59.王女殿下が動いた
早朝の心地よい空気を目一杯吸い込み、昨夜の予感を思い出す。きっと幸せな未来がくると確信したのよ。それなのに……。
「シャル、現実逃避している場合ではないぞ」
お父様が入り口で騒ぎ、入室をレオが食い止めている。というのも、窓辺にいる私が寝着だからよ。実父であろうと見せられないと、婚約者に昇格されたレオが騒ぐ。うるさいので、カーテンを巻きつけて彼らを追い払った。
「二人とも外へ出て。着替えたら呼ぶわ」
まだ何か叫んでいるが、レオとお父様は外へ出る。着替えたら部屋から出た方が良さそうね。レオの独占欲にも困ったものだわ。私の部屋に、お父様が踏み入るのも我慢できないんですって。
侍女の手伝いで手早くワンピースに着替える。髪型は凝らずに髪留めで軽く纏めた。鏡の前で確認してから出る。待っていたレオに手を差し伸べられた。断る方が面倒なので、素直に預ける。大喜びでエスコートするレオの後ろに、全開で振られる尻尾の幻影が見えた。
「シャル、面倒なことになった」
「先ほども伺いましたが、それほどの大事ではありませんわ。すでに手を打ってあります。そうよね、レオ」
「ああ。俺のシャルはいつだって完璧だ。すでに仕掛けは済んでいる」
満足げに頷くけれど、このゲスな作戦を決行したのはレオですからね。私は提案に同意しただけよ。
「貴族達が待っている。こっちだ」
客間を通りすぎ、食堂まで案内された。朝食も食べたいし、ちょうどよかったわ。どうやら客間では入りきらない、大勢の貴族が押しかけたみたい。開いたままの扉から、中の騒ぎが漏れ聞こえた。
「静まれ!」
お父様の一喝で、室内の雑音が消える。セレーヌ叔母様はゆったり構えているけれど、ユーグ叔父様は表情が硬い。お母様は優雅にデザートを食べていた。
「話を簡単にまとめよう」
指示を出したお父様の傍で、ル・ベル公爵が説明役を買ってでた。ヴァロワ王家の正当な血筋だと謳って、王女殿下が立太子する。ジュアン公爵家が御身を預かり、大切に保護してきた。そんな触れ込みだ。
国王陛下がまだご存命で、ヴァレス聖王国が事実上崩壊しているのに、何を言い出すのかと思えば……。大半はそんな反応だった。だが真剣に懸念を表明する者も現れる。仮にも王族の血を引く女性が、誰かと結婚したら。
生まれてくる未来の男児は、王位継承権を持つ。危険な芽は早く摘むべきだ。そんな意見が次々と皆の口を衝いた。不安が広がる前に対処しようと、意見は過激な方向へ向かう。
「落ち着きなさい」
「「姫様」」
いつから姫様になったのよ。私は大公女でしょうに。苦笑して首を横に振る。
「姫ではないけれど、すでに仕掛けは終わっているの。レオ、丁寧に説明してさしあげて」
笑顔で押し付ける。だって面倒なんですもの。視線を集めたレオは、胡散臭い作り物の笑顔で貴族に向き直った。




