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別に潤子は好きで風俗の世界に足を突っ込んだわけではない。
相棒が風俗で手っ取り早くカネを稼いで田舎で暮らす! とか抜かすので付き合うことにしただけである。
その相棒だが。
「……じゅ~ん?? 」
……ニコニコと笑う高峰和代。十九歳。潤子より二歳年上。
ツヤツヤの黒髪にスレンダーな体つき。
端正で気品のあるナチュラルメイクと丁寧な(普段の……)話し言葉はどうみてもどこぞのお嬢様。
しかし、そのしなやかな身体は。
毎日暇さえありゃジムとボクササイズで鍛え抜かれており、強烈な破壊力を持っている。
「ま~た。切りやがったな……」「……い、いいじゃん。カズちゃんがかまってくれないし」
「ほ~? アタシの所為にする気か。……誰が。掃除するんだって? 」「家主のカズちゃん! 」
和代の笑みが凍った。同じく明るい笑みの固まる潤子。
「お前がしろ~~~~~~~~~~! 今すぐだ~~~~~~~! 」
ブチキレた和代は獲物に襲い掛かる蛇の速度でしなやかな身体を潤子に絡めた。
「コブラツイストは痛い痛いやめてえええええっっ??????! 死んじゃうぅぅ~~!!!」
今、手首切ってなかったか? 潤子。
「死ぬなら人の迷惑にならないところで死ねぇぇぇぇぇっっ??! バカやろぉぉぉっっ??!
こんな所で死なれたら、第一容疑者はルームメイトの私だろうがあああああああっっ??! 」
激痛にのたうつ潤子と情け容赦のない和代。まぁ和代の言いたいことは理解できるが。
というか、強い以前に元レディース総長だったり。和代。
気風もいいし、頭もいい。カリスマもある。お店のランキングだって1位だ。
……二人の出会いは2年前に遡る。
潤子は歌手を夢見ていた。バンドでヴォーカルだ。
ちなみに、潤子は今でも楽譜なんて読めやしない。ハイ! 死亡フラグ立った。
……色々あって、『便所』と書かれた潤子を見つけた和代は、
即座に鉄パイプを握り、一番強い男の頭に叩きつけ、次に一番弱い男の口に鉄パイプを突きこんだ。
最強のメンバーを一撃で伸し、一番弱い男の唇を切り裂き歯を砕き舌を潰す残虐な方法で倒した和代に戦意を失った3人の男。
あとは和代のワンサイドゲームであった。腕力は一歩譲るが和代には類稀なる知性がある。
家庭環境がよければ東大どころか留学していたはずだ。
本人も「私は金があったらNBA取ってたね! 」と言っている。
潤子は「ソレ、バスケだよ。カズちゃん」といいかけたが黙っていた。和代に逆らうとコブラツイストである。
和代は心の底では「女子高生」に憧れているが、それは叶わない夢であろう。
閑話休題。……それ以降、懐かれてしまった和代の人生は一気にケチがついた。
「なんでこんなのをヤサに置いちまったんだ」和代はかなり後悔しているが後の祭りである。
トラウマを負った潤子は話の出来る状態じゃなかったし、縛り付けないと勝手に自分を傷つけようとする。
かといって縛り付けると過去のトラウマが再燃するので和代は縛り付けたりはしなかった。
これも不味かった。さっさと精神病院にぶち込んでおけばよかったのだ。自分まで関与を疑われるが。
「あのクソ野郎どもの所為でっ!! 」
やっぱり、男と絡むのは良くない。硬派で通すべきだった。他の幹部の意見なんて聞かなければよかったが。
ちなみに、和代自身は身体を売ることに抵抗はない。
そもそも彼女の親は育児放棄も同然だったし、成人まで生き残ったほうが不思議だ。
中学生に入る前には『パパ』がいたような気がする。
「でも、コイツだけはなぁ……」
正直。付き合わせたくない。なんだかんだいって和代は潤子を捨てることが出来ないらしい。
本質的に人が良いのだ。暴行、強盗、窃盗等等の数々の犯罪を犯してきた身ではあるのだが。
「ジューン♪ 」
和代はニコニコ笑いながら、床を指した。
「掃除。宜しく」
潤子は泣きながらモップで強化アクリル製の床を拭きだした。
和代は色々と容赦が無い。それが逆に潤子の支えになっていた。
ちなみに、このマンションは全部屋。備え付け家具まで含めて強化アクリルと強化ガラス製であり、
潤子と和代の異様なやり取りは隣の部屋の住民にスケスケであった。
「見るなッ!?? 」
和代は大声で隣の家の住民に叫ぶと、潤子の前に立った。
潤子はバスタオル一枚のあられもない格好だった。
……和代がコブラツイストをかけたので。……現在は全裸である。
早く服を着ろ。潤子。
註訳:潤子は年齢詐称しています(お店では19歳扱い)。
二人は出身県から逃げに逃げて現在の生活に落ち着きました。




