泣かないで。梅雨は優しく包む
親にも看取られずに死ぬ子がいる。
今日も一人、『仲間』が死んだ。
忙しかったとか、色々いえる。
大人の事情なんて美幸が知るわけがない。
身内が駆けつけてくるときまで無理やり生かす事も出来ないわけではない。
でも、その子は、美幸と小谷野が見守る中。その命の灯火を。
……最後に、震える手を美幸に伸ばした。あるいは小谷野に。
美幸と小谷野は其の手を握ろうとして。
「プー 」
ピ ピ ピ と五月蝿かった電子音が途絶え。其の音だけが響いた。
「15時23分。御臨終です」
小谷野は、なんとか自分の務めを果たした。
……。
……。
「おい。たかが研修医が仕事サボって良い訳ねぇだろうが」
小谷野のデカイ姿が見えないとき、大抵彼はココにいるのを美幸は知っている。
なぜ先回りしたかと言うと小谷野の彼女(結婚予定。実は妊娠中)に逢いたくないからだ。
研修医と看護婦二人が消えればエライ騒ぎになってしまう。
美幸がいれば「友人の死に取り乱した美幸が無理やり連れ出した」と小谷野をかばえる。
反抗期と厨弐病まっさかりのヒネクレ者なりの優しさだった。美幸は本質的に優しい。
「……っ ! ……っ!! 」
「あ~!もう! きこえねぇよっ?!! 」
美幸は小谷野の脚を思い切り蹴った。つもりだったが其の一撃は弱弱しく。
「チ……。小谷野ォ。男が人前で泣くんじゃねぇよ」
そういって小谷野の肩を叩いた。
大きな大きな身体を震わせ、
ボロボロと泣く小谷野を見ながら、美幸は自らの無力をかみ締めていた。
あの子は。夢があった。
自分に夢を与えてくれた人のために。
自分がはじめて『役にたつことができた』憧れの人たちのために。
あの子は、慰問にきた『彼女たち』の衣装を作るのに協力したという。
「あのアイドルグループに入るんだ」そう言っていた。
「ば~か。小谷野。あいつは死んでねぇ。アイドルに生まれ変わったんだよ」
そういって小谷野の背中を弱弱しくぶん殴る美幸。
「だから、泣くな」
6月の雨は患者の身体には優しくない。美幸は傘を持ってきていた。
「…… ……」
二人の男の慟哭を、嘆きの心を。六月の雨は優しく隠してくれた。




