変化
「そろそろ、探索に行くか!」
カイルの声に、エミリオとティアナが頷く。
「そうですね。初めて来ましたし、いろいろと見てみたいです」
「じゃあ、みんな夕方までに戻ってくるってことで!」
三人はそれぞれ、城塞都市を見て回ることに決めたようだった。
カイルは武具屋へ、エミリオは神殿へ──
ティアナは.....アクセサリー探しといったところだろうか。
そのとき誰かが、ふと思い出したように俺を見た。
「あ、アストどうしよう……」
ティアナは手を叩いて、思いついたように声を上げる。
「さっきみたいに、ローブの内側に入れば……」
と提案するが、それに対し、カイルが苦笑いしながら答えた。
「いや、さすがに一日中ずっとティアナの背中に捕まってるの、アストもしんどいだろ」
次は、エミリオが「そのあたりのシーツに包んでしまえば」と続けるも──
「いや、それこそ怪しいでしょ!」と、二人同時にツッコミが入る。
それぞれが意見を出し合うが、なかなか解決策は出ない。
しばらく、彼女たちのそんなやり取りを見て楽しんで見ていたが、
空気が読める俺は、ベッドにひらりと飛び乗る。
そして、そのまま丸くなって目を閉じた。
その光景を見て、三人がそっと視線を交わす。
「時々思うけど……この子、たぶん相当賢いよね。」
「うん……しかも空気まで読める」
「やはり……アストは特別な存在なのかもしれません」
それぞれが思い思いの考えを口にしながら、俺に感謝を告げて外に出ていった。
*
みんなが去ってしばらくした後──
俺はベッドの上で静かに立ち上がった。
感謝してくれた彼らには悪いが……
俺もこの後、外出するつもりだ。
その姿でどうやって出るんだって?
ふふ──侮ってもらっては困る。
俺には......魔法がある。
しかも、使うのは隠蔽魔法ではなく──“変身魔法”である。
なぜ、これまで使わなかった、いや、使えなかったか。
理由は単純。
……エルシアには、鏡がなかったからだ。
この魔法は、なんにでも変身できるような万能なものではない。
魔物が人間に擬態するときに使うタイプの魔法で、
変身できる姿は“あらかじめ決まっている”。
基本的には、元の魔物の姿がベースになる仕様だ。
とはいえ、魔物がこの魔法を使って変身した姿を一度も見たことがない上に、
今の俺の姿が人間になったらどんなふうになるのか、想像もつかない。
さすがに、そんな状態の“初変身”のまま外に出るわけにはいかず、
だからこそ、鏡が必要だった。
この宿には──バカでかい鏡がある。
今こそ、確認のチャンスだ。
期待と不安を同時に抱えながら、俺は鏡の前に移動し、魔法に集中する。
詠唱──
「メタモルフォーゼ」
魔法が発動した瞬間、視界の高さが一気に変わる。
人間だった頃よりも──恐らく高い。
そして、恐る恐る鏡を見た俺は……完全にフリーズした。
まぁ、この部分については予想はしていた。
たぶん、そうなるだろうなと。
下半身の“アレ”は……無い。
かと言って、胸があるかと言われれば、それも無い。
完全なる“無性”。
男でも、女でもない──そんな存在。
……けれど、正直、その事実さえどうでもよくなるほどに、鏡の中の姿は美しかった。
中性的な顔立ち。
モデルのような高身長。
すらりと伸びた手足。
そして何より──
腰まで伸びた白銀の髪が光を反射して、まるで輝いているかのようだった。
神が創り上げた最高傑作。
──まさに、そう言っても過言ではない。
その時、ふと俺は考えた。
この姿で外に出るだけで、もしかしたら恋愛ハーレム系(男女問わず)の物語に変えられるんじゃないか……?と。
少しだけ。
少しだけだが、真剣に悩んだ。
……が、残念ながら“無性”の俺には、もはやそういう欲は完全に消え去っていたため──断念。
さすがに、このまま全裸で出ていくわけにはいかないので、部屋の中を物色してみる。
すると、おあつらえ向きに、顔をすっぽり隠せそうなフードつきの黒い服が見つかった。
貴族がお忍びで出かけるための服か?と邪推したが、正直、今は何でもいい。
ありがたく使わせてもらう事にした。
さっきとは違う意味で、この姿を“人目にさらす”のは危険だ。
特に、貴族が多く住むこの街ではなおさら。
早速、衣服を身につけ、人間のように歩き回ってみる
──特に、問題はない。
さすがにまだ、人間の動きの感覚は忘れていないようだ。
俺は、何気ない足取りで部屋を出る。
途中、宿の従業員らしき人物に、
「こんな客いたかな?」という目で見られた気がするが、気にしない。
こういうのは、逆に堂々としていた方がバレないものだ。
危なげなく、宿の受付も通過。
そして──
俺は、ついに城塞都市エルシオンの地に足をつけた。
変身したアスト(人間ver)も挿絵入れてみました。
変身前と比べてちょっと線が細すぎるかも...?笑
とりあえず一旦、これでいきます!




