第72話 魔王同盟とエリカ戦
1週間後。
ビスカは新しい仲間を引き連れてようやく帰還した。
戻るとダリア商会のシエル支部から人がほとんど消えていた。
居るのは支部長だけになったそうだ。
支部長の女性は戦う気がないことを自分から言ったらしい。
だから、彼女だけは支部長だけど殺さずに証人にすることが決まっている。
ビスカはそういう報告を聞いてからすぐに会議を開いた。
今回は自主的に魔王達が集まってくれた。
だから、簡易的な魔王集会が開催される。
「あー、もう話は聞いてると思うけどさ。あのエリカが敵として動き始めた。もしもの時に備えて【魔王同盟】を知らせておく」
「わしらに入れというのか?」
スペラーレは不思議そうに尋ねた。
ビスカがそれに答える。
「入るかどうかは自分で決めてほしい。同盟の目標は平和だけど、それを脅かす敵の排除も目的にしたいと思う。その相手がダリア商会だ」
「被害は出ているのですか?」
今度はルーチェが尋ねる。
「ダリア商会は本性を隠さなくなった。そのせいで短期間に被害が出た。一番の被害は魔王アイゼンの死だ」
ここで初めて多くの魔王が彼女の死を知った。
それで動揺が一気に広がった。
ビスカはそれを鎮める。
「彼女の死は悲しいことだが、ここでどうにかしなければ次の被害が出る。次に狙われるならデモニオかマーレかオスクリタか、あるいは私だ」
「何故そう思う?我らが狙われないのは何故だ?」
「どうして襲われないと言える!ダリアには関わっているんだ!狙われてもおかしくないだろう!」
マリスとレイの言葉に答える。
「理由は証拠を持ってることと、積極的に調査してるからだ。私とオスクリタは犯罪化させるために調べている。それが行き過ぎたから私が狙われてると思う」
「余が狙われないのは深くまで調べられなかったからだろう。敵対を表明しているアラーニャが狙われないのは、放っておいても平気だと思われているからだな」
「心外です!私は一度も外に向けてダリアは悪なんて言ってません!」
「余はそれに近いことを言ってるのを聞いたぞ?どこかの演説でな」
「確かに言ったかも知れません。なら、いい機会なので正式に敵対しましょう。もう怪しいを越えましたから」
「では、後で同盟にサインして。私が用意するから」
「分かりました」
これで1人確保だ。
出来れば全員が味方だと助かる。
このタイミングで久々にやって来たムーミエが口を開く。
「奴らには貸しがある。私達もおぬしらの同盟に入れてもらえぬか?」
「構わないよ。仲間は多い方がいいからね」
「最後は大同盟として国でも作るか?クスクス」
ムーミエは冗談のつもりでそう言った。
しかし、そのせいでビスカの夢が増えてしまった。
それについてビスカがニヤリとしてから話す。
「出来るならやってみたい。今まで出来なかった魔族の団結を見たい」
「おいおい!冗談だぞ?友人は冗談も通じないほど脳筋なのか?」
そのムーミエの発言にマキナが反応する。
「夢を追うのが好きなんですよ。ビスカは好きなものに全力を注げます。だから、魔王を育てて建国記を書いて見せろなんて言うんです」
「新参の国の魔王には必ず言ってるのか。一番は自分が読みたいからとは、とんだ変人だな」
「それがいいんですよ。私は魔族らしくないから親友になりました。あの子なら本当に夢を叶えるって思えるんです。魔王になりましたし」
ここで魔王マリスが口を挟む。
「どんな形でも叶えばそれでいい。そんなことを考えられる時点でズレている。そのズレが時には必要になる。だから、我ならビスカに賭ける」
「おぬしまでそんなことを言うのか。ビスカにはそれだけの力があるのか?」
「我はあると思っている。なければ異常すぎる子供のために本来出禁の魔王まで来るか?」
魔王マリスはそう言いながら巨人を指差した。
デカすぎて中には入れていないが、わざわざ遠くか来てくれて話を聞いてくれている。
「彼が来たのは希望を賭けたからだ。ビスカなら何かをやってくれると、噂から知った情報でもそう思えたんだ。そうでなければここに居ない」
「ふむ。なるほどな。おぬしがそこまで言うなら私も友人に賭けてみよう」
そう言うとムーミエは大切な杖をテーブルに置いた。
「魔族がまとまることに賭ける。はずれたら折ってくれて構わない」
「よいのか?妾は本気にするぞ?」
ブルームが野暮なことを聞いた。
それに対してムーミエは自信満々に答える。
「本気にしてくれて構わない!私はダリアにも勝てると思った。だから、ビスカに全てを賭けてみる」
「それはよい判断だな。では、妾も信じてみよう」
ブルームはそれを言ってからすぐに体をビスカに向ける。
「ビスカよ。その気はあるのか?」
「ある!それに、これができれば大陸を魔族で封鎖できる。魔族の国は大陸の外側に集中してるからな」
それを言われて初めて魔王達は気付いた。
確かに人間の国は内陸に集中している。
エリカが大陸外に出る気があるならそれを封じられる。
それだけでも同盟を結ぶ価値はある。
ついでにエリカを包囲することまで出来てしまう。
このチャンスを逃す手があるだろうか。
「エリカは敵だ。信じるならこれにサインして欲しい。信じなくても魔族間の安全を手にするチャンスだぞ?」
こんなことを言われたら争いにうんざりしている老人達はサインしてしまう。
これでスペラーレ、ブルーム、ムーミエ達、巨人は確保できた。
その後に他の魔王達も釣られてサインした。
これで今いる魔王達は全員が【魔王同盟】に参加したことになる。
元々はその頂点にオスクリタが立っていたが、どうやらビスカに譲ったらしい。
オスクリタはダリア戦のために頭を使ってるようだ。
「さて、それじゃあ仲間としてみんなに言わせてもらう。私はエリカを最後まで殺さない。それは最終手段だ」
ビスカが急にそんなことを言うのでオスクリタは驚いて聞き返す。
「最後まで殺さないと言ったのか?」
「そうだ。確かに悪人だけど目的を達成するために動いてるだけだと思うんだ」
「だからって殺さないなんて無しだろ。エリカは何度も儀式に挑んだ可能性がある。それなのに止めないなんて無しだ!」
「殺したって戻ってくる。それならイニーツィオの時のように封印した方がいい。殺すのは封印も説得も出来ない時だ」
「はっ!?」
そう言われて魔王達は意表を突かれたような反応をした。
オスクリタも予想外だったらしい。
「そこまで考えてたのか。これは余の負けだな。好きにしろ」
「そうさせてもらう。あと、今後を考えて魔王の育成には力を入れようと思う。決戦はもうすぐだと思うから」
「分かった。余も従おう」
全員がビスカを魔王の頂点にしようと思う。
ビスカはそれだけ魔王達に気に入られたのだ。
そういう空気に変わり始めたところでエリカの魔力を全員が感知した。
その直後にダリア商会シエル支部が爆発された。
その光景が会議室の窓から見えた。
彼女は急にやってきて強力な爆弾を投下したらしい。
それで敵に回ると分かっていた支部長を処分したらしい。
いや、残念ながら彼女は無事だ。
寸前で彼女はこの会議室に瞬間移動した。
「失礼します!あと、すみません!エリカがもうすぐ来ます!」
支部長は会議室に入るなりそう言った。
その直後にエリカが窓を割って入ってきた。
「おやおや。魔王がお揃いのようで」
「エリカ!仲間でさえ殺すのか!」
「裏切り者は仲間じゃありません。なので、処分します」
エリカはあの剣を再生成して支部長に向ける。
それを振るだけで彼女は死んでしまう。
それを知っているビスカとコルノが止めに動く。
「やらせるか!」
「これ以上はやめろ!」
「やめません!どちらも遅すぎです!」
3人はコンマ数秒の差を争う。
その争いにオスクリタが参加する。
彼は闇を操ってブラックホールを生成する。
「闇に消えろ」
その吸引力は凄まじい。
危険を察知した魔王達が全力で床にしがみついてどうにか耐えられるというレベルだ。
それはエリカにも聞いている。
だから、手を滑らせて感を飲み込まれてしまった。
オスクリタはそのままエリカ本体を吸い込もうとしたが、あの剣の異常な性質がブラックホールの中からオスクリタを襲う。
「ガハッ!なんで吸い込んだ物が攻撃できるんだ!」
「そういう代物ですから。万能なんですよ?」
これはたまらないと思ったオスクリタはブラックホールを解除した。
その時にはもう支部長の姿が無かった。
どうやら瞬間移動したらしい。
魔王マギアがアイコンタクトでそう言っている。
「あら、もう居ないんですね。これでは探し回るだけ無駄でしょう。なので、次のフェーズに移ります」
そう言うとエリカはまた飛ぶための装置を作り出した。
それで高速移動しながら窓から出て行った。
魔王ミューカスはその方角からどこに向かってるのかに気づく。
「あいつは聖騎士団の本部を目指してる!破壊するつもりだ!」
「そんなことさせるか!私のシエルで暴れておきながら逃げるなんて許さない!」
「なら、指揮を取れ!魔王達はお前に従うと決めた!だから、やってくれ!リーダー!」
魔王デモニオがそう叫ぶ。
それに魔王達が反応してビスカに対して跪く。
本来なら魔王になった時点で上なんて存在しない。
それなのに彼らはビスカを頂点として認めた。
ビスカはこの世界に救われてきた。だから、これが恩返しになるならやるしかない。
「盟主として扱ってくれ。その最初の仕事として指示を与える。マリス、デモニオ、レイ、コルノは私について来て!イニーツィオ、ラビアラ、アラーニャ、マキナは魔王育成を急いで!その他は同盟国の戦力をまとめておいて!戦えそうにない奴らは避難させて!」
「「「了解!」」」
それぞれがやるべきことに向けて動く。
ビスカは魔王達を引き連れて飛んでいく。
本当は瞬天で移動したいところだが、魔王レイ以外は持っていないらしい。
だから、出来る限りの速度で奴を追う。




