名前が書かれたリストを突きつけられるのも。うんざりするほど訪問者が駆けつけ、お祝いの返信で手が痛くなるのも。幸せの延長だと思ったら、耐えられる……わけないでしょう! もう結構ですわ、放っておいてくださいませ。
終わり
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完結です。お付き合いありがとうございました(o´-ω-)o)ペコッ
最近、タイトルを最後に持ってくるのがマイブームでして( ̄ー ̄)ニヤ... としてもらえたら嬉しいです。




