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異世界シヴィライゼーション ~長命種だからデキる未来にきらめく文明改革~  作者: さきばめ
第六部 権謀うずまく帝国動乱 1章「帝国と竜」
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#350 傭兵雇用 II


「あんたがた! 間に合いましたかい。ちっとばっかし乗り気じゃなかったようでしたけど」


 赤砂岩の山の上から一足飛びに、遅刻してきた男女が揃って着地する。


「ぃよッ、やっほーい! いや、アニキがうっさくてさー、遅れちった」

「……まあよ、拝むくらいは無料(タダ)だしな? 雇い主がどんなもんかと──」


 そう言って値踏みするように下から上へと俺を見つめてくる二人を、俺もまた注視する。


「雇われる気ぃあるんなら、二人ともまずは自己紹介してくださいよ。それともおれっちから紹介しましょか?」

「おーーー? ぉ~~~、どうすっかな」

「ん~~~あたし的にとりあえず身だしなみは合格!」



「紹介されずとも知っているよストール、"明けの双星"オズマとイーリス兄妹だな──」

「あれれ~どっかで会ったっけ~、ハーフエルフのおにいさん? 年上? 年下?」

「一応年下かな」

「顔を覚えるのは得意だ、あんたは知らん。さてはおれたちを陰ながら応援してる、謎の支援希望者か?」


 赤黒い髪をオールバックにツンツン尖らせ、右眼だけが虹色に輝くオッドアイの男。

 同じく赤黒い髪を肩ほどまでに(ふた)つ結び、左眼だけが虹色に輝くオッドアイの女。


「まぁ直接の雇用主ではないが、話をよくよく聞いて知ってるよ。その身に付けている"TEK装備"についてもな」


 オズマの(ほう)は弓なりに(アーチ)(えが)いた剣を背中に、イーリスは両刃の剣を両腰にそれぞれ一本ずつ差していた。


「へぇ? コレを知ってるってこたぁ、つまりあんた財団関係者ってわけかい」

「ふっふっふ、そういうことか。財団であたしらの風聞を聞く内に、直接の援助を希望したくなったと──」


 あくまでペースを崩さない二卵性の双子を無視して、俺ははっきりと告げる。


「先に言っておくと、俺は財団……いやシップスクラーク商会創設者の一人だ」

『……うん?』


 二人して同時・同方向に首をかしげてるのを見て、俺はフッと笑みを浮かべる。



「シップスクラーク財団以前、商会最初期からあやふやな情報で数多くの"資源"発見に尽力(じんりょく)してくれた銀級冒険者──」


 技術や医療に必要な化学資源や生物資源類。また特定の金属鉱石類、

 あるいはゴムの木やその他樹脂類。

 さらには香料・調味料やカカオといった多様な食材類。


 有能な人材も潤沢な資金も確かな技術力も無かった頃でも、先行投資として各方面に依頼していた資源収集。

 未だ明確な用途を見出せていなかった曖昧な現代知識によって、とりあえず(・・・・・)で探索させていた中で──多くの素材を発見し続ける二人組がいた。


「発見・捕獲・運搬いずれも困難な"トロル"を、新たに何匹か確保してくれたのも知っている。他にも強力凶悪狂暴な魔物素材をいくつも納品してもらっているのもな」


「創設者ってマジか、そんな昔から知ってる……ってこたぁ財団でも大幹部とか?」

「まぁ一応な、半分は俺の依頼で動いていてもらっていたと言えるかも知れん」

「ほんとに!? おかげさまであたしたち、もう金級だぜぃ。と言っても途中から財団の"専属"だし、等級なんかどうでもよくなったけど」



「ベイリル・モーガニトだ、改めてよろしく」


 俺はスッと両手を差し出し、オズマとイーリスはそれぞれ右手と左手で握手を返してくる。


「財団に深く関わっているから熟知しているだろうが、一応俺ののことは口外厳禁(オフレコ)で頼むぞ」

「わかってら」

「きみって優良物件?」


 イーリスの言葉を笑い流しつつ、俺は残された男へと口を開く。


「ガライアム殿(どの)も、契約の中に秘密保持が含まれていますので──」

「……興味がない」

「そうですか、ならいいです」


 放浪の傭兵家業を長年続けているのならば、余計なことは言わず・詮索せずは刷り込まれているに違いない。



「んーーーちょっと待ってくれる? あたしらってきみに雇われることになったの?」

「いや俺としてはそのつもりはない。長年の貢献と信頼、強度も申し分なさそうだが……財団の業務を優先してくれ」


 どうやら賑やかしで来たような様子だったので、無理に引き止めるつもりもなかったが……オズマはニッカリと笑って目を細める。


「イヤ、興味本位だったが……おれたちはあんたに雇われると今決めたぜ」

「……アニキ?」

「気持ちはありがたいが財団にとって有益な人材を、俺の所用の為にわざわざ()かせたくはないな」


 "明けの双星"の二人はシップスクラーク財団でもトップクラスの達成率と信頼度の高い冒険者であり、俺の一存(いちぞん)で自由にしたくはなかった。



「モーガニトさんよ、おれたちはもう財団に十分稼がせてもらった」

「ねぇアニキ、まだまだ物足りないなくない?」


「イーリスも聞け。いわゆる"投資"ってのを財団から学んだからな──おれたちもそろそろ雇われ冒険者稼業から脱却しても良い頃だって思わないか?」

「そうだね、つまりここでベイリルさんと仲良くなって、金銭だけじゃなくイロイロとお世話してもらおうって算段だ?」

「確かに俺ならサイジック領の一等地なんかも都合できるし、今後のテクノロジー開発に必要な資金提供を(つの)って配当を保証することもできる」


「おぉ……すげぇ、ソレソレ! そういうのが魅力なんだよ!」

「ただし! その場合は正式に財団員として加入してもらうことになるかな。俺の記憶が確かなら……二人は専属と言っても永年契約でもないはずだ」


「別にいいぜ、財団員になったら報酬関係がややこしくなるっぽかったから敬遠してただけで」

「こうやって恩を売って見通しが立てられるなら、いくらでも財団員になっちゃうねぃ。フリーマギエンスにはどっぷり染まっちゃってるし、あっ……"ライブ"のチケットとかももしかして取れたりできる?」


「バックステージパスも余裕かな」

「うっひょー、あたしがんばっちゃうよん」

「んじゃこの依頼……いや、契約成立ってことでいいよな? よろしく頼むぜ、モーガニトさん」


 ガライアム、オズマ、イーリス──こうして三人が新たに戦力として加わる。


「まぁ本人らがそこまで希望するところなら……俺としても頼らせてもらおうか」

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