第60話 問題発生と解決
翌日。
朝早くから魔王達と幹部が会議室に集められた。
その理由は空中偵察部隊の隊長に任命されたアリッサから報告があったからだ。
彼女はまだ仕事中だからこの場に居ない。
アリッサが伝えた情報のみで話し合う。
「アリッサの報告では4つの問題が同時発生したらしい」
「4つだと!それはどんな問題なんだ!」
「1つ目は魔王ウェルの領地における謎の魔力反応。2つ目は人間の国がドラゴニュートを攻めようとしていること。3つ目は天使、悪魔、吸血鬼の三国が限界を迎えて戦争になりそうな状況。4つ目はフェリチタの街を襲った国が内戦を始めたことだ」
どれもシエルにはあまり関係ない。
でも、ビスカにとって大切な問題ばかりだ。
まずはそれを一つずつ潰そう。
「ケイト、4つ目はあんたに任せたい」
「はっ?何で僕なんだよ」
「私に相談せずに神様に祈って英雄になったのはどこの誰かな?これはあんたへの罰だよ。内戦納めて統治してこい!」
「英雄王になれってか!あの国の英雄はもう居ないからチャンスはある!だが、僕じゃ役不足じゃねえか?」
「そんなわけないでしょ。ここでも人間達には相当な人気を得てる。あそこでも上手くやれるさ。それに、仕返したくない?」
ビスカはいたずらっ子の顔をしている。
こういう時のビスカは9割うまく行く話しかしない。
ケイトはその癖を知っている。
だから、ため息を吐いて諦めた。
「自分では仕返してないからな。それをしたい気持ちはある」
「なら、後ろ盾してやるからやってきなさい」
「了解。国の乗っ取り頑張って来るよ!」
「いってらっしゃい。いい報告待ってるよ」
「おう!」
ケイトは英勇剣を持って出て行った。
勝たせるには装備も必要だろう。
念話で職人達に仕事を頼んだ。
さて、次の問題を片付けよう。
3つ目はすぐにでも行かないと大変なことになるかも知れない。
2つ目は人間側の準備期間を考えればもう少し時間があるだろう。
よくわからないのは1つ目だ。
正直細かい情報が無いと何が問題なのか分からない。
なら、今優先するべきなのは決まってる。
「3つ目は私が話を聞きに行くよ。招待状をまだ使ってないから行けるしね」
「なら、他はどうするの?」
ラビアラが尋ねた。
「1つ目はしばらく調査させる。2つ目は時間がまだあるだろうから急いで間に合わせるよ」
「もしもの時は魔王側に加担して人間を倒そうか?ウチならサポートしながら勝つこともできると思うよ?」
「もしもの時は頼むよ。それまでは自分の問題を片づけなさい」
「分かったよ」
さて、これでやるべきことは決まった。
でも、何で急に動き始めたんだ?
ダリア商会が動いてる感じは……もしかして、他の支部か?
それならあり得るかもしれない。
とりあえず、すぐにでも行こう。
ビスカ1人で天翼国家ホワイスに行こうとする。
「それじゃあ、行ってきます!」
ビスカは招待状を開いて転送された。
ビスカが居なくなったシエルでは残った連中がやるべきことのために動き始めて忙しくする。
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ホワイスに移動したビスカは広くて白い街に出た。
そこから離れたところで騒がしく天使が動き回るのが聞こえる。
その雑音の中でもマリスの音は見つけやすい。
ビスカはエンチャントで強化した聴力で周囲を把握しながら飛んだ。
そこから数十秒でビスカはマリスの城の王の間に侵入することに成功した。
ルーチェの時のように窓から魔王に近づく。
彼は目の前に現れた堕天使に敵意を向ける。
「ビスカよ。今は忙しいのだ。またにしてくれないか」
「無理だね。あんたらが何で戦争するのかを知るまでは帰る気がないから」
「それくらいなら話してやる。我は奴らが密かに戦争の準備を進めていると聞いた。だから、こちらも迎え討つ準備をしている」
「簡単に話すんだね。天使じゃなくなっても私のことが大切とか?」
「そうだ。貴様のことを大事に思っている。だから、聞かれたことはほぼ話すつもりだ」
分かりやすく親ばかみたいな感じだ。
ビスカは彼との関係を知らないが、彼はビスカを今も姪として扱っている。
だから、あの日の集会に一緒に参加できたことを実は内心はしゃいで喜んでいた。
マジでおっさんきついわ。
「なら、相談なんだけど。魔王ビスカ、マキナ、ラビアラ、オスクリタ、イニーツィオを相手にするのと、魔王デモニオ、レイを相手にするならどっちがいい?」
ビスカはゴゴゴゴゴという音が聞こえそうな笑顔でそう言った。
マリスは一瞬も迷わずに答えを出す。
「察した。やめるから混ざろうとしないでくれ」
「分かってくれるならそれでいいんだよ。ついでに相談なんだけど、こっそりでも相手と話せない?」
「それは貴様の招待状を利用すれば良かろう。あるいは、我が魔法を使って移動するか」
「後者でお願い。片方ずつなんてやってられないから」
「分かった。では、3カ所を同時に繋ごう」
魔王マリスはバッと両手で床に触れて魔法を発動した。
悪魔の技術を真似た魔法陣は彼らの同意を得ずに繋げた。
ちなみに、この三国は西に集まっている。
国同士が近いのと、三国の種族がお互いを苦手としてることで利用し合うことになった。
三国が内部を完全支配するためにお互いを敵にして、お互いが戦い合うことで民からの信頼を得るシステムを使っていた。
今回の一件はそれが崩壊した結果だ。
ビスカは何かを考えて魔法陣に飛び込んだ。
目的地をまずは魔王デモニオに決めて彼の城に入る。
彼の城はマリスと真逆に黒い。
敵対する運命なのだと思わされた。
そこに魔王デモニオが姿を見せた。
いつもと違ってまともな服装をしている。
彼はビスカに気づくと呆れた様子で話しかけた。
「お前は、ビスカか?何でここにいるだ?招待状を使われた形跡はねえゾ」
ビスカがそれに答えようとしたところにマリスが現れた。
来なくていいのについて来たようだ。
「我が話をしたいというこいつを魔法で連れて来たのだ」
「マリス!てめえ!よく俺様の城に入ろうと思えたナ!戦争を起こそうとしたくせに!」
「何の話だ?」
「とぼけるな!てめえらが戦争の準備なんて始まるからこっちまでやることになったんだ!いい迷惑だゼ!」
「ちょっと待って!マリスとデモニオの話が合わないんだけど!」
ビスカが2人の間に入った。
このまま続けさせればここで戦いになっていただろう。
それをビスカが間に入ることで冷静にさせた。
「どういうことだ?あっちから喧嘩を売って来たんじゃねえのか?」
「我もそう思っていた。貴様が勝手にやり始めたのだと思っていた。どうしてそういうことになる」
「決まってるでしょ。誰かが魔王達を潰し合わせようとしてたんだよ。私が来なかったらどうなってたか」
天使と悪魔は最悪な未来を想像してゾッとした。
今のままその未来にならない。
救世主となってくれたビスカには感謝しなければいけない。
「デモニオ、冷静になったならあんたもついて来て。魔王レイにも説明しないといけないから」
「確定じゃねえが、おかしいとは思ってた。それを調べるためにもあいつの協力は必要だろうナ。いいゼ!ついて行ってやる!」
「ありがとう。マリスもすぐに行くよ」
「分かっている。吸血鬼が動く夜になる前に止めねばならぬ」
「それじゃあ、お先に」
ビスカはマリスの魔法陣に乗って吸血鬼の城に移動した。
ビスカは暗い城の中に転送された。
その場所にはすでに魔王レイが玉座に鎮座していた。
彼は血の入ったワイングラスをテーブルに置いて立ち上がった。
そして、ビスカに歩み寄る。
「それを設置したのは魔王マリスかと思ったが、違ったか」
「いや、違わないよ。彼らが話したいことがあるからって繋げた」
「ほう。それはどんな話だ?」
「戦争を始めたのがあっちだと思ってない?」
「そうだ。マリスもデモニオが勝手に動いた」
「なら、私の考えは間違ってないね。あんたも騙されてるよ」
「『あんたも』だと?どういうことだ?」
「そういうことだ」
マリスとデモニオが今到着した。
デモニオだったらここで敵対しようとしただろう。
しかし、彼は冷静な魔王だ。すぐには怒らなかった。
「マリスとデモニオか。揃って来たということは、敵対していないのか」
「理解したか?どうやら俺達は何者かに踊らされてたようだ」
「このまま戦争をしていれば、長い時間を無駄に消費することになっていたな。我も貴様らもビスカに救われた」
「そのようだな。貴様らが敵対してなければ説得力が増すというものだ。魔王ともあろう者が情けないな」
「分かってくれたならすぐに戦争準備をやめさせて。私は他にもやることがあるからそろそろ行くよ」
ビスカは招待状の魔法を利用して帰ろうとした。
マリスがそれを止めて尋ねる。
「その他のことは何だ?」
「これ以外にも問題が起こったの。人間がドラゴニュートに戦争を仕掛けようとしてるとか。魔王ウェルの領地で謎の魔力が感知されたとか。例のフェリチタを襲った国が内乱を始めたとか。色々だよ」
「それっておかしくねえか?俺らが騙されてたなら、他も何者かが起こしたんじゃね?」
「その可能性が高いな。ビスカよ。もしもの時は魔王レイも手を貸そう。これを貸しにするからな」
「俺も貸しにする!何かあれば頼れよ!」
「我はいつでも手を貸す。念話で話しかけてくれた構わんからな」
「分かった。じゃあ、そろそろ行くからね。そっちは任せたよ」
そこでマリスは手を離した。
それによってビスカはシエルに帰れた。
この直後に魔王達はそれぞれの軍に向けて中止命令を出した。
戦争はこれで白紙だ。




