エピローグー1
エピローグの始まりです。
1940年12月25日午前、アーヘン市街の巡視という名目で、アラン・ダヴー大尉はルイ・モニエール少尉を引き連れて、アーヘン市のある建物に入っていた。
もっとも、実際には逆で、モニエール少尉が、その建物に行くことを希望したのだったが、あくまでも建前上はダヴー大尉がその建物に行こうとして、モニエール少尉が随行したことにしないと、後々面倒な話になるというのが実際だった。
「ここがアーヘンの大聖堂か。ここで戴冠式を挙行したいものだ」
モニエール少尉、本当はルイ・ナポレオン・ボナパルト、ナポレオン6世は、その建物に入ると、すぐにそう呟いた。
「あなたが言うと冗談になりません。私しかいないから、と言っても看過できる範囲ぎりぎりです」
ダヴー大尉は思わず、モニエール少尉をたしなめた。
「分かっている。だが、独がやったことを想えば、私がこれくらいのことをしても、いいだろう」
「確かに仏人としては、同意したくなりますがね」
モニエール少尉は反論し、ダヴー大尉も同意した。
1871年1月18日、プロイセン国王ヴィルヘルム1世は、ヴェルサイユ宮殿の鏡の間で独皇帝に即位し、独帝国が成立した。
仏人の多くが、そのことについては憤りを覚える話だった。
そのお返しとして、いわゆる神聖ローマ帝国の皇帝の即位式の多くが行われてきたアーヘンの大聖堂において、仏皇帝ナポレオン6世の戴冠式をやってもいいだろう、と暗にモニエール少尉は言い、ダヴー大尉はさすがにそれは冗談ではすみません、とたしなめるというやり取りをしたという訳だった。
「何しろここには戴冠式に必要な王笏もあるではないか」
「そう言われればそうですね」
更に2人は危ないやり取りをした。
1273年、ルドルフ1世の戴冠式において、王笏が無いという事態が発生した。
その際、ルドルフ1世は、悠然として
「この世をお救いになる神の象徴が王笏である」
と宣い、この大聖堂にあった十字架を王笏として用いたという伝説があるのだ。
ダヴー大尉とモニエール少尉は、それを踏まえたやり取りをしたという訳だった。
「冗談はここまでにして」
モニエール少尉の表情が少し陰った後、言葉を継いだ。
「何とも皮肉な話だと思わないか。仏史上で暗君と呼ばれる2人のお陰で、今の仏が戦えているというのは。暗君の1人は、私の身内だが」
「何とも同意しにくい話をされますな。否定しづらい話ですが」
ダヴー大尉は思わず同意の口ぶりをした。
ルイ16世は、一般的に言って仏史上の暗君の1人だろう。
だが、ルイ16世が米国に味方しなければ、米国独立はあり得なかった。
そして、米国は第一次世界大戦、この第二次世界大戦で仏の味方として協力してくれている。
また、ナポレオン3世も普仏戦争の大敗で仏史上では暗君扱いだ。
だが、ナポレオン3世が徳川幕府に派遣した仏軍事顧問団の教え子、幕府歩兵隊が日本海兵隊の源流となり、更に第一次世界大戦で、この第二次世界大戦で、日本が仏救援に駆けつけた要因となっているのだ。
「日米の助けのお陰で、今度はロシア遠征に成功することが出来そうなのが、本当に皮肉な話だ。英国の協力も得られているのが、更に皮肉を強めているがな」
「確かにそうですな」
モニエール少尉とダヴー大尉は、更にしみじみとした会話をした。
「曽祖父の兄が見られなかった景色が自分は見られそうだ。一緒に見てくれないか」
「それまでに戦争が終わるのを願うべきなのでしょうが。一緒に見られるように頑張りますよ」
「ありがとう」
いつの間にか、モニエール少尉とダヴー大尉は、アーヘン大聖堂の雰囲気に呑まれ、ナポレオン1世とダヴー元帥のようなやり取りを交わし、微笑みあっていた。
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