Trackback(トラックバック)!! 夢よ! 届け! のプロローグ
「うーん? 」
ご存知川島美幸(ユーザー名K&M)はMioから『二次創作をまた書いてくれ』なるメッセージを受けて頭をひねった。
隣でネギをぶん回しながら某アイドルグループの曲の練習をしている変人にして変態。里中義樹。
彼の振り回すネギが川島少年の頭にぶち当たり、美幸の目がすっと細まる。
「……」
美幸の秘奥義・『真空・七本指カンチョー』が義樹の尻穴に見事に決まった。
悶絶する義樹を尻目にPCに向かいなおす美幸。
「二次、また書いてくれってMioさんが」「書けばいいじゃん」
里中少年は音楽や踊りのほうが好きだ。小説のようにじっと座って何かを書くのは性に合わないとの事。
「誰が同じなろうの作家の宣伝を無料でしなければならないんだよ」
美幸は笑った。そりゃレビューやブログで取り上げる程度はやるだろうが、
商業作家になっている他の作家を差し置いて一定の人間だけとなると話は変わってくる。
「ていうか! 『(検閲削除)』は許さん! 」「やばいネタを名指しで使うなッ! 」
音楽&声優オタの義樹には嬉しいマストアアイテムだが、美幸にとっては短編とCDで二千円以上は痛い出費だった。
とはいえ、『彼』の他の著作は美幸の本棚の一番手前にある。一応大ファンなのだ。
「じゃ、ネクストン」「おれたちゃ十四歳だぞ。あと四年は無理だ」
の、割には昔のエロゲに詳しい美幸だったりする。誰から教わった。
「と、いうか、皆が散々陵辱ものを書いて書いて書きまくったジャンルだろ。アレ」
公開停止や削除処分してから戻って来いとか言われても無理な相談だ。
「エロゲのエロを二次してどうするんだよ。くっつける気か」「ニコイチで売る中古車専門店みたいなこというな」
「Oneとかあるじゃん」「まぁあるけどさぁ」
「同じ会社でクロスオーバーとかやると、長谷川先生じゃん」「アレはスパロボだ」
ようするに、一社だけ許可されても魅力がない。
「いや、適当にムーンな内容で」「なんでムーンだよっ?! 」
十四歳の少年が書くエロはお姉さん方に需要があると思うぞ。
「てか、あんだけ規制ゆるけりゃなぁ」「ああ。思いっきり書きまくれたし」
一年前の美幸は恐ろしいほどの勢いで二次創作。主に熱血ヒーロー系を得意とする人気作家だった。
「恋姫は? 」「俺、アレは俺の芸風からなんか外れる気がする」
一応、深夜アニメにもなっている。しかし今更書こうとか思うなら否だ。
「と。いうかな。俺には聴こえるんだよ」「ん? 」
「俺は後の世に、『はわわ』とか言い出す美少女として売られたくないわッ! 」「ちょ」
キーボードクラッシュして暴れる美幸を生暖かく見つめる美樹。
「舞台と登場人物一新して『ネバーランドの苺』の二期でも書いたら? 」
「アレ、二次っていうか? まぁ二次で訴えるに訴えにくいモノを書いたが」
義樹が言う『ネバーランドの苺』は小児病棟を舞台としたヒーローリスペクト物の作品である。
悲劇物に見せかけた大ドンデン返し、荒れる感想欄に対する美幸のDQNな返信。
溢れるギャグと皮肉たっぷりのテイストは今なおPを稼ぎ続ける美幸の代表作だ。
「まぁその、二次書きやすいから作家が集中したサイトだしなぁ」「うむ。世話になった」
「しかし、今の環境では書きようが」「時代は変わるものよ」
限りなくグレーから真っ黒になった時代の流れから彼らは取り残され、あとには無駄にデカイ隙間だけ残った。
その隙間をこれから一次創作だけで埋める作業が残っているが、それに参加する義理は無いと彼らは思っている。
川島美幸。中学二年生。十四歳。
ユーザーページの自己紹介欄に『リアル厨弐病真っ盛り』と一言のみ書くこの少年、
皮肉屋にして毒舌。粗暴にして凶暴。そのくせ容姿は美少女にしか見えないという困った少年である。
里中義樹。同じく中学二年生。十四歳。
身長167センチ。体重51キロ。誰がどう見ても長身の美少女だが立派な男性である。
何故か女装しているが、本人曰くその気は無いらしい。
元、二次創作の雄と言われた少年と、ニコ動Pにして踊り手。
そして現在は。
「おい! 本番はじまるって! 」「うぎゃ~! 」
「なにサボっているのよ」「ワリィワリィ! 桃衣! 今行く! 」「うっひゃ~! 」
『アイドル』である。どうしてこうなった。




