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Review(レヴュー)!  作者: 鴉野 兄貴
小説家になれない!

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5 デートなう

三連続更新です。

 「デートなう」

悠馬はツイッターと2ちゃんねるに他の誰かが立ててくれた専用スレにスマートフォンですばやく書き込んだ。


 数分後、「あ。Mioさん。トイレいっていいかな? 」

そういって確認すると、両方とも嫉妬と怨嗟、賞賛と祝福のレスで埋もれていた。


 「女の子とデートするときは、自分からトイレに行ってあげるべし! 」

体構造的に女性は尿意に弱い。2ちゃんねるの人々のアドバイスだが。


 皆様ご存知。我等が水鏡みかがみみおは立派な男である。

細身だがよくみれば筋肉も無いわけではない。自称も『俺』だ。気づけ。悠馬。


 なので、澪にしてみれば。

「悠馬さんってトイレ近いなぁ。妙に長いし」

ちょっと違う。女の子のトイレに合わせて時間を潰しているだけである。


 澪は近くを通る熊のぬいぐるみが売っていたアイスを舐めた。

冷たい感覚が舌をしびれさせ、甘い味が口腔に広がる。

「うひひ。つめたぃ! 」ニヤリと笑う澪は携帯電話スマートフォンを取り出し。

「へぇ。You魔さんやるぅ! 僕は男同士で遊園地ですよ! はははOrz」とツイート。


 「なに。Mikagami君にも春が来る! 」「今は夏です」しょうもない会話をしている二人。

もしツイッターの位置情報を見ればお互いが同じところにいるのが判っただろうに。


 まぁ、澪も『おれ』と言っているのに女と思われているなんて思わない。

涼を求める澪は近くの噴水に走った。「うひゃひゃ! 冷たいっ! 」

噴水の周りはミストクーラーが設置されており、虹の輝きを演出する。

「お母さん! ミストミストぉ! とはしゃぐ子供たちに混じって、ミストの涼風に頬を緩ませる澪。


 「……」


 『 馬 鹿 野 郎 ! 女の子は自分から甘いのを食べるのは自粛するんだよっ?! 「食べたいの? 」と聞く前に自分が食べたいと言え! 』

2ちゃんねるのアドバイスを受けた悠馬はあわててトイレから出ると、Mioがいない。

帰ったか? 逃げられたか? 必死で視線をめぐらせると、噴水の前で子供たちと戯れるMioがいた。


 悠馬はトイレに入る前、アイスを売る熊を愛しそうに眺めるMioに見惚れていたが。

きらきら光るミストと涼風に身を任せて子供たちとはしゃぐMioの現実離れした美しさには。

……思考停止。ホワイトアウト。



 呆然としている悠馬に気がついたMioが悠馬の前に駆けてきた。

「あ。悠馬さん。アイス買っちゃいましたけど一口要りますか? 」

Mioはニコリと微笑むと『彼女』の舐めた跡が少しついたソフトクリームをこちらに向けてきた。

どきん。悠馬の胸は一気に危険なほどに高まった。


 「探しちゃったっす」言ってから後悔する悠馬。

しまった。『相手の所為にしたらマイナス』だ。

ニートの彼にはハードなアドバイスの数々だが、Mioこと澪も社交性はほとんどない。

霧島が話しかけなければ、女子たちが愛でなければ隅っこで一人本を読んでいるタイプだ。


 だから、こういう返事をした。

「ごめんなさい。俺、興味のあるものを見るとそっちに走っちゃって。

霧島……フォッグですけど、アイツにいつも手を握られてしまうんです」

特に大阪府にある古書が多いことで有名な『かっぱ横丁』周りでは手どころか腕をつかんで引きずっていく。


 「ほら、俺、小柄で見えにくいって」

ピョンピョンと軽く飛んで見せるMio。178センチの悠馬にはそれでも並ばない。


 また、フォッグかよ。悠馬は心底嫉妬に燃えたが。

きゅと悠馬の手を誰かが握った。「次はジェットコースターに行きましょうか」


 空手をやっているというMioの手はところどころタコがあるが、

それでもその指は細く長く。色白で美しい。

その指が自分の指に絡んでいる。


 ―― ゆ、指が絡んでいるよっ?! 指絡み来たコレ!! おちつけ おちつけ フーフー ストンストン ってそれはラマーズ法! てかコンビニ店員だって握ってくれないよっ?! うわあああ!!! ――


 「悠馬さん? 」Mioが不審そうに悠馬の顔を覗き込む。

柔らかそうな杏色の唇が悠馬の目の前で動いているが、何を言っているのか悠馬にはもう判らない。

もう限界だッ?! 悠馬はMioの手を振り切り、肩をつかんだ。

「ひゃっ?! 」かわいい声を上げるMio。


 「Mio! 俺はッ! 俺はッ! 」

一気にキスしようと迫る悠馬。


 しかし、悠馬の身体は軽々と宙に舞い。地面にたたきつけられた。所謂直角ジャーマンである。

「あ。……す、すいませんっ!? 悠馬さ……」近づくMio。

一方。悠馬は人前であるというブレーキは無く、理性も決壊していた。

キスッ! キスッ! キスキスキスッ! イェエエエィ!!!! ヒャッホー!!! とばかりにMioに抱きつこうとする。


 冷静さを完全に捨てた悠馬はMioの拳が軽く彼のみぞおちに触れていることに気がつかなかった。

Mioの全身が『彼女』の息吹を受け、緊張と共に『張る』。

見事なワンインチパンチを受けた悠馬は噴水にぶち込まれた。

はっ。正気に返った澪は青ざめる。霧島以外に本気の技をやってしまった。


 「すいません。なんか怒らせてしまって! 俺、帰りますッ! 今日はごめんなさいっ!! 」

思わず霧島以外の『友人』に暴力を振るったショックに冷静さを欠いた澪はその場を走り去った。


 「やっぱ。俺には友達なんて出来ないんだ」


 以前、霧島はこう言っていた。

『俺は小説家にはなれないけど、このサイトで友達百人を目指す』と。

澪に友達は霧島しかいない。それは今でも変わらない。


 「小説家にもなれない。友達も作れないッ! 」

馴れ合いは嫌いで、友人は自分から近づいてくれる霧島しかいない。



 「あら。澪。はやかった……」

澪の母、美緒は息子が泣きながら自室に走っていくのを見た。

毎日更新されていたはずのMioの『希望の風の物語』。

謎の更新停止を『彼ら』が知ったのは、次の日付を過ぎてからだった。

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