第43話 竜達が味方になる
ビスカはヴォルカナに連れられて半壊した住宅に入った。
そこには縄とかで縛られた男が座らされていた。
その男はビスカに気付くと諦めたようなため息をついた。
「あんたがあの子を解放した犯人か」
「そうだ。俺が魔法を使って解放してやった。なのに、負けたのかよ」
「最後は気絶や混乱を付与したからね。そんな攻撃が当たれば勝ちだ」
「チッ!せっかくここまで来たのに」
この男の言い方的に目的があって遠くから来たらしい。
一体どこから?何の目的で?
「おい。誰の差金だ。答えろ」
「誰が答えるか!」
おっと、裏に誰かいることが確定した。
ここから崩していかないとね。
「それは誰かが裏に居るってことでいいんだな?それならもう一度聞く。誰に言われてきた?」
「い、言えるかよ!言ったら殺されちまう!」
そんなに怖い奴が居るのかな?
魔王は揃って来てたから違うだろう。
なら、人間の王様か?
それか私の知らない組織か?
「あんたを返すつもりはない。それなら誰にも手は出さないんじゃないの?」
「それでも言えるか!あの方は遠くに居ても殺せるんだ!誰か言え…!」
そのタイミングで急に男の体が赤く光り始めた。
それで何が起こるか分かっているヴォルカナはビスカを守るために手を引っ張った。
それからすぐに半人半竜の姿になって翼を広げた。
それで盾になった。
1秒後にビスカの視界外で男が消し飛んだ。
ヴォルカナはその爆発からビスカを守り切った。
だが、そのせいで翼がボロボロになってしまった。
これではしばらく飛べない。
ビスカを守ったせいで翼を使えなくなってしまった。
助かったことにビスカは気づいた。
ビスカはすぐにヴォルカナの腕の中から出た。
それから彼女の翼を見て胸が苦しくなった。
「ヴォルカナ…翼が…」
「問題ない。爆破魔法を仕込まれることに気づかなかった我のミスだ。ビスカのせいでは無い」
「それでも…!私のせいで飛べなく…」
「1年もあれば完治する。言っておくが回復魔法は効かない。あいつに仕込まれた魔法には妨害魔法を含まれてるらしい」
「そんな…!私のせいで…!よそ様の部下を傷つけちゃった…!」
ショックとか色々な感情でビスカは泣き始めてしまった。
ヴォルカナは優しくビスカの頭を撫でた。
しばらくしてビスカはヴォルカナと一緒にイニー達の所に戻った。
戻った時の様子からして仲直りできたらしい。
しかも、イニーの方からこの街に住む話をしてくれたらしい。
はぁ…その追加の話をしないといけなるとは…辛い。
近づくとスペラーレがすぐに気づいた。
「どうした!ヴォルカナよ!」
「すみません。ビスカを敵のところに連れて行ったら反撃されました」
「彼女は私を守ったんです!私のせいで怪我したんです!」
ビスカは庇うかのように会話に割り込んできた。
その顔を見て、スペラーレは本当に守って怪我したのだと察した。
それなら怒る必要はない。喧嘩して出来た傷ならヴォルカナを殴ってるところだが、そうじゃないなら手は出さない。
「詳しくはわからんが、ヴォルカナが守ってやったのは伝わって来た。だが、その翼では帰れんだろう?」
ヴォルカナを心配するセリフでビスカの方が辛そうな顔をした。
スペラーレは判断を間違えたかと思った。
だが、ビスカにとってはそれが欲しかった言葉だ。
「それなら彼女はうちで預かります!責任を取らせてください!お願いします!」
ビスカは深く頭を下げた。
それを見せられたスペラーレは戸惑った。
治さないとしても自分が連れ帰ればいいだけだから。
それなのに堕天使の長が本気で責任を取ろうとお願いしている。
スペラーレがそれに戸惑って何も言えずにいると、ヴォルカナまで頭を下げた。
「我を……いえ!私をここに残してください!ビスカとならもっと強くなれる気がするんです!責任とかどうでもいいけど、姫様と一緒に残りたいです!」
そんなことを言われても困る。
という顔でスペラーレはどうしようかと考える。
そこにイニーツィオまで加わる。
「パパ!のこして!それがみんなのみらいのため!」
スペラーレはやっぱりイニーの言うことにハテナが浮かんでしまった。
それでも彼女はかわいい娘なのだ。
今までのことをしっかりと謝罪するには仲良くし続ける必要もある。
ここで嫌われないためにも取る選択は一つだ。
「分かった。ここで傷を癒しながら鍛えよ。そして、見聞を広めよ」
「承知いたしました。正しい判断、お見事です」
「やめい!恥ずかしい!」
おっさんは照れて少し頬を赤くしている。
いや、おっさんのそんなの見たくないから。
でも、父親として見ればかっこいいと見れなくもないのか?
分からんな。
さて、これでビスカの手元に竜が存在する状態になった。
あとはイニーのことを確認するだけだ。
「魔王スペラーレ様、娘さんとの約束を果たしたいのですが」
「うむ。話は聞いている。この子が決めたことなら文句はない。こき使っても良いぞ?何事も経験だ」
「では、私の国の幹部に入れましょう。勝てる気がしますか?」
「馬鹿言え!かわいい娘でも勝て……そうにないな……」
親バカ発動でスペラーレは自信をなくした。
これなら本当にイニーを幹部にした方が安全なんじゃね?
竜の国と戦争になっても勝てる可能性があるのは大きい。
でも、本人が嫌がった。
「パパとはたたかわない!かんぶっていうのにもならない!たたかいはすきだけど!めんどうなのや!」
ほっぺを膨らませて可愛くイヤイヤしている。
ぐふっ!可愛いかよ!この姫様!
見た目は大人だけど完全にギャップでかわいい。
「分かったよ。イニーは私の友達ってことで住まわせてあげる。それでいい?」
「ともだち!?いいよ!それで!」
単純だね。
それでも舐めてたらやられるから恐ろしい。
今回は運が良かったから勝てただけだ。
もし、イニーが気付いて距離を取ってたら負けてたのはビスカの方だ。
ビスカは遠距離戦がめちゃくちゃ苦手だから長期戦になったら負けてしまう。
相手がイニーで良かったと本当に思う。
近距離が相手なら近距離で戦う。そういう奴だから勝てたのだ。
さて、そろそろ魔竜帝スペラーレには帰ってもらおうか。
もう話すこともないから。
「スペラーレ様、そろそろお帰りなられたらいかがですか?この2人は大丈夫ですから」
「そのようだな。帰る前に言っておく。魔都見学にはわしも協力してやる。いつでも来なさい」
「その時はあなたの娘を預かる者として恥じない強さを得ておきましょう」
「うむ。楽しみにしているぞ。では、さらばだ!」
魔竜帝スペラーレは大きな翼を出現させて飛んでいった。
その速さは瞬天並だ。
親子揃って異次元な強さとか本気のやりあいなら勝てるわけないじゃん。
まぁ、とりあえず竜の姫と火災竜が味方になったことを教えに行かないと。
避難した連中は今も戦ってるとか思ってるだろうからね。
「2人ともついて来て。みんなに挨拶しに行くよ」
「そのついでに終わったことを伝えるのか?」
「その通り!避難を解除してすぐにでも街を直さないといけないから。あっ、そうだ!おにぎり食べる?」
話しながら袋中に手を突っ込んで弁当を取り出した。
それを初めて見たイニーは目を輝かせている。
弁当箱を開けるとイニーがいきなり突っ込んできた。
寄越せってことなんだろうけど、あと少しで弁当を落とすところだった。
こりゃ教育が大変そうだわ。
そのおにぎりを食べながらビスカ達は歩いてマキナ達と合流した。
彼女達は竜の姫と火災竜を一目見て本人であると気付いた。
だから気絶したり、騒ぎ出したり、攻撃しようとしたりと大変な事態になった。
説明するのが今回で一番難しかったかも知れない。
でも、これで大きな戦力が2つも手に入った。
竜の威を借りて何かが出来るならこれほど心強い味方はない。
これからはどんな戦いが起きても負ける気がしない。
まぁ、どっちも言うことを聞いてくれる気がしないんだけど。




