想定内のはずなのに
サージェス視点です。
父の執務室に呼ばれた。
正面に座った父が口を開く。
「ユフィニー家から返事が届いた」
「それで先方は何と?」
わずかに緊張が滲んでしまった。
受けてくれただろうか。
それとも、断られてしまっただろうか。
たぶん、断られることはないとは思うのだが。
勿体つけることなく父が教えてくれる。
「前向きに検討する、と」
「そうですか」
即座に合意とはいかなかったようだ。
それも仕方ないことだろう。
話し合いが必要だと言ったのは私だ。
齟齬は残したくなかったし、誤解を与えかねないものは排除しておきたかった。
その誤解から断られるのも不本意だ。
条件が合わないなど仕方ないことで断られるならともかくとして。
そのための話し合いも必要だ。
誤解される前に話し合いはしたい。
婚約の件は"前向きに検討"で構わないからそれだけでもさせてもらえないだろうか?
それはさすがに別途要請しないと駄目だろう。
応じてくれるだろうか?
下手に話を持っていくとそれこそ不信感を抱かれかねない。
事業を乗っ取ろうとしたり、技術者を搾取しようとしていると思われる可能性がある。
勿論先日話し合った通り、うちにそのようなことをするつもりはない。
一度そんな誤解を持たれてしまえばその誤解を解くのは大変だろう。
そんな誤解を与えてしまえばグレイスとの友情も壊れてしまうだろう。
そうなればグレイスに恨まれる。
確実に。
それほどグレイスはリーリエ嬢を気に入っている。
一番はそんな誤解を与えないことだ。
だがそれとは別にーー
不信感を持たれたくない。
そんな思いもある。
落胆したように見えたのだろうか、父が励ますように言う。
「きちんとユフィニー家内で話し合われたということではないのか?」
「そう、ですね」
「喜ばしいことではないか。きちんと家族内で話し合いができているんだぞ」
「そうですね」
「お前がリーリエ嬢に疑念を持たれるようなことをしたのだろうが」
「必要なことでした。認識の齟齬は後々問題になります」
「まあ、それはそうだな」
それなら何故そんな納得のいっていない表情をしているのだろう?
いや、何か言いたげというほうが正しいか。
首を傾げる。
「どうかしましたか? 何か問題でも?」
私の顔をじっと見た父が困惑したように訊いてきた。
「……前向きに検討すると返事をもらって落胆していたのではないのか?」
「断られてもおらず、前向きに検討されているのに落胆する必要がありますか?」
「ないな」
そう、落胆する必要はないのだ。
これも予想の範疇であるのだから。
だから残念に思うことはない。
その必要はない。
そのはずなのだ。
それなのに、残念だと思う気持ちがあって私はただ困惑した。
読んでいただき、ありがとうございました。




