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第52話 北の七妖

 ビスカが魔王になってから1週間後。

 新しい幹部の役職を作ったり、イニーの乱心を抑えたり、ラビアラの勉強に付き合ったり、エリカにどっかの国のクソまずコーヒーを飲まれされたりと忙しくしていた。

 そこにヒスイから報告で魔王フィアンマの庇護下(ひごか)にあった者達が向かってきてるとの報告を受けた。

 理由は何だとしても最近疲れが溜まってきたビスカにとってちょうどいい息抜きなるだろう。

 ヒスイ達に命じてそいつらがシエルに入ることを許した。


 そいつらはヒスイに連れられてビスカの元にやってきた。

 彼らに何をされるか分からないので北西の更地で出迎えた。

 彼らは日本の妖怪と同じ種族らしい。

 そのリーダーは鬼のようだが、魔王フィアンマがトップなので来ていない。

 代わりにヒスイが前に立って話し始める。


「我らは七妖と呼ばれる北の種族です。他の者達と魔力の性質などが違うことから別枠で一緒にされたのです」


「その頂点にいるのが鬼だと言うのか。もしかして魔王フィアンマが嫌で逃げてきたか?」


 6人は図星だったようでビクッとした。

 それを見てヒスイは呆れた顔をした。

 しかし、ビスカはそんなことに興味を示していない。

 今考えているのはこいつらの素質がかなりありそうだなってことだ。


 しばらくしてビスカはニヤリと笑った。

 こいつらを魔王にしてみても面白いんじゃないかと考えたのだろう。

 実に単純だ。


「まぁ、どんな理由でもここにいることを許すよ。その代わりに魔王を目指してもらう」


「ま、魔王でございますか?」


 妖狐の女性がそう尋ねた。

 ビスカは笑顔でそれに答える。


「そうだ。私は全魔族から魔王が誕生して集会に揃うのを見るのが夢になったんだ。だから、君らには私が見つけた魔王になる方法を試してもらう」


 それは簡単なことだ。

 派手にそいつの人生を演出してやるという方法だ。

 それで神様が見てくれる可能性は高くなるだろう。

 自分がそれで魔王になれたから、こいつらにもそれが通用するのか試してもらうというわけだ。


「嫌ならやらなくていい。それと、私はあんた達を友人として迎え入れるつもりだ。魔王になったら全力でサポートするぞ?」


 これは彼らにとってもったいない申し出だ。

 守ってやる代わりに何かしろって言ってた魔王フィアンマとは真逆だ。

 これを断る理由はないだろう。

 妖怪が代表して申し出を受ける旨の発言をする。


「その申し出を受けさせていただきます。魔王様の元で勉強させてもらいます」


「それじゃあ、後で東の空き地に来なさい。あんた達の実力を確かめるから」


 そう言ってビスカはその場を去った。

 残されたあいつらはヒスイが空き家を住居として提供するために連れ回されることになった。




    ----------------




 1時間ほどで準備が終わった。

 七妖は鬼を除いて全員が揃って東の空き地に姿を見せた。

 その場には魔王ビスカだけではなく、魔王イニーツィオと魔王ラビアラも面白いものを見るために集まっていた。

 七妖は魔王3人を前にして緊張した。

 その緊張感を高めるかのようにビスカが本気の状態で彼女達の前に立つ。


「さぁ、あんたらの実力を測らせてもらう。1人ずつ来なさい。ちゃんと名乗ってよ。分からないから」


 そう言われてもビビって動けそうにない。

 これはダメかなって思ってると妖狐が一歩前に出た。

 もう少し動けないかと思ってたけど意外と早かったな。

 こういう時に動ける奴は大体優秀って決まってる。

 ビスカはしばらく様子を見てエンチャントを増やすことにした。それまでは素手で行くつもりだ。


 さて、妖狐は腰の刀を抜きながら名乗る。


「私は妖狐のヴォルペ・ルナールと申します。よろしくお願いします」


「やる気はあるみたいだね。それじゃ、みんな離れて見ててね」


 言われるまでもないという様子で全員が離れた。

 それ同時にルナールは突き刺そうと突っ込んできた。


 ように見えるだけ。

 こういう敵だということは予想できていた。

 だから、目に掛けたエンチャントでそれが幻覚であることを見抜いた。

 ビスカは本人が背後にいると考えて振り返る。

 すると、そこに彼女がいた。

 今からでも斬ろうという体勢を取っていた。


「私に小細工は通じない!」


 それに驚いたルナールは剣先が少しずれてしまった。

 ビスカはそれを見逃さずにしゃがんで避けた。

 それからルナールの足を払った。

 それで彼女は「ピャッ」という可愛い声を出して倒れてしまった。


 だが、それは分身だった。

 地面についてからすぐにぽんっと煙になって消えてしまった。

 なら本体はどこに?


 見つからないなら仕方ない。

 ビスカは拳に射撃エンチャントをして殴る動きで魔力弾を発射した。

 手当たり次第に撃ちまくる。

 そのうち「ピャッ」という声が聞こえて彼女が倒れてるのが見えた。


 どうやら『完全隠密』というスキルで姿を消していたようだ。

 しかし、それでも避けきれずに倒されて姿を見せてしまったらしい。

 これじゃあもう戦えないな。

 幻覚、分身、隠密と優秀なスキルを揃えているようだが、魔王にはそんなの意味なかったな。


「ヒスイ!その子を寝かせておきなさい!」


「かしこまりました」


 ヒスイはどこからともなく現れて命令を受けた。

 彼女がルナールを移動させてから次だ。


「次!誰でもいいから前に出なさい!」


 そう言われてもみんな行きたくなさそうな顔をしている。

 それでも才能はありそうなのが分かってる。

 一か八かでぶつかれるような気持ちがないと魔王にはなれないが、それでもスキルや魔法だけなら魔王になれるだろう。

 そんな奴らに期待していたが、期待はずれか?


 しばらくして雪女の少女が前に出た。

 とても弱ようだが、内に秘める魔力はラビアラと同等だ。

 それなのに弱そうなのはなんでだ?


「私は…雪女のキザクラ・セッカです…よろしくお願いします…」


 名前は日本にいてもおかしくないな。

 でも、この世界に日本語らしき物は伝わってるようだ。

 ヒスイとかホノカとかがいい例だ。

 前に来た転生者がそういう影響を与えたのかもしれない。


 彼女はビスカが何かを言う前に戦闘を開始した。

 いきなりビスカの足元に大きな魔法陣を展開した。

 さすがにビスカでもこれはまずいと思った。

 その次の瞬間に魔法が発動した。


「氷に閉ざせ。『魔氷結牢獄(フリージングプリズン)』」


 その魔法が発動すると魔法陣の端から中心に向かって大きな氷の塊を発生させた。

 ビスカはその中に閉じ込められてしまった。


「ごめんなさい…私は氷属性の使い手の中だと最強なんです…雪女の(おさ)が強くてごめんなさい…」


 やたらと謝る奴だがそれなら強いらしい。

 でも、こんな氷程度ではビスカにダメージを与えることなど叶わない。

 ビスカは多重エンチャントの力で無理やり内側から氷を破壊して出てくる。


「悪いね。私はエンチャントで色々と付けられるんだ。あんたの氷属性の魔法なんて全部効かないよ」


 氷から這い出てそう言うビスカはセッカに強い恐怖を与えた。

 雪女のくせに這い出るビスカが怖すぎて気絶してキューッと倒れてしまった。

 かなり強いのにもったいないな。

 もし、氷で色んな物を再現できるならビスカを物理的に傷つけることも出来ただろう。


 今回は仕方ないからセッカを休ませよう。

 またヒスイに頼む。


「ヒスイ!」


「言われなくてもやります。なので、好きに暴れてください」


「あっ、はい」


 優秀すぎるとかっこつけられないじゃん。

 ビスカは珍しくしょぼんとした。


 それでも気を取り直して次に行くことにした。

 その前に魔王達の方を見ると、すでにどう育てるべきかを議論していた。

 イニーもかなり話せるようになって感無量だよ。

 さて、次は誰とやり合おうか。

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