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異世界シヴィライゼーション ~長命種だからデキる未来にきらめく文明改革~  作者: さきばめ
第二部 人脈つなぎし箱庭実験 1章「青春コネクション」
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#36 冒険科


 "ヘリオ(オレ)"は学苑内──ではなく、学苑を乗せた魔獣ブゲンザンコウの進路の近くに存在する、一つの小さな都市国家にいた。


 学苑生は外と様々な関わりを持ちながら社会奉仕をすると共に、実践形式の課題をこなしていくのが常であるらしい。

 戦技部冒険科に属する新季生も漏れなく、早々に都市派遣という形で街へと降り立っていた。


 オレは真っ直ぐ歩きながら、直近の話を思い出す。



 冒険科棟へ入ると、まず待ち構えていた偉丈夫(いじょうぶ)な印象を受ける学苑講師に捕まった。


「鬼人族の新季生、名は?」

「……へリオ」

「良い名だ。おれは"ガルマーン"、戦技部冒険科と"英雄講義"を担当している」


 2メートル近い体格に、筋肉質の鎧を身に、声もなかなかに野太い。


「英雄講義ィ?」

「知らないか。主に単独における戦闘法や生存技術といったものを個人に適した形で教える、選ばれた者だけの特別講義だ」

「へぇ~英雄(・・)ね、まっオレの(しょう)には合わんが」

「おまえが優秀であれば、あるいは機会に恵まれるだろう――さてヘリオ、きみは冒険科志望で間違いはないな?」



 あらためて(たず)ねられて、オレは肩をすくめつつ答える。


「だったらココには来てねェよ」

「そうは言うが、今はまだ見学・体験期間でもあるからな。もっともその様子では既に心には決めているようだ、であれば適性を見よう」

「適性ぇだ?」

「そうだ、まずは()で冒険者組合(ギルド)に登録。なんでもいいから仕事を一つ請け負い、達成して帰ってくるんだ」

「いきなりかよ」

「何事もまずは実践ということだ、特に冒険者稼業というものはな。それに案外自分には合ってなかったということもありえる」

「……あっそ、まあ別にいいけど」


 オレは一つだけ嘆息を吐く。面倒にも感じるが、しょうがない。



「今少し行った先に湖があり、そこでおおむね一週間ほど学苑は停泊(・・)する。それが期限の目安……とはいえ学苑に"自力で戻れる"のであれば、自由だ」

「この"巨大亀"が出発して移動しきる前にってことか」

「最悪の場合、来季あるいは来年からでもまた新たに受け直せば済むからな」

「来年また亀がやってくるまでこの土地に住み着いたとしたら、学苑なんざどうでもよくなるだろ」


「ふっはっははは! それはそうかもな。では必要な物資は学内の貸し出しか、管理事務棟にて一時支度金の申請も受け付けているから利用するといい」


 冒険科講師ガルマーンは、その後も端的な説明だけをして|新季生《オレを送り出した。

 授業の時間となれば懇切丁寧に色々と教えてくれたセイマールに比べると、随分と放任な印象が(ぬぐ)えない学苑と講師であった。





「あなた、新季生ですわよね?」

「あァ? いきなし誰だよ、てめーは」


 街中で歩を進めていて、唐突に行く手を阻むように現れたのは──クセのある長い金髪が揺れる同年代の女であった。


「うっ……なかなか(ガン)付けてくれますわね。ですが誰しも対話をしてみないと始まりませんわ」

「そいつぁ殊勝な心がけってやつだな」


 そう言ってオレは女の横を、無視するようにすり抜けていく。



「"カドマイア"!」

「はいはい、お(じょう)


 すると呼ばれた男──くすんだ黄土色(おうどいろ)したサラサラの髪で片目をやや隠し、甘ったるい表情(マスク)を貼り付けたカドマイアとやらが行く手を阻む。


「少しくらい情報交換をしてもよろしいとは思いません? わたくしは"パラス"と申します」

「……」


 オレは少しだけ考える。

 確かに基本的な教養はあるものの……外の世界は未知数と言ってもよい。


「わかったよ、オレはヘリオだ」

「よろしくヘリオさん」


 渋々ながらも3人連れ立って歩く。

 せっかくの新生活なのだから、家族以外にも交友を広めなければなるまい。

 あまりにも排他的だとジェーンに(たしな)められ、ベイリルから小言が飛び、リーティアにバカにされることだろう。



「ヘリオさんは今向かっている冒険者組合(ギルド)が、どんな場所かご存知ですか?」

「行ったこたぁねえな」

「僕らにご教授願えます?」


「知らずに冒険科に入るつもりなんかよ」

「ワクワクしませんこと?」

「僕たちは見識を広めたいんです。そういう意味で冒険者は都合が良い」


 オレは既に故人となったセイマールの授業を振り返りつつ、自分でも改めて確認する意味を含めてパラスとカドマイアの2人に説明する。


「そうかい、まぁあれだ……オレも聞きかじりだぞ。冒険者は多岐に渡る種々雑多な依頼を受け、内容を達成することで報酬を貰う職業で──」


 一般人には難しい探索や討伐といった依頼を、組合を仲介して請け負い、成果報酬を受け取る仕事である。

 魔物・災害・犯罪者といった、国家やその他社会機構に頼っていては初動が遅れてしまう有事に即時対応する為の自浄作用とも。

 また資源採集や物資の輸送・護衛など、経済の発展と循環にも寄与している独立独歩の気風が強い組織。


 そして種族・身分・貴賎(きせん)などを問わず、英雄となる者達は富と名声をほしいままにする。

 中には特定の村や街などに住み込み、恒常的および緊急時に即動けるような"専属"なども存在するらしい。



「──とまぁ危険も少ないないが、食いっぱぐれは少ないらしい。実力が(ともな)えば、な」

「なにせ国家間(・・・)をまたぐ組織ですものね。いったいどういう権力なのでしょう?」

「……あんま詳しく覚えてねえが、確か"とある偉人の弟子"がその設立に関わってるって話だ」

「へぇ?」


 オレはベイリル(おとうと)から聞かされた話を、それっぽく伝える。


「"使いツバメ"を知ってるだろ」

「もちろん。便利ですわよねぇ──遠くまで、確実に、快速で手紙を届けてくれる。しかもかわいらしいこと」

「なんでもその仕組みを最初に作ったらしいぜ」


「僕ら見識不足で申し訳ないですが、そんなことで国同士の摩擦を越えられるほどの規模になれるものなるんですかね?」

「そこまではオレも知らね。まーーー手紙のやり取りを監視できりゃ、弱味とか握れるんじゃねえの?」



 ベイリルはそんなようなことを言っていた。

 "情報"は(ちから)──その権益を一部でも握ることができれば将来的に強力な武器になると。

 ただ今の使いツバメは"品種改良(こうはい)"だかの結果と魔術的要素も含むらしく、簡単にはマネできないとかなんとか。


 そうした使いツバメを用いた迅速な情報のやり取り。

 強力な魔物を駆逐できる実力者(ぶりょく)の保有。

 長年積み上げられた実績と根回し。

 富と権力を持つ商人などの支援と庇護。

 国費を使うことのない、領内における治安維持の貢献と必要性。


 さらには現在既に国家間をまたいでしまっているがゆえに、今さら外交問題に発展しかねない問題も(はら)む。

 それゆえに各国は冒険者組合(ギルド)に対して、反感を買うような余計な干渉は()けうるようだった。

 また組合(ギルド)側も同じように承知していて、戦争行動や政治活動に類する利益行為は組合(ギルド)内で依頼したり請け負うことを禁じているのだとか。



「はえ~~~なるほどですわ。たしかに王様や貴族も当たり前のように使いますから、封蝋(ふうろう)で中身が見えずともドコに向かうかだけでも結構なことが把握できますわね」

「たとえ弱味を握られ脅されるとしても、圧倒的な利便性を考えれば使わないわけにもいかない。巧妙に考えられているわけと」


 納得する二人を見て、オレは「軽々に言い過ぎたか」と思いつつも……既に口にしてしまったものは「まあいいか」と心の中で開き直る。

 とはいえこれ以上突っ込まれる前に、話題を変えることにする。


「つーかてめえらも言われたんだろ? 冒険者登録して、とりあえず依頼やってこいってさ。……それもう学苑に籍を置く意味あんのかねえ?」

「そのまま冒険者になって身を立てたほうが手っ取り早い気がしますわね」

「学苑の方針としては、なかなか請け負ってもらえないような仕事の消化にあるらしいですが」


『そうなのか(ですの)?』


 オレとパラスの声がハモり、カドマイアは呆れ顔をぶつけてくる。



「お嬢は一緒に話聞いてたでしょう。周辺地域との密着・貢献を(むね)とするのが"学苑長"の方針だとかで──」

「ほーん、学苑長ねぇ……」

「そういえば"幻想の学苑長"という七不思議がありますわね。存在はしているのは間違いないらしいのですが、その姿は誰も見たことがないという……」


「なんだそりゃ、七不思議?」

「学苑に伝わる不可思議……"咆哮する石像の竜"、開かずの学苑地下迷宮(ダンジョン)、それに"五百季留年(ダブリ)闇黒(・・)校章"──」

「つーか耳早いな」


「お嬢は噂好きなんで」

「残りのも早く調べたいですわ」


 役に立ちそうもないが、さしあたってベイリルに話を振っておいてもいいかも知れない。

 ジェーンはともかく、リーティアなどは「調べよう!」などと言い出されても面倒になるので黙っておくが。



「ついでに言いますと、わたくしたち在校(ゼロ)年は()、一年過ぎると()、二年()、三年()、五年()、七年()、十年()──」

「聞いてねえよ」

「ちなみに学苑長は"()色"らしいですわ」

「幻想じゃなかったんかよ、知られてんじゃねえか」

「それもそうですわね、でも噂なんてのは尾ひれがつくものでしょう?」

「まっ誰が何年いようが知ったこっちゃねえ、別にそれだけで偉いってわけじゃねェんだからな」


 オレがそう返すと、パラスはキョトンとした顔を浮かべてから……どこか納得したような笑みを浮かべる。


「……そうですわね。身分にしても、ただ生まれ持ち得ているというだけでは──敬意もへったくれもありません」

「僕らもただ年を重ねるのではなく、見合った知識と経験を積みたいものです。ヘリオくん、なかなかいいこと言いますね」

「うっせえわ」


 毒づいてみるも、案外悪くないやり取りであることに気付く自分がいる。



「あっ! 見えましたわ!」


 北門から南門まで横断したところで、ようやく目的の建物へとオレたちは歩みを速めて到着する。


「そんじゃ、ここで解散だな」

「えっ? わたくしたちはパーティを組むんでしょう?」

「ですよね」


「なんでだよッ!!」


 前言もとい前思撤回、やはり面倒な連中であると思い直しながらオレは叫んだのだった。



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