56.竜に引かれて海を渡る
伯父様に関しては、ルフォルの農夫が引き受けてくれた。というのも、王だぞと権威を振りかざすように叫んだ結果、呆れ顔の農夫に叱られたのよ。なんでも性根を叩き直す、と預かる話が進んだ。
農夫にしたら農繁期の忙しい中、余計な騒動を起こした詫びに働け! となったの。伯父様は農機具なんて触れたこともないでしょう。普段食べているパンが、どれだけの労力の上に作られているか、学ぶいい機会だわ。
まあ、私も農機具は使用経験がないけれど。向こうで、視察の際に小麦粉を挽く作業は手伝ったことがあった。粉まみれになるし、くしゃみをすると爆発すると脅されるし。今になれば笑い話だけれど、楽しかったわ。
船を準備する間に、ヴァレス聖王国へ行きたい人のリストを作成する。レオと私が受付を始めると、商人や農民、漁師など、職種を問わず集まった。職人達も手を挙げ、向こうの技術を知りたいと長期の滞在を希望する者まで現れる。
ル・フォール大公領の領民である証書でも発行しようかしら。他国まで足を伸ばしそうな、好奇心旺盛な人もいた。貴重になっている水や食料を積み込み、着々と準備が整っていく。
王宮の修理は任せろ、とルフォルの分家貴族が請け負った。ル・メール侯爵は、家族の反対を押し切って乗船許可を申請する。初老の侯爵は息子に爵位を譲り、隠居の身になって参加を希望した。
古代語の翻訳や詩の解読だけなら、こちらに残ってもできると思うの。家族の相談を受けて、そう伝えると彼は首を横に振った。
「こういった翻訳は、実物を見たことで浮かぶインスピレーションが大事なんです」
強気で主張され、結局、奥様同伴で乗船許可を出した。この際だから、隠居後の旅行と思って楽しんでほしいわ。船は全部で五隻、うち一隻が魔法道具なしの曳航となる。来た時は一隻だったのに、四倍になるなんて。お母様達が驚くでしょうね。
事前に渡り鳥の魔法道具で、連絡を送った。どこかが攻め込んできたと勘違いされたら、迎撃されちゃいそうだもの。脳裏に浮かんだのは、叔母様の騎士であり執着心の強いユーグ様。思い込みで突っ走るタイプだと思うのよね。
船ごとに職種や地域が偏らないよう、名簿を調整して配った。あとは勝手に分乗してくれるでしょう。私達も乗り込み、見送るようにドラゴン達が港に並んだ。コリンヌは今回は船で移動だった。リュシーの背で海を渡らせたら、今度こそおかしくなっちゃうわ。
船が港を出てしばらくすると、ドラゴン達が追いついた。後ろから風を送り、波を抑えて引っ張る。専用の縄を引く姿は散歩中の犬みたいだった。本人達は楽しんでいるようで、交代しながら遊んでいる。
急に速度が上がり、船員達がばたばたと慌ただしく動き回った。帆が破れないよう、畳んでいる。
「壊さない程度に頼むわ」
声をかけると、ドラゴン達は甲高い声で行儀良く返事をした。
過去のご先祖様も、移住の時はこうだったのかしら。なんて、少し感傷に浸ってしまった。




