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第49話 正式に認められる時

 翌日。

 ビスカはラビアラと一緒に勉強をさせられたり、イニーに同時にボコされたり、街を見学させたりした。



 その間もラビアラの配下達は必死に動き回っている。

 シエルの配下達は職人の技術を弟子入りする形で教えてもらっている。

 ただ、シエルの人間や堕天使も同じ人に教わってるので人手が本当に足りていない。

 畑の方は農家が結構いるから大丈夫そうだ。

 大問題はケイトやマキナが魔獣達に仕事ぶりを見るためにストーキングされていることだ。

 彼らには必要なことなんだろうけど、これでは仕事にならなくて困る。



 ラビアラの領地には建築家を送った。

 そのついで主婦の人を家政婦さんみたいな感じで送った。

 家庭的なことすら出来ない魔獣にとっては一番万能な文明人に見えているかもしれない。

 彼女を送ったのには理由がある。

 ほぼ森の中に暮らしている彼らが急に家を与えられても何も出来ないだろう。

 だから、洞窟の掃除から始めてもらって、そこから基本の生活を教えてもらうことした。

 ちなみに、彼女は時間になったら迎えに行く契約になっている。




 そうやってあちらの文明レベルを上げている。

 こちらも十分ではないが、一応認められるレベルにはなっている。

 でも、それなら魔王からの承認が欲しいところだ。

 ラビアラは論外だから無しで。


 そう考えてるビスカの所に魔王達から招待状が届いた。

 それは魔王のみが参加を許される魔王集会(ゾディアック)への招待状だった。

 もちろんラビアラとイニーにも届いている。

 でも、なんでビスカも呼ばれてるの?何か悪いことした?

 とりあえず2人と合流して話すことにした。

 なんでビスカの家なんだろ。


「とりあえず行ってみる?ウチらもついてるからさ」


「いこう!わたしだけだとしんぱい!」


「うーん。でも、急だなぁ。しかも、今夜開催とか急すぎて心の準備が…」


 これは行きたくないと思って逃げようとしたが、2人の目線が逃してくれそうにない。

 仕方ないから今から行くことにした。

 招待状には揃うのが早ければその時点で開催すると書かれているから。


「それじゃあ、今から行こうか。2人とも問題ない?」


「問題なんてない。どうせ、そんなに長くならないだろうから」


「もんだいない!あってもないことにする!」


 相変わらずイニーはズレてる気がする。

 でも、2人が行ってくれるならもう行っちゃおう。

 てことで、ビスカは招待状を開いて会場に転送された。

 ラビアラとイニーもその後を追う。




    ---------------




 ビスカ達が転送された先は大陸中央の小さなお城だ。

 そこは誰も住んでいない。その代わりに時々全魔王が集合する。

 そこにお呼ばれしたビスカは広い部屋に立っている。

 その部屋の中央に大きなテーブルがあって、その周りに魔王の数と客人の数に合わせてイスが並べられている。


 その席を見渡すと、すでに2人を除いて魔王達が座っていた。

 よく見ると全てのイスのデザインがバラバラだ。

 どうやら魔王達に合わせて作られているらしい。

 ビスカの席と思われる物には羽の装飾がされている。

 まるで、ビスカを魔王と認めて専用に作ったかのようだ。

 その席に歩み寄る。イスに手を触れると少し怖くなった。


 固まってる間に子供っぽいイスのイニーと、岩に植物が生えたようなイスのラビアラが座った。

 それでも座らないビスカにスペラーレが話しかける。


「そのイスが怖いか?」


「えぇ」


 そう答えると全魔王が優しく笑った。

 それからスペラーレがそのイスの過去を語る。


「そのはずだ。それは1000年前に堕天使の魔王が使っていた物だからな。彼女は今の魔王達より強かった。このわしでさえ歯が立たなかった。そんな最強の魔王が3000年間座っていたいわく付きのイスだ」


 そう聞くと自分にふさわしくない気がする。

 他の魔王が簡単に代替わりするのに、3000年間も魔王であり続けた堕天使なんてとんでもない。

 そんな彼女の席を引き継ぎには未熟すぎる。

 そういえば、あの合成魔獣はビスカに何かを見てビビっていた。

 それってもしかして、その魔王?

 なら、尚更この席に座るわけにはいかない。


「魔王でもない私が座っていいわけがない。帰らせてもらう」


「まぁ、そう言うな。ここに呼ばれるのは魔王だけだ。つまり、お前達は認められたのだよ。わしらにな」


 お前達?

 ここにビスカ以外の魔王未到達者が来ているのか。

 その次の瞬間に背後から大きな気配を感じた。

 でも、この魔力には覚えがある。

 一度本気で戦ったことがある友人の気配。


 振り返るとそこにはマキナが立っていた。

 その姿はビスカが知る姿と少し違っていた。

 それは最上位形態になったことによる回帰した姿だ。

 肌は金属に見えるが、全体的には普通のドールと同じ人に見える姿をしている。

 この形態は未来人形(ブラックドール)と呼ばれている。


 その形態に成長したことをビスカに隠してたらしい。

 その理由は想像できる。

 あの国で上に立ってるのがビスカだから、マキナは悪目立ちしないように抑えていたのだろう。

 それなのに完全な姿でここに呼ばれて対面してしまったんだろうな。

 マキナは今にも逃げそうな顔をしている。


「ドールのお嬢さん。イスはまだ出来ていないからその前に聞きたい。魔王になる気はあるかい?」


「あります!私は同族に受け入れられなくても、魔王になってドールの未来を明るくしたいんです!私のような愚か者を出さないためにも!」


 こいつは本当にマキナなのか?

 話し方や声に機械感が無くなっている。

 まるで人間のような透き通った声に代わっている。


 でも、魔力は本人の物で間違いない。

 毎日見てる友人の魔力を間違えるわけがないでしょ。

 だけど、その魔力がビスカを越えてるのはやばいでしょ。

 いつの間にそんなに成長したんだろうか。


「えっと、マキナ…だよね?」


 ビスカが恐る恐るそう聞くと彼女は誇らしそうに答える。


「そうです。スタール・マキナです。短い時間を能力の練習や修行に使っても成長できませんでした。でも、自分で作った人形と混ざることでこの姿と力を手にしました。これでビスカと同じ舞台に立てます」


 本当に強くなっちゃって。

 今のビスカでも勝てるだろうけど、またあの時と同じくらい力を使うことになるだろうな。

 友達の成長は嬉しいけど複雑な気持ちでもあるな。


 一部の魔王はこの状況を見て関係を察した。

 スペラーレはなぜか知っていたようだが、成長までは普通把握できないだろ。

 それを知った上で呼んだらしい。

 スペラーレは2人に向けて言う。


「さて、わしらは2人同時に魔王にしても良いと思っている。仲のいい者同士を引き離すのは心が痛むからな。だが、その展開を神が喜んでくれるかどうか」


 そんな心配をしていると声が魔王達だけに聞こえた。

 いや、ビスカとマキナも。

 なんなら世界中の魔王候補達に声が届いた。


 《心配などいりません。私は面白いストーリーを楽しませてくれればそれで良いのです。ビスカとマキナはそれに対する代金を払っていいくらいに良いものを見せてもらいました》


 《なので、ビスカとマキナを魔王に承認します。ここからが本番です。実力をつけてSランクの一番上を目指しなさい。そこが魔王にとってのゴールです》


 《他にもゴールがあるならそこを目指しなさい。これからも良いストーリーを楽しませてくれることを期待してますよ》


 その声と気配が消えた瞬間にビスカとマキナは強い光に包まれた。

 それは一瞬で消えたが、その場には今までと比にならない力を得た2人の姿が現れた。

 神に認められて正式に魔王となった。

 王なのだから2人とも国を持っててもおかしくないということだ。

 帰ったら話し合うべきかもしれない。


 とりあえず今は魔王達に挨拶しよう。

 正規ルートで魔王になったのだから。


「魔王の皆様方にもう一度名乗らせていただきます!私は【堕天魔王(ルチフェロ)】のシエラ・ビスカと申します!」


「私は【人形魔王(マリオネット)】のスタール・マキナです!」


「「皆様の顔に泥を塗らぬように努力することを約束します!」」


 この演出に向けて魔王達の拍手が湧き上がった。

 全魔王が祝福してくれるなんてそうあることじゃない。

 本来魔王達は王として睨み合ってるから1人に集中してる暇がない。

 それなのに奇跡が起きて2人の魔王候補に視線が集まった。

 低確率の奇跡による祝福なのだ。


 彼らは貴重な機会に立ち会えたことに対する代金を支払準備をしている。

 2人が席についたらそれについて話があるだろう。

 ビスカは先代の席に仕方なく座った。

 マキナは今イスが届いたのでそれに座った。


 これで十七柱の魔王が勢揃いしたことになる。

 その魔王達による最初の会議が始まる。

 議題は【人魔共生国家シエル】との関係についてだ。


「魔竜帝スペラーレよりシエルとの関係について話し合いをさせてもらいたい。すでに答えは出ているだろう。国交を結び気があるなら署名をせよ!先に魔王ビスカに書いてもらうがな」


「分かった。でも、すでに全員分書いてある。これを使ってもいい?」


 用意周到なので魔王達は感心した。

 それを魔王マギアが魔法を使ってビスカの手から飛ばして全員に配った。

 それが届いた瞬間に国交を結ぶ気がある者達は名を書き始めた。


 書いているのはマリス、デモニオ、ルーチェ、ブルーム、ラビアラ、スペラーレ、ミューカス、フィアンマ、アラーニャ、マギアの10名だ。

 マキナとイニーツィオは国を持ってないから条約を結ぶ必要がない。

 竜人のリアンと獣人のイブリッドはそもそもビスカをよく知らない。

 人魚のウェルと吸血鬼のレイはまだ様子を見るらしい。


 今回は10人の魔王と9個の国から認められたことになる。

 国として不可侵条約を結べた相手が増えたのはいいことだ。

 魔王ラビアラは一応もらっておく。

 これで今回やることは終わった。


 魔竜帝スペラーレが全員の手が動いてないことを確認して閉会宣言する。


「さて、今回は新しい仲間が増えた。魔族の立場が悪くなる日は先になった。さらに、シエルを国と認めて魔王同士の繋がりまだ出来た。これでビスカ達が魔王として受け入れられるだろう。よって、今回の議題は解決!これにて解散!それぞれの居場所に戻りなさい!」


 閉会してすぐに魔王達は帰っていく。

 マリスとデモニオはビスカにすぐに国を見に来いと言って帰った。

 魔竜帝スペラーレは実の娘をぎゅーっと抱きしめてから帰っていった。


 森の魔王達は世間話をしてラビアラがシエルに居ることを知ったらしい。

 ルーチェとブルームは話に区切りがついたところでビスカに教育を正式に頼んで帰った。

 残ったビスカ達も招待状の魔法を使って帰還した。

 さて、戻ったら今後を考えないと。

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