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「春川君。この件だけど」
職場を歩く華やかな美女(少々トウは立っているけど)。気品や色気、ほのかな甘いかおり(香水などつけていないのだが)、男女問わず惹きこまれる所作は他では見ない。
言動も落ち着いていて優しい。部下の責任は全て自分が取って好きにやらせる方針の彼女。
彼女の職場は。部下たちは常に明るく。活気に溢れている。
若干32歳にして係長を任された才媛。逢坂美和。
あまりにも有能にして素晴らしい美貌の持ち主ゆえ、却って婚期を逃してしまった。
「清水さん。休憩しておいて。私が代わりにやるわ」
「はい。逢坂です。お世話になっております。其の件につきましては……」
え? 誰だって? 美和です。美和なんです。
普段はWeb関係の仕事をやっているのです。しかも優秀な人材とか言われています。
執筆時間あるの? と思いきや業務効率化に務める彼女の係は超優良部署です。
だって執筆したいんだもん。そんなことは部下たちは知らないが。
「こ~ら。春川君。仕事以外でスマフォいじらないの」
コツンとファイルで「春川」と呼んだ青年の頭を小突く。
「痛ッ? 逢坂係長! すいませんっ?! 」
春川と呼ばれた青年はあわててスマフォを隠す。
「春川君も男の子なんだ~♪ エロサイトみてたの~? 」
32歳がそういってクスクスいう姿は本当ならイタイ筈なのだが、美和が言うと凄く、凄くさまになっていた。
物凄く可愛く見えるのだ。
3 2 歳 な の に 。
「ち、ち、ち、ちがいますよっ?! 」
春川青年30歳は必死で否定した。その様子を余裕のある笑みで流す美和。
エロサイトなど職務中に見る子ではない。それは美和も知っている。
しかし、春川は別の心配でヤバい状況だった。
隣に美和がいる。なんかいい香りがする! なんの香りだっ?
BBA色気ありすぎっ!?(おまえも三十路だ) 修正しろっ?!!
椅子に座っているので大丈夫だが、横を向いたのが不味かった。ピシっとしたパンツルックの美和。その脚は超長い。
股間や身体は美和の歳なら少し脂肪が緩みだすはずなのだが、もとよりガリガリの美和は学生時代から体型がほぼまったく変わっていない。
キレのいい股間の食いつきが春川青年の視界前に大写し。
「どうしたの? 」
子供のような微笑みを浮かべ、のぞきこむ美和。繰り返すが32歳。
ド貧乳だが、大きく開いた胸元(節電でクーラーをつけていないのだ)からは白くて決め細やかな肌が見える。ちなみに、ノーブラ。
それでも春川を誘惑する気は美和にはまったくない。正直、男心とか完璧に疎いし。
そして、春川青年の心中はかなり危険状態でソレどころではない。
平静を装っている彼、春川君の心の中を作者特権で覗いてみると。
―― ヤバいよ! ヤバいよ! 俺の股間が消費税率10%だよっ!??
デフォルト! デフォルト! 俺のパルテノン神殿が立ち入り禁止になるよっ?!
債務超過! 債務超過!
静まれ?! 静まれ?! 俺の太平洋側メタンハイグレードッ?!
荒ぶれっ 荒ぶるなッ 未来の日本国軍資金っ?! 其の価値1000兆円! ――
……。
ここのところ風俗に行っていない春川青年には、いささか至近距離に美和がいるのは刺激が強すぎるようだ。
ちなみに、春川青年を擁護すると。
男と言うのは疲れていれば。勃起する。「あ~ 暇だなァ 」とか言っても勃起する。
朝起きたら排尿を促すために。勃起する。良い女を見ると。勃起する。
女子高生が「キャー♪ 」と短い制服を抑えていても。
ロリでもないのに勃起する。疲れていたら妹相手でも。勃起する。酒を飲んでいても、稀に勃起する。
とりあえず、勃起が30分以上収まらない日がある。意味なく、勃起する。
でも上司の前で勃起したら、社会的に死を意味する。部長(男)の前でなくてよかったな。春川青年。
「ふふふ。仕事は真面目にやってね♪ 」「は、はいっ! 」
春川は有名大学出のエリートだ。
二歳年下の有望株の青年を美和は世話すると同時にライバルとしてみていた。
曰く、「短大出だからって、ばかにしないで。私はやってみせる」結果的には美和が係長になったが。
美和が係長どまりなのは、あまりにも美人過ぎて。つまりそういうことだ。
美和をかばって引き込んでくれた今の部長には感謝している。
「(今の。白い画面って。……まさかね)」
男女問わずこんなにモテモテな美和だが、意外というか当然なのか男性経験はない。
とても、とても罪作りな娘である。
逢坂美和32歳独身。ちょっと、色々気になる御年頃であった。




