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第66話 ネクロユートピア

 呪われたビスカは一応魔王イブリッドを助けに行こうと歩く。


 しばらくして魔王イブリッドの姿が見えて来た。

 どんだけ遠くに飛ばされたんだよ。

 てか、あれは本当に魔王イブリッドなのか?


「おぉー!無事だったか!やはり強んだな!思った通りだ!」


「あー、うん。で、本当に魔王イブリッドなの?」


「決まってる!我は我だ!」


 神々しい狼の姿をされても説得力がない。

 てか、獣人は魔獣と逆に獣になれるらしい。

 こっちの姿が戦闘形態と言ったところだろう。

 ビスカでも即死がなければ苦戦する相手を彼は全て倒してしまっている。

 彼はシュッと一瞬で人型に戻るとビスカの腕に気づいて走って近づいた。


「これは、呪いだな!それも解呪が難しいものだ!」


「敵のカースって奴にやられた」


「解呪したいなら専門家を頼るべきだな!頼らなければ帰れないぞ!」


「えっ!?まさか魔法に影響があるとか?」


「魔力妨害もあるようだ!これでは確定で歩きだな!」


 マジかよ。

 でも、遺体は歩きだと腐るだろう。

 マーチだけはあれで帰らせるしかないな。


「ビスカよ!お前の仲間は我が責任を持って帰してやる!だから、お前はなんとしても呪いを解け!」


「と言われても誰が解けるのよ?」


「ネクロマンサーだな!人型の魔族の中で1番危険な連中だ!魔女と共に暮らしてることが多いぞ!」


「それってシエルに帰るまでに居るの?」


「大陸の中央付近に居るな!最近は色々あって移動したそうだ!途中に別の魔族もいるから助けてもらうといい!」


 それしか方法がないなら仕方ないか。

 数日ほど他の連中に任せよう。


「分かったよ。それじゃあ、今からでも行くよ」


「それならカーネの他にも連れて行くといい!護衛が必要だろう!」


「そうだね」


 そう話してる間にも人が集まって来ていた。

 戦闘が終わるとすぐに来るように言われてたのだろう。

 そのせいで魔王イブリッドがシエルに行く奴を選んでいく。


 しばらくしてカーネをリーダーに任命して50人がシエル側に着くことになった。

 友好関係を今すぐに結ぶことでビスカを守る選択をしたらしい。

 一応救世主だから獣人達は目を輝けて気に入ってくれた。

 だから、簡単に国交は結ばれた。




 さて、ビスカは50人の獣人を連れて旅に出た。

 マーチはしっかりとイブリッドがシエルに帰してくれた。

 呪いのことはイブリッドが誤魔化してくれるらしいけど、出来るだけ急いで帰った方がいいだろう。


 ビスカは歩いて南に向かう。

 ファットリーアから南にあるのは旧アルマだ。

 まずはそこに向かう。


「長く歩くなんて初めてかも」


「ビスカ様はまだ若いのですか?」


「生後半年くらいかな。カーネはいくつなの?」


「103歳ですね。元勇者のクロム様と同じくらいかと」


「改めて考えると化け物だな」


 てか、魔王の妹ってことは王族なんだろ?

 それをビスカに平気で渡すなんてとんでもない奴だ。

 しかも、護衛のリーダーを務めさせるって信頼されすぎだろ。


 そんな彼女と話しながら夜まで歩いてようやくファットリーアから出られた。

 どんだけ広いんだよ。

 今日はここで休むことにした。




 翌日もあまり変わらない光景を見ながら歩く。

 その途中でオークの里を発見した。

 初めて会う奴なので魔王になる方法と建国記を書くことを教えて里を出た。


 さらに翌日の夜に旧アルマに到着した。

 魔力が使えないと瞬天もうまく使えないから不便だ。

 何かないかを調べてネクロマンサー探しをしよう。


「ビスカ様、墓場の方から声が聞こえます」


「声?」


 しかも墓場なんて怖いな。

 いや、確かゴーストって種族が居たはずだ。

 死んだ生物の魂が混ざって生まれると言う。

 それかも知れない。


「ゴーストってどうやって生まれる種族だっけ?」


「自然発生とネクロマンサーですね。えっ?」


「一応見に行こうか」


 マキナとオスクリタが滅ぼした後に作った墓場に行く。

 そこは犠牲になった人が多すぎてとんでもない広さになっている。


 そこに踏み込むとすぐにパーティーが行われてるのに気づいた。

 どうやらマジでやばい奴らが揃ってるらしい。


 奥に進むと見覚えのあるスケルトンとゾンビが目に入った。


「頭を抱える光景をやめろ」


 ビスカがそう言うと彼らが気づいてすぐに真面目な態度をとった。


「お久しぶりです。ビスカ様」


「おっひさ〜。ビスカ様げんき〜?」


「ゾンビのライヒェと、スケルトンのオッソだよね?」


「そうです。俺がオッソで」


「私がライヒェだよ〜」


 どっちもアルラウネの前にシエルを襲って来た奴らだ。

 あれから会ってなかったが、しっかりと鍛えてるらしい。

 そうでなければここに大群で集まってるなんてことはないだろう。


「なんでここにいるの?」


「ここを乗っ取ることにしたんだよ〜。滅びてるからいいよねって感じだね〜」


「手を組んだ奴がここにアンデット系なんかの国を作ることにしたんです。その際に見本にするのがシエルですよ。あそこは複数の魔王が居ても成り立ってるので目標なんです」


 そう話してる2人の間に女性が歩いて来た。

 その女性は暗い色で統一された不気味な服を着ている。

 人間の見た目なので年齢は12歳くらいに見える。


「どの国より先を行ってると言っても過言ではない。私らにとって理想郷だ。テクノロジアなんかより真似するべき国だ。だから、嫌われ者の国を魔王複数体制で作ることにした。これからも参考にさせてもらうよ」


 彼女は理想なんかを話してから握手を求めて来た。

 ビスカはそれに応えて手を握る。


「堕天使の魔王ビスカだ。よろしく」


「ネクロマンサーの魔王ファンタズマ・ムーミエである。よろしく願おう」


 獣人達は彼女が魔王だと知って驚いた様子を見せている。

 だが、ビスカはなんとなくそんな気がしていた。

 魔力が乱れてるせいで第六感が働いたのかも知れない。

 何にせよ。ここでネクロマンサーに会えたのは不幸中の幸いだ。

 すぐにでも頼もう。


「ビスカよ。言わなくても分かるぞ。おぬし、呪われているな?」


「えぇ、少し前にカースって言う魔人にやられたの。治せる?」


「あいつは厄介な呪いばかりを使うからな。だが、私には何の問題もない。ネクロマンサーは死霊を操るために呪法を作り出した。私なら解呪で商売するところだな。だから、解呪法をたくさん作り出した。この程度なら5秒で解ける」


 そう言うとムーミエは軽く呪いを解除して、取り出した呪いを丸い玉にしてムシャムシャと食べた。


「ご馳走様。また良い呪いを食えたよ」


「本当に解けてる。体がいつもみたいに軽い」


「魔族は魔力が命だからな。それを封じられた時点で弱るのは確定だ。特に翼型は魔力を大量に消費して飛び回るから重く感じるな」


「なるほど。解呪してくれた恩人に頼むのもあれだけど、ついでに話させてくれない?」


「構わん。イスを用意してやろう」


 ムーミエは指を鳴らした。

 すると、魔女がイスを浮かせて持って来た。

 それを墓場のど真ん中に置いたので魔王の2人がそれに座った。


 それが気になったゴーストや魔女や人狼が集まって来た。

 ゾンビとスケルトンも集められた。

 その全員が集まれば獣人なんて簡単に殺せるだろう。

 だから、カーネはもしもの時に備えて警戒を怠らない。

 当の魔王達は会談準備が整ったので早速話し始める。


「気になったんだけど。ムーミエって私みたいに魔王を育ててるの?」


「そうだ。あの魔女もその辺にいる人狼も私が育てている。ゴーストに関しては私の術で作り出したから魔王クラスだ。あとは魔王らしさとそれに足る物語を生み出すだけだ」


「さすが私を真似ようとしてるだけのことはあるね。でも、集会に顔を出さないよね?それは何で?」


「出さないのではない。出せないのだ。あそこは配下が200ほどだったか居ないと呼ばれないのだ。私は力を得るのに執着しすぎて友達も仲間も居ない。だから、共通の配下を得られるこのシステムを採用した」


「そういえば、イニーツィオも参加できてたね。あの子は配下なんて居ないから出られないんじゃないの?」


「それがおぬしのシステムだ。同じ国に居て、民や配下が認めれば魔王に共有される。それによって魔王イニーツィオは参加できたのだ。まぁ、あのガキなら例外的に参加できそうだがな」


「それは同意する。イニーなら『よんでくれなきゃぶっこわす』とか言いそう」


「そんな怪物とよく仲良くなれたな」


「理解してあげただけだよ。ここであいつらと仲良くするより簡単だと思う。子供を扱うようにすればいいだけだから」


「違いない!」


 ムーミエは大笑いした。

 それに対してビスカは真面目な顔で何かを狙っている。

 魔王ムーミエはそれに気づいて笑うのをやめた。


「何かあるなら言え。手を貸してやらんでも無いぞ!」


「いや、私が会ってない残りの種族について考えてたんだよ。レアな種族以外は全部魔王にしたいから」


「魔王を作る計画か。どこまで進んでる?」


「残りの中ではハーピィとゴーレムがネックなんだよね。どこにいるかもわからないから厳しい」


「それなら問題ない。どっちも私と同じ理由で出られないだけだからな。あっ!ゴーレムは違ったな」


「ゴーレムは違うってどう言う意味?」


「あやつは封印されているんだ。場所は分かっているから行ってみるか?」


「どこなの?」


「ルチェルトラがあった山だ。あそこに封印されている。遺跡ごとな」


「いいことを聞けた。残りは成長を待つだけだからちょうど良い暇つぶしになりそう。今から行くよ!」


「少しは休ませてやれ。おぬしは夜でも飛べるかも知れぬが、護衛の連中は違うだろう?」


 そういえば獣人を連れていた。

 確かに休ませてやらないとかわいそうだ。


「奥に城だった建物がある。そこで休むといい」


「場所まで提供してくれてありがとう。今度何かお礼をさせてくれ」


「その時は国として認めてくれ。おぬしなら出来るだろう?」


「分かったそうしよう」


 この直後にビスカは獣人達に指示を出して城の廃墟に向かった。

 そこで一夜を明かすことになった。

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