進みますか? この物語はコメディです。
「はははっ! みゆきちゃーん!!!!!! 聞いて聞いて! でね! 学校でね! 」
美幸は半眼でその『友人』を睨んでいた。
『里中義樹』
「女」「「男女」「よっ! 女装が似合う子ッ! 」
「可愛すぎ! 」「本年度、最も女装が似合う子ランキング一位」...etc.
幼少の頃からそういった放言を繰り返しては美幸にぶん殴られている。
でも、懲りない。懲りる様子が無い。
前は「みゆきちゃん」と言われた程度でも即殴っていたが、
昨今の美幸にはそんな体力がない。とにかくだるいし。
家もお隣同士で、里中家は美幸にとって実家より居心地が良かったりした。
最近おばさんたちに会ってないけど。
「フォフォフォ」
そういって謎のネギを取り出し、よくわからないダンスを披露する里中。
「おい」
美幸は不機嫌な声で里中を叱責する。
「病院内に土のついたネギを持ち込むな」
感染の危険が高い。よく持ち込めたな。
と、いうか、マジで叱られるので注意だ。無菌室にいる子もいる。
「これは、俺様が丹精こめてマンションのプランタで栽培したネギだ」
里中義樹は堂々と胸をはった。ちなみに、何故か女の格好をしている。
……14歳にしてはムキムキの里中。物凄く気持ち悪い。
「なんだ。そのキモイカッコウは」
いや、知らないわけではないが。一応、この病院、患者がPCを持ってもいい。
指定の場所でしか使えないが、個室の患者なら使うことができる。
インターネットにも接続可能だ。
「今をときめく超アイドル・初●ミク たん♪ 」
俺のダンスで貴様をみっくみくにしてやんよと持ち込んできたCDプレイヤーの音声とともに踊りだす里中を見ながら、美幸はナースセンターにコールした。
「おい。小谷野。このバカ追い払え」
里中は突如現れたフランケンにネギを渡して、スゴスゴと帰って行った。
(持って帰らないとダメなので、病院の出口で返却した)
小谷野はネギを受け取りながら、美幸にばれない様に里中少年の背を軽く叩いて慰めていた。
美幸と違って大人な小谷野。そこが人気の秘訣である。里中も小谷野が好きだ。
「毎日毎日毎日毎日。バカじゃね? あいつ」
そういってため息をついた。
「……」
はぁ。ため息をつく。
「全。削除。か。やってらんね~や」
酒も呑めない、ジュースも買えない。お菓子も買えない。ヤケ食いする食べ物もない。
「…… ……な」
「……気にしてねぇよ。バカじゃね? 大人の事情なんてシラネ~し 」
美幸はそういって小谷野にそっぽ向いた。ちょっと涙目になっていたかもしれない。
パッ。
どっからともなく、紙飛行機と造花が出てきた。
小谷野の得意な手品である。
彼は子供たちを少しでも勇気付けようと手品を習得している。
「うぜぇ!!!!!! つってんだろっ! フランケンっ! てめぇもでていけっ!! 」
不貞寝くらいしか。美幸に出来ることはない。
一人、病室で声を押し殺して泣いた。
無駄に広い個人用病室が。逆にうっとおしかった。




