表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界シヴィライゼーション ~長命種だからデキる未来にきらめく文明改革~  作者: さきばめ
第二部 人脈つなぎし箱庭実験 1章「青春コネクション」
58/538

#44-3 国家のお話 III


「最後に、ここ【連邦】について。もっともある程度は知っているでしょうから──」

「あっボク実はあんまりよくわかってないから、せっかくだし初歩から頼める?」


 レドに頼まれたクロアーネはこちらを一瞥(いちべつ)し、俺もコクリと首を縦に振ってお願いした。

 俺自身、認知している情報も違うかも知れないし、改めて聞くことで見えてくるものもあるやも知れないと。


「連邦は元々、数多くの都市国家群による連合国家でしたが、締結後にほどなくして東部と西部に分かれました。小さき者たちが巨大な国家に対抗する為の同盟のようなもので、足並みは決して揃っていません」


(俺たちが今いる学苑は連邦西部領内を移動している──"イアモン宗道団(しゅうどうだん)"も連邦内にあったが、まぁほぼ閉鎖空間だったな)


「【諸島】のある"内海"を挟んで東西に分けられ、同じ連邦でも毛色はかなり違っています。ここ【アールシアン西部連邦】は帝国と共和国と魔領、湖を挟んで皇国と接していて、外交摩擦が少なくありません。

 一方の【エイマルク東部連邦】は共和国と王国に接し、海流や"海魔獣"の影響過大なものの……一応"外海"を通じて、極東とも本当にわずかですが交易をしているという話です」


「なーなークロアーネ、東部と西部って何で分かれたん?」

「さぁ? 仔細は昔のことで明らかではなく……ただ単に広すぎたという話も聞きます」


「連邦を一つの国として見た時に、東西では別の国と言っていいほど文化がちがーう(・・・・・・・)んだよな?」

「根本的に都市国家が主要国への対抗として連合形態を取っているので、細かくは全都市が違いますが……ただ大きな(くく)りとして見た場合でも、西と東では(なま)りを含めてかなり差があります」


「内海が大きく挟んでいて、陸路の交易がしにくいからねぇ」


 実家の仕事柄、交易業の一部を既に担っているファンランは実体験のように語る。



「確かに地理的要因も大きいですが、それ以上に"大魔技師と七人の高弟"の存在が大きいでしょうか」

「だいまぎし? 誰よ、そいつら」

端的(たんてき)に言えば、生活用の魔術具を一般にまで広めた人物……それも弟子を通じてそれこそ世界中に」


「歴史に名を残す偉人だね」

「大魔技師本人もさることながら、その弟子らもほぼ例外なく偉業を達成している超人集団だな」

「共和国を建国したのも弟子の一人ですし、"使いツバメ"を利用し冒険者ギルドの前身となる組織を作ったのも別の弟子だそうです」


「つまりわたしら全員が恩恵にあずかっているし、魔領の文化だって彼らのおかげなんだよ、レド」

「魔術具なんて初代魔王の頃(・・・・・・)からあるじゃんか」

「いえレド、ですから──」


 俺もクロアーネもファンランも教養を備えているが、少なくとも人領の歴史には(うと)いレドが一人、クロアーネから詳しく説明を受ける。

 それを傍耳(はたみみ)で聞きつつ、俺は俺で思考を巡らせる。

 


 大魔技師──連邦東部地方に生まれた、初代魔王と並ぶ歴史上最高の天才と称される人物。

 現在の大陸における魔術文明は、魔術具と切り離すことはできない。

 今の世界は彼とその弟子らによって作られたに等しい、と断言して良いほどである。


(俺がやろうとしてることの、言わば"先駆開拓者(パイオニア)"みたいなもんだな──)


 彼は魔術具を精製する為に、必要だった高等技術を低減させて革新をもたらした。

 今まで誰も思いつかなかったような用途と、それを実現する魔術具を開発・実現させた。

 そして弟子達は各国へと派遣され魔術具と製法を広め、一般市民にまで広く普及させていった。


 魔術具は神領を除く全てを席巻し、その素晴らしさを拡散させていったのだ。 

 それゆえに連邦東部の言語は、世界に広く通じることと相成(あいな)った。


 東部は未だに天才を輩出した栄光と、発祥の尊厳を忘れられずにいる国民性のような部分が残っているのだとか。



(大魔技師は確かに魔術具を改良し広めた。が、それ以上に──)


 これは俺だけ(・・・)が疑問に思えることだった。

 大魔技師が広めたもので最も興味深いのが、"単位規格"である。

 秒・分・時・日、長さ・重さなど、度量衡(どりょうこう)地球のそれ(・・・・・)とほぼ同じに思える。


(元の基準点となるものがないから、俺としても正確に計測しようがないが……)


 しかし生活している上で、10進法や60進法なども常識として認知されている。

 一年は400日だし、5季で構成され一週間は8日など、星の風土そのものの違いはあるものの……。

 細かく見た時の基準は、元世界と変わらず存在しているのだ。

 動植物や組成にしても類似点が数え切れないほどあり、これらを偶然の一致としてしまうか、それとも──



「──ということです。調理用の魔術具一つとっても、大魔技師がいなければ成り立っていなかったことを忘れないように」

「はっはぁ~……全然知らなかったなあ。ボクも知らず知らず毒されていたとは」

「ま、便利なのはいいことさね。何事も過ぎることがなければ──ね」


 かの偉人がそれを望んでいたのかはわからない。しかし予見はしていたことだろう。

 安価に生産が可能となった魔術具は、生活用のそれではなく戦争用(・・・)にも開発されていく。

 純粋に魔物への対抗策として使われた物も、"人を殺す道具"として使われる。


 強力な魔術士以外にもより多くが戦争に参加し、その規模は大きいものとなっていった以降の戦史。

 利便性が増して得たものは大きい、しかし失ったものもまた小さくないのである。



「連邦の合議制はきちんと機能しているのか?」


 連邦は各都市国家に委任された代表を、一堂に会して方策を決める合議制である。

 その中から他国への外交折衝(せっしょう)役として、"総議長"が一人と各担当長が投票で決定される。


「東西のみならず都市国家ごとの気質が色濃い為に、それぞれの利害が交錯していますね」

「一枚岩には程遠い、と」

「都市国家間の軋轢(あつれき)は表面化し、近年は戦争で矢面に立たされる都市群への支援体制など……。恐らくは帝国からの離間工作などもあり、盤石とは言えないことを有耶無耶(うやむや)にできないでしょう」


(共和国もそうだがネガティブな情報が多いな……)


 魔術文明があったとしても最速が"使いツバメ"くらいで、いわゆる情報伝達技術が不足している時代。

 大魔技師がそれを思いつかなかったか、知っていてやらなかったのか──

 いずれにせよ遠距離通信は、非常に限られた稀有なものなのである。


(やはりどうしたって熟成されてない民主制などよりは──)


 社会体制としてわかりやすく認知されている君主制のほうが、色々合致しているのかも知れない。



「特に"大地の愛娘"によって魔領側からの"人領征"がなくなってから、それなりに年季が経過しています。その分だけ浮いた軍事支援の分配、防衛がなくなったことで力を蓄えている魔領前線都市の対応など──」

「自都市の利益を優先し、いかに出し抜けるかを各都市が考えているってことか」

「はい、連邦から脱退するような動きなども見られているようですね」


「競争相手が多いってのは、それだけ邁進(まいしん)し、発展を(うなが)すものではあるんだろうが……悩ましいな」

「確かに(みつ)に繋がった都市国家間の各種産業や経済は、互いに大きな影響を及ぼしていますね」


 クロアーネは「良くも悪くもですが」と付け加えて話を締める。



 都市国家の清濁を併せ呑み、上手く結合・連鎖させるのはかなり困難。

 しかして実現できたのであれば、最高の潜在性(ポテンシャル)を発揮できることもまた事実。


(条件さえ整えられれば、連邦は"科学勝利"を狙えそうだな──)





 調理科での話を終え、俺はベンチに座りながら黄昏時の空を仰いだ。

 クロアーネへのお礼は改めてするとして、伝え聞いた国の情報を整理する。


 王国、皇国、帝国、共和国、連邦──テクノロジーの進捗(しんちょく)を、考えながら随時見極めていく。


 いずれ国家を打ち立てることがあった時、少なくとも寿命の問題は少ない。

 であるならば民主政治より、専制政治を()るという選択も大いに有りだろう。


 スィリクスの(げん)と思想ではないが……長命種だからこそできる統治というものがある。

 共和国や連邦を見るに、もっと近現代に近付かないと共和制というものは正常に存続しにくい様子。


 地球史における、かの大ローマとて……結局は共和制から帝政へと戻ってしまったように。

 劇的(ドラスティック)な改革をするならば、やはり強力なカリスマある指導者であるべきだ。


 異世界文明に広げていくのなら、共和制はあまり政治形態としては向いていない。



(もっとも俺自身が君主になるのは御免こうむるが……)


 遠い未来に心変わりしないとは断言できないが、少なくとも今は王様になりたいといった欲はない。

 あくまで君主とは権能を振るう為の手段であって、目的とすべきではないのだ。


 既存(きそん)の国家勢力に"文化"を浸透させ、実効支配し奪い取ってしまう方法──

 どこかの都市国家や地方を治める領主と土地に取り入り、拡げてのし上がっていく方法──

 いっそ自分達でどこか最適な立地に、独立国家を作ってしまう方法──


 別段、国家に拘泥(こうでい)する必要性はないのだが……しかしどうせなら国取り合戦もしてみたい、というのは偽らざる本音であった。



(大規模に一元化(いちげんか)できれば、他国家をコントロールしやすいという側面を否定できないしな……) 


 なんにせよ大きな(マクロ)視点で語るには、小さな(ミクロ)進行状況も参照していかねばならない。


 黎明期となる今も、考えることは山積みで大変である。

 過渡期へと入っていけば、さらに面倒になってくるだろう。


 いずれはあらゆる方面が円熟に育ち、俺は指針のみであとは専門家達が固めてくれる──そんな風に早くなってくれれればと、ひとりごちるのを終える。


 俺は立ち上がって伸びをすると、自室寮への帰路へと着いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ