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美和は自身を天才ではないと思っている。だから、良い意味で自分の能力には見切りをつけていて、
程ほどにこなせる程度まで習熟したら他人に任せられるところは任せて自分が責任を取るやり方だ。
アイデアに困ったことはない。自分の能力に見切りをつけている彼女はアイデアは組み合わせだと思っている。
変なオリジナリティにこだわるよりは王道のアレンジ+αを3つ用意するのが彼女のプレゼンテーションだ。
型破りで柔軟な発想が得意と皆は美和を評価するが、むしろ物事には型がある、基本があると思っている。
なんだかんだいって常識人なのだ。美和は。なろう書いてる時は痛い子だけど。
特に、アクセスアップのためブログに体操服とブルマーとか血迷いすぎた。
本人が死ぬほど恥ずかしいとおもってる割に効果薄いし。小説の評価とは関係ない。
「俺は、社会の型にはまりたくないんだ~! 」
「落ち着きなさい、水川君。もう。白川君も水川君を呑ませすぎよ」
「まぁ、色々溜まるものがあるんでしょうね」
高専高校出たてのショタっぽい容姿の青年、白川はそう答えた。
てか、目の前にそういう女がいるし。白川もそういうところが逆に好きだが。
「くすくす。水川、おちつけ」白川の婚約者になった清水嬢が水川の尻をバシバシ叩く。
水川は「ぎゃ?! 」といって背を弓ぞりにしてのたうった。……まだ痛いらしい。
ちなみに、部長も水川もあの夜のことは記憶になく、
強烈な尻の痛みと糞便のついた御互いの男性器を見ながら二人は華麗な見解の一致を見せたという。
「なかったことにしよう」
男たちは分かり合ったのだ。分かり合いたくないけど。
「型っていうのはね。大事よ。基本だし、私たちは天才じゃないの」
「そうなのかなぁ」「逢坂係長の言うことに間違いなし! 」
白川と清水が美和の言葉に反応する。白川は可愛い。
時々中学生に見えるほどだし、清水に余興で女装を施されたときはマジ惚れ警報が発令した。
清水は白川を「好みではない」と評しているが、ぬいぐるみのように扱いだしている。
「俺には個性があるんだ~! 」水川青年の叫びは止まらない。
「……」「……」白川と清水は温かい目で水川青年の肩を叩く。白川と水川は親友である。
「社会の型にはまった程度でなくなる個性なんて個性じゃないわ」
美和は冷静だった。「水川君も、白川君も。清水さんも春川君もとっても素敵な個性があるわ」
思わず立ち止まる四人。
「それは、社会の型にはまった程度でどうこうなるものじゃない。貴方たちだけの輝きなの」
「……」「……」「……」思わず感動してしまう3人。
春川は無言だ。時々スマフォをいじっている。最近の春川はソワソワしてオカシイ。
その事を美和が指摘すると春川は顔を真っ赤にしていた。風邪だろうか。可愛そうにと美和は思った。可哀相なのは美和の鈍感さである。こっち方面は恐ろしくニブイ。
「一回の100を目指さなくて良いわ。継続的な50をまず目指してみなさい。
それがずっと続けられるなら、皆は天才だって言ってくれるわよ? 」
「そ、そうですか? 」白川はイマイチ判っていない。
「あら、うちの会社の平均収入で、定年まで勤めて、
そうね。家庭環境円満だったら他の人はどう思うかしら?
修羅場の日もあるけど、私は皆に5時には帰れるように心を砕いているわよ? 」
そうなのだ。美和の元で働くということはこの業界ではありえないほど条件が良い。
健康診断、保険、年金もしっかりしている。
基本的に24時間お客さま都合の過酷な商売のはずなのであるが、美和は改善に心を砕いている。
「私もそんな家庭が作れたらいいなって思います」
珍しく、春川が返答したが、美和は彼の背をバシパシ叩いて激励するにとどめた。
「春川君は若いし、美男子だし、絶対良い子見つかるわよ。結婚のときは呼んでね」
そのやり取りをみて、白川と清水はなんとも微妙な気分だったが、とりあえず黙っていた。
今日は清水の指輪や衣装を見るだけなのに、何故か自分の指輪のサイズを測られたり、
「逢坂係長とウェディングドレスのツーショットしたいですっ! 」と言う清水の謎の要望に答えて採寸させられたりと不可解な一日であった。
ちなみに、この一件で美和のスリーサイズがばれた。172センチの82 58 89である。
女性の読者の皆様なら理解できるだろうが、超ガリガリだ。腹を引っ込めたら54になった。
下腹周りのへっこみぶりは健康を心配されるレベル(服が特注必要で金かかってしかたない)だが、美和は完全健康体である。
この業界の人間には珍しいが、美和は自分や部下の健康管理にも気を配っている。
「あれですよね。型にまずははまる。組み合わせ。小説と一緒ですよね」
春川が妙なことを言うので、「私たちの人生は小説より絶対面白いものよ。絶対ね」と苦笑いする美和。
「つまらない。普通はそう思うかもしれないけど、それが一番なの。目指せ! 一番面白いつまらなさっ! あはっ♪ 」
美和は先頭を切って歩き、そして笑う。釣られて笑う4人。
「って、いう本を見たわっ!!! 」
振り返って舌を見せる逢坂係長32歳独身。
「……」「……」「……」「感動台無し」
「いつ突っ込んでくれるかドキドキしていたのにっ?! 」
「わかるわけないじゃないですかっ?! 」「ひどっ?! 」「今のはちょっとありえない! 」
抗議する三人に爆笑する春川。
「ははっ! 三田紀房ですねっ! 漫画家のっ?! ブックオフで買いましたっ! 」
「正解っ! 春川君鋭いっ! 私が短大出たときに買った本なのっ! 」
美和は愉しそうにスキップを踏むと、部下たちとともに夜の街を跳ねた。
「遅くまでつき合わせてごめん。係長。水川!」
「良いわよ。愉しかったし」「俺たち3人はダチだろ? 気にスンナよ! 」
春川は会社では二人の先輩なのだが年の離れた後輩二人をダチと呼んで憚らない。いい兄貴分だ。
「じゃ、明日会社でっ! 」
華麗に手を振ってみせる逢坂美和32歳独身。
「い、家まで送りますよっ?! 」そういって追いかけてきた春川青年に美和は。
「あなた、今日は呑んでいるでしょ? 不要よ」といって可愛く春川の頭を小突いて見せた。
「じゃ、明日職場で。遅刻しちゃダメよ」
冗談交じりに投げキスをしてみせる美和。若い娘たちにモテモテの春川に対する32歳の「オバサン」の冗談のつもりなのだ。彼女的に。
でも、春川青年は冗談と取ってなかったり。
真っ赤な顔で立ち尽くす春川青年。それは別に酒の所為でもなかった。
美和の言っていることは、少なくとも作者(鴉野)の知る日刊一位の人たちに通じます。
斬新に見えた王道、継続的な更新。
傍目の巧い下手より読者に判りやすい文章と物語。
「妙な工夫」を廃し、ひねていない文章にくわえて誰が見ても判る普遍的な内容。
もっとも、作者の知る二人は美和みたいに小説閲覧の邪魔になる無駄な後書き前書きを書いたりはしませんが。そういうのは活動報告でやっております。
理想的なものを継続的に書き、しかも作者自身が愛し愛されている。
それは、一瞬の輝きより大事な気がしてなりません。
余談ですが美和の身長だとウエストは72くらいで問題ゼロ(むしろ健康体)です。68で普通。62でガリカリ。58なんてもうベコンベコンで腰骨見えているじゃないでしょうか。
過酷なダイエットダメ絶対(美和の場合素でガリガリ)。




