くじけそうになっている男の子。エピローグ。
「レヴューだ」
澪の瞳は大きく見開かれ、掌が震えるせいで携帯電話が見え難い。
『優しくて暖かい』『それでいて重厚』自分が伝えたかったことを自分以上に的確に。そのままタイトルに。
今まで必死で描き、共に歩んできたアキレウスの道のりと悲喜を共有するかのような優しい目。
死の旋風を撒き散らしつつ未来への希望を信じて進むアキレウスとヒロイン。皮肉屋の剣士の暖かい瞳。少女の銃の咆哮すら聞こえてきそうな。
不思議な感激だった。大げさだと思うかも知れない。しかし自作を褒められたことが無い彼には未知の体験だった。
言葉の一つ一つが心を打ち、澪の物語は面白い。人に薦めたい。そんな投稿者の言葉が伝わってくる。
それは不思議な気持ちだった。齢十七歳にして名も知らぬ他人に認められ、推薦される。それは得がたい経験であった。
「なんだ。澪。よかったじゃん」
横から顔を出した霧島が微笑んでいる。
呆然としていた澪は正気を取り戻し、慌てたように携帯を隠して見せた。
加えて。真っ赤な顔で意味不明のうわ言を叫ぶ澪に苦笑する霧島。
霧島は澪の気持ちが良くわかった。自分も通った道だったからだ。
「あはは。それくらい予測つくよ」
ケタケタ笑う霧島に更に真っ赤になる澪。はずかしい。
それでいて。うれしい。肩を支えて。こいつなら大丈夫と推薦される。
自分が認められる瞬間が嬉しくないはずは。ない。
「あ。ありがとう」
澪は霧島にお礼を言ったが、まだ上の空のようだ。
「澪」
「な、なんだよ」真剣な顔を浮かべる霧島に澪は戸惑ってみせる。
「一人しか見ていなくても、それは読者だ。
ちょっとお前の小説情報を見たが、何人かは熱心に見てくれているぜ」
小説情報てナニ?
というか霧島。なんでお前俺がなろうで書いているの知ってるの?
というかなんでお前が俺の書いているものを把握しているの?
そんな顔をする澪に呆れる霧島。
「お前、他のユーザーもPVやユニアクを見れるって知らなかったのか」
コクコクと首を縦にふる澪に苦笑いする霧島。
「お前はちょっと感想を書いたり、お気に入りを増やしたほうがいいなぁ」そうなのか?
社交的とは程遠い澪には良くわからない話だ。そんな親友の様子に霧島は微笑んで見せた。
「そりゃ、応援するなら赤の他人より友達のほうがいいじゃん? 」霧島はニヤリと笑うと、『Mio』をお気に入り登録して見せた。
「感想、本アカウントで頼むぜ」
「ああ。読みアカでもPを」
「それは俺様のプライドが許さん。代わりに明日焼きそばパン買ってこい! 」
「わかりました! これからも宜しくオナシャス! 」見事な最敬礼を見せる澪に苦笑する霧島。
ちなみに、このサイトでは自作自演を防ぐために複数アカウントメントの所持は処罰対象である。
お前何をやっているんだ澪。削除されても知らないぞ。
「お前、なろうやってるんなら……『オナシャス』と『小説家になろう』でググれ」
「へ? 」澪はお願いしますといいたかったのだが。
謎の言葉に呆然とする澪は言われたとおりに検索サイト、グーグルにアクセスして該当部分を検索。
即座に最強の検索サイトを名乗るグーグルは愛用のBMWに乗り、彼女の手すら振り切って『オナシャス』に励む漢の物語を表示した。
『オナシャス! オナシャス! 』あるときは幽霊トンネルで、あるときは日本一のつり橋のど真ん中で。
穴のついた樹脂の塊を手に、全裸で男の証明に励み、行く先々で超常の世界と触れ合う青年の物語。お気に入り件数は澪には未知の三桁。五段階評価の総合は文章。ストーリー共にこれまた三桁を越え、レヴューには『あまりにも面白すぎて作者は運営様から警告を食らった(実話)』とある。
なに。これ。
あらゆる意味で突き抜けた『小説』に顔を真っ赤にしている澪。「ククク」と笑う霧島。
「あと、にちゃんねるで擁護と推薦ありがとうよ? 」へ???
「お、おれ、そんなことしてないんだが」思わすすっとぼける澪。ミエミエにも程がある嘘だ。
そんな澪に霧島は驚愕の事実を告げた。
「ありゃ、俺様が新しい作風に挑戦したくて作った捨てアカだ」
「なぁああああああああああああああ??????? 」
「ジャンピング土下座とは殊勝よの」親友の驚きの告白と、以前行った愚考の謝罪。
ひたすら土下座で謝りだす澪。明らかに正気ではない。その様子にカラカラと笑う霧島。
「感想、今度こそ本アカウントで頼むぜ。あ、でも痛いコメはカンベンな? 」
「俺の何処がイテェって言うんだよっ??! 」いつもの調子を取り戻す澪。いい友人だ。霧島。
澪。いい事を教えよう。何処が痛いか。だと。
全てだ。全て。
お前の全てがイタイ子だ。
「自覚がないとは救いようがない。おまえの作品と一緒だな」
「やかましいっ 」「辛口コメはチャンスなんだぞっ 」「お前だけにはっ 言われたくないっ 」
「うははははっ! 俺様を越えて見せろっ! 」「越えてやるぜっ! 師匠! 」
「うむ。まずは一作品完結させてから文句を言うのだ」「うっさい! エタる前に完結させてばかりじゃないかっ!」
「その実績が信頼の証よ」
霧島は親友の様子に微笑んだ。あえて活動報告に何も書かなくて良かったと。
親友が自分から書く意義を見出せてよかったと。
「俺は、読者さま一名でも書ききるぞっ!!!」「其の意気だ! 」
扉の前で二人のやり取りを見ていた澪の母親は、ちょっと息子とその友人の仲を怪しんでいた。
~くじけそうになっている男の子。おしまい ~
次回予告。
「日刊ランキングに乗ったよっ! 」
狂喜する女。しかし伸び悩む自作。
女が取った最後の手段とは。
次回。「人の評価が気になる女」
ご期待ください!




