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白き獣は世界を見下ろす  作者: HANA
人間大陸編
12/41

変化

「そろそろ、探索に行くか!」


 カイルの声に、エミリオとティアナが頷く。


「そうですね。初めて来ましたし、いろいろと見てみたいです」


「じゃあ、みんな夕方までに戻ってくるってことで!」


 三人はそれぞれ、城塞都市(ルベリオン)を見て回ることに決めたようだった。


 カイルは武具屋へ、エミリオは神殿へ──

 ティアナは.....アクセサリー探しといったところだろうか。


 そのとき誰かが、ふと思い出したように俺を見た。


「あ、アストどうしよう……」


 ティアナは手を叩いて、思いついたように声を上げる。


「さっきみたいに、ローブの内側に入れば……」


 と提案するが、それに対し、カイルが苦笑いしながら答えた。


「いや、さすがに一日中ずっとティアナの背中に捕まってるの、アストもしんどいだろ」


 次は、エミリオが「そのあたりのシーツに包んでしまえば」と続けるも──


「いや、それこそ怪しいでしょ!」と、二人同時にツッコミが入る。


 それぞれが意見を出し合うが、なかなか解決策は出ない。


 しばらく、彼女たちのそんなやり取りを見て楽しんで見ていたが、

 空気が読める俺は、ベッドにひらりと飛び乗る。

 そして、そのまま丸くなって目を閉じた。


 その光景を見て、三人がそっと視線を交わす。


「時々思うけど……この子、たぶん相当賢いよね。」


「うん……しかも空気まで読める」


「やはり……アストは特別な存在なのかもしれません」


 それぞれが思い思いの考えを口にしながら、俺に感謝を告げて外に出ていった。


 *


 みんなが去ってしばらくした後──

 俺はベッドの上で静かに立ち上がった。


 感謝してくれた彼らには悪いが……

 俺もこの後、外出するつもりだ。


 その姿でどうやって出るんだって?


 ふふ──侮ってもらっては困る。

 俺には......魔法がある。


 しかも、使うのは隠蔽魔法ではなく──“変身魔法”である。


 なぜ、これまで使わなかった、いや、使えなかったか。

 理由は単純。


 ……エルシアには、鏡がなかったからだ。


 この魔法は、なんにでも変身できるような万能なものではない。


 魔物が人間に擬態するときに使うタイプの魔法で、

 変身できる姿は“あらかじめ決まっている”。


 基本的には、元の魔物の姿がベースになる仕様だ。


 とはいえ、魔物がこの魔法を使って変身した姿を一度も見たことがない上に、

 今の俺の姿が人間になったらどんなふうになるのか、想像もつかない。


 さすがに、そんな状態の“初変身”のまま外に出るわけにはいかず、

 だからこそ、鏡が必要だった。


 この宿には──バカでかい鏡がある。

 今こそ、確認のチャンスだ。


 期待と不安を同時に抱えながら、俺は鏡の前に移動し、魔法に集中する。


 詠唱──


「メタモルフォーゼ」


 魔法が発動した瞬間、視界の高さが一気に変わる。

 人間だった頃よりも──恐らく高い。


 そして、恐る恐る鏡を見た俺は……完全にフリーズした。


 まぁ、この部分については予想はしていた。

 たぶん、そうなるだろうなと。


 下半身の“アレ”は……無い。


 かと言って、胸があるかと言われれば、それも無い。


 完全なる“無性”。


 男でも、女でもない──そんな存在。


 ……けれど、正直、その事実さえどうでもよくなるほどに、鏡の中の姿は美しかった。


 中性的な顔立ち。

 モデルのような高身長。

 すらりと伸びた手足。


 そして何より──

 腰まで伸びた白銀の髪が光を反射して、まるで輝いているかのようだった。


 神が創り上げた最高傑作。

 ──まさに、そう言っても過言ではない。


 その時、ふと俺は考えた。


 この姿で外に出るだけで、もしかしたら恋愛ハーレム系(男女問わず)の物語に変えられるんじゃないか……?と。


 少しだけ。

 少しだけだが、真剣に悩んだ。


 ……が、残念ながら“無性”の俺には、もはやそういう欲は完全に消え去っていたため──断念。


 さすがに、このまま全裸で出ていくわけにはいかないので、部屋の中を物色してみる。

 すると、おあつらえ向きに、顔をすっぽり隠せそうなフードつきの黒い服が見つかった。


 貴族がお忍びで出かけるための服か?と邪推したが、正直、今は何でもいい。

 ありがたく使わせてもらう事にした。


 さっきとは違う意味で、この姿を“人目にさらす”のは危険だ。

 特に、貴族が多く住むこの街ではなおさら。


 早速、衣服を身につけ、人間のように歩き回ってみる

 ──特に、問題はない。


 さすがにまだ、人間の動きの感覚は忘れていないようだ。


 俺は、何気ない足取りで部屋を出る。


 途中、宿の従業員らしき人物に、

「こんな客いたかな?」という目で見られた気がするが、気にしない。

 こういうのは、逆に堂々としていた方がバレないものだ。


 危なげなく、宿の受付も通過。


 そして──

 俺は、ついに城塞都市エルシオンの地に足をつけた。


挿絵(By みてみん)


変身したアスト(人間ver)も挿絵入れてみました。

変身前と比べてちょっと線が細すぎるかも...?笑

とりあえず一旦、これでいきます!

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