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獣王の息子  作者: 日向夏
17/32

16、謎の用務員

 何を考えているのかわからない。


 改めて紅花は思った。

 誰かといえば、いつも隣の席でクッションに顔を埋めている少年に対してだ。


 颯太郎はサトリを抱えてホテルを脱出した。

 

 元々、獣人なので身体能力は高く、不死者として底上げされていた。サトリ一人抱えたところで、その脚力は落ちず、なんなく隣のビルに飛び降りた。


 そして、残された紅花が手伝ってと言われたことと言えば。


 ナプキンに包まれた拳銃を捨てることだった。どこにといえば、下の中庭にある池だった。大きさ的には十分で外しはしないだろうけど、万が一誰かに当たるかもと考えるとドキドキした。

 

 ご丁寧に颯太郎は、サトリから上着をはぎ取って渡した。


「重みがもう少しある方がいいかな。砂糖とか塩とかの塊でも、氷でもいいよ。でも、塩だったらお魚さん死んじゃうかな」


 とりあえず水に溶けてなくなるものを言っている。偽装としては浅はかだけど、少なくとも相手の気を引くことができるだろう。


「じゃあ、あとで隣に迎えに来てくれるとうれしい」


 それだけ言って少年は慌てるサトリを押さえこんで飛び去った。


 おかげで紅花は大変だった。

 

 黒服たちに見つからないように、拳銃と服を捨てるため、中に倒れた植木鉢の土を入れた。黒服で包むだけじゃこぼれそうなので、トイレットペーパーを拝借してぐるぐる巻きにしてそのあと服で包む。水に溶けるのですぐ溶けだすだろう。


 それをまた屋上に上り、風と落下地点を少し頭に入れて落とした。


 上手くいったと思ってようやく中華飯店に戻ったら、大体決着がついていた。


「あっ、おかえり」


 オリガ姉さんたちが、武装集団をのしていた。

 うん、想像できたことだった。


 それでもそれが全員ではないらしく、他に仲間はいたようだ。


 もし、あの場で颯太郎がサトリの前に現れなければ、その仲間がサトリを始末していただろう。


 颯太郎がサトリに頭の中でなにを伝えたのかはわからない。ただ、サトリを黙らせるだけのなにかがあったはずだ。


 その後、颯太郎を迎えに行くと、隣のビルで颯太郎はごく普通にエントランスで待っていた。大きな段ボール一つ抱えて。






「ねえ、颯太郎くんって一体何者?」


 真剣な顔をして聞いてくるオリガ姉さんに紅花はなんと答えればいいのだろうか。オリガ姉さんはすっぴんで、ネグリジェを着ている。結局、今日はうちにお泊りすることになった。


 愚兄は大変不愉快そうだったが、さすがに断るまではしない。


 部屋は余っているし、ベッドも備えつけのものがある。少し埃っぽいので、今日は紅花の部屋で一緒に寝るのだ。


「猫又ハーフだけど」


 先祖返りの人虎ワーウルフで、おばあちゃんの影響で死亡フラグが見える。


「それは聞いているわ」

「ならそれなんじゃない?」

「でも、それだけじゃないと思うのよね」


 ベッドの上でごろんごろんしながらオリガ姉さんが悩む。


「アヒムも首を傾げていたわ」


 颯太郎はサトリをアヒム兄さんに引き渡した。たぶん、それが一番安全だと思うからだ。


 アヒム兄さんはサトリを連れて帰り、残りはみんな居酒屋でご飯の食べ直しをした。居酒屋さんのメニューってなんであんなに美味しいんだろう。


「サトリは希少な種族だし、普通は人間に混じってそうそう見つかるものじゃないのよね」


 種族といっても、もう純血は存在しない。つまり、獣人と同じように先祖返りを起こしてその力を持った者が生まれるという。アヒム兄さん曰く、一般的に超能力者でテレパシー能力を持っているものが、このサトリというものらしい。

 

「どうして見分けられたのかしら?」

「確か、お父さんが人外研究家で詳しいとか言ってたけど」

「そうなの?」

「うん、若ママの甥っ子に当たるのかな」


 どんな人かは知らないけど、研究者というだけあって頭がいいのかなって思う。


「日高家の血筋かあ、ならしっかりしているわけかなあ」


 曖昧ながら納得してくれたオリガ姉さんはベッドの上でごろごろするのを止めた。


「電気消すよ。明日学校だから」

「はーい、どうぞー」


 紅花はリモコンで照明を消すと、すぐさま緩やかな寝息を始めた。


 一日が長く、とても疲れた。






 翌日、学校に来ると、マイペース猫少年はクッションに顔を埋めて、二度寝を楽しんでいた。

 

 紅花は、スポーツバッグを後ろの棚に入れると、宿題のノートを確認する。

 

 クラスメイトたちはホームルーム前のおしゃべりに夢中だ。そして、嫌でもその内容が耳に入ってくる。

 

「それがさあ、今度入ってきた用務員さんがなんかすごく若いんだよ」


 たしか千春ちはるさんも言っていた気がする。かっこいいとかなんとか。

 

 別にかっこよかろうが、若かろうがどっちでもいい。


 それよりあの温室の世話はどうなっているのだろうか。

 そちらのほうが気になった。


 今日のお昼は温室に行ってみようかなと考える。


 ふと、外の天気を眺めようとすると、隣で寝ていた颯太郎が顔を上げていた。

 なにか窓の外をじっと眺めている。小鳥でも飛んでいたのだろうか。


 ポクポクと足音が響いて先生が来たら、颯太郎は何ごともなかったかのように、クッションに顔を埋めた。

 そして、先生に蹄パンチを貰っていた。


 織部先生の蹄パンチは体罰ではなく、一部ではご褒美らしいので今のところ教育委員会にとやかく言われたことはないという。


 紅花もちょっと受けてみたいと思った。






 四時間目は美術の時間だった。芸術棟の美術室にいき、ひたすらデッサンをする。先生の趣味なのだろうか、被写体は玉ねぎだった。


 うん、玉ねぎだ。


 なんだか見ているだけで目がしょぼしょぼする。

 

 颯太郎を含めた何人かの獣人はひくひく鼻を動かし嫌な顔をしている。

 犬や猫にとって、玉ねぎは猛毒なので嫌なのかもしれない。獣人にまで毒かどうかはわかならいけれど。

 

 ひたすら木炭でデッサンしていると、ちりっと首の後ろが焼けるような感覚がした。

 ふと、外を見る。


 誰もいない。


 気のせいかとまた木炭を紙にのせる。


 颯太郎は、飽きたのか消しゴム代わりの食パンを食べていて怒られていた。


 




 授業が終わり、教室に戻ろうとすると、ちょんと手をつつかれた。


 颯太郎だった。

 さすがに気配を感じなくても、慣れてきた。 


「なに?」


 クラスメイトはさっさと教室に戻っている。美術室に残っているのは足を止めた颯太郎と紅花だけだった。


 紅花としては、クラスでは誰とも仲良くないことにしておきたい。颯太郎ともまともに話すのは、温室にいるときくらいだ。


「なんか見られている気しない?」

「……そうなんだ」


 やっぱりと紅花は思う。


 朝、颯太郎が外をじっと見ていたのはそれが気になったのだろう。


「一体誰が?」

「さあ?」


 颯太郎がそう言いながら、教室とは反対方向の出口から出る。そのまま外の非常階段につながっており、よっと手すりの上に乗った。


 高さは三階で打ち所が悪かったら死んでしまう。もちろん、颯太郎が死ぬような身体ではなくなっているが、それでも普通足がすくんでしまうだろう。


 でも、颯太郎は幅の狭い手すりの上でも十分バランスをとって、そこから学園中を見渡していた。


「すごいね。前は全然見えなかったのに、ずいぶん遠くまで見える」


 前はあまり視力がよくなかったのだろうか、きらきらした目で眺めている。


「不死者の視力の平均は4.0以上だから」


 紅花はさらにいい。

 眼鏡兄貴ことアヒム兄さんは眼鏡をかけているが、実際は伊達である。いや、伊達というより視力が良すぎるため、それをおさえるために眼鏡をかけている。遠くを見るのに便利な能力だが、デスクワークだとかなりやりにくいらしい。


「ねえ、昼休み終わっちゃうけど」


 颯太郎はじっと外を見回すだけだった。

 なにがやりたいのだろうか。


 ふと、颯太郎の尻尾がスラックスからはみ出た。ピンと立ち、ぶわっと太く広がっている。


「見つけた」


 颯太郎はそう言うと、ぴょんと手すりから飛び降りた。階段に降りたのではなく、地面へと飛び降りる。


「ちょ、ちょっと!」


 くるりと回って四つん這いになって着地すると、獣のように走り出す。両手は前脚にかわって地面を蹴っていた。


「ちょっと、いきなりなんなの!」


 紅花は颯太郎を追う。

 

 紅花とて、普通の人間とは違う身体だ。一般人とは比にならない運動力を持つけど、彼に追いつけない。目の端にかろうじてうつるのをなんとか追いかける。


 中庭を抜け、部室棟を横切り、体育倉庫の前まで来たところで、颯太郎は止まる。


「……おかしいなあ」

 

 颯太郎は四つん這いから二足歩行にきりかわると、大きな前脚の土を払いながら言った。


「どうしたのよ、走りだしたりして」


 紅花は少し肩で息をしながら言った。


「なんかここらへんで視線を感じたんだよね」


 颯太郎は体育倉庫をぐるりと見回した。


「視線って何か見たわけじゃないの?」

「うん、なんかぞくってした感じなのこっちにあったから」


 颯太郎の感覚はやっぱり野性的だ。

 

 紅花は呆れたまま、颯太郎の頭をぽんと叩いた。


「言っとくけど、仮にここに誰かがいたとして、私たちが見えるわけないじゃない」


 紅花はさっきまでいた芸術棟を指す。非常階段はかろうじて見えるけど、とても誰がいるまで判別できない。この学園の敷地は広い。それだけ離れている。


 もし見えるとしたら、紅花たちを超える視力の持ち主または双眼鏡でも使って見ていたことになる。

 

 体育倉庫は人通りが少ないけど、休み時間を利用して球技をする生徒はけっこういる。道具をとりに来て、双眼鏡で眺めているような人がいたら即通報だろう。


「気のせいかなあ」

「気のせいよ。教室に戻るよ」


 紅花は唸る颯太郎の首根っこを掴む。見た目より密度が高くずっしりしている。


「今、何キロ?」

「昨日、測ったときは九十八キロだったかな。紅ちゃんは?」

「うるさい」


 颯太郎の身長は紅花と変わらないくらいだから百五十ほどだろうか。勿論、人間で考えるとありえない重さだけど、不死者の比重は重い。それでも、紅花が平均八十キロ、昨日は七十三キロだったことを考えると、かなり重い方だろう。


 獣人って元々比重が高いのかな?


 紅花はそう思いながら、颯太郎を引きずっていった。






 中学生というものは多感なお年頃だ。どんな小さなことでも色恋に発展させてしまうし、話のタネになる対象を見つけたら、大騒ぎするものである。


 そして、今現在、話題のネタとなっているのが、例の用務員だった。紅花は見たことないが、クラスのほとんどの子、いやほとんどの女子は見た、もしくは見学しに行ったらしい。


 話を統合すると。


 若い男らしい。


 けっこう顔はいいらしい。

 

 がたいも悪くないらしい。


 ただ、見た目はけっこう軽く、中身も会話したものの話によると軽いという。


 別に、紅花が興味を引く対象ではないのだが、肝心の仕事ぶりについては全然聞かない。


 たぶん、仕事はあんまりやっていないのかな。


 紅花は日に日に荒れていく温室を見ながら思った。


 前は綺麗に花がらまでとってあった薔薇が、枯れたまま頭を下げていた。紅花ははさみを手にすると、ぱちんと枝を落とす。

 土いじりは汚れるから嫌いだけど、若ママの付き合いで慣れていた。


 お昼を食べたあと、颯太郎も紅花と同じように庭園を綺麗にしている。こちらは紅花よりも手慣れたもので、手際よく草を引き抜いている。そして、集めた草を丁寧に乾かしているとおもったら、乾いたものを一か所に集めて、上にどこからともなくシーツを取り出して被せた。


「ふう、もうちょっとボリュームが必要だな」

 

 そう言って横になった。


「……」


 うん、なんとなくそう思った。


 隣で颯太郎だけごろごろしているのに、自分は枝の剪定をしているのは妙に悔しいので、肉球柄のシーツをつかむと、思い切り引っぺがした。


「ひどい、紅ちゃん」

「私だけ働かせるほうがひどいわ」


 颯太郎に剪定ばさみを渡すと、紅花が干し草のベッドに横になる。確かに、まだボリュームが少ない。


「紅ちゃんも手伝ってよ」

「私はあんたの監督」

 

 横暴と言われようが知ったことじゃない、ちゃんとこういうところで上下関係ははっきりさせておかないと。

 

 なんのために、サッカーボールおにぎり作ってやってると思ってんだと、紅花はふんと鼻息を荒くする。


 庭を綺麗にするのは紅花も颯太郎も義務じゃない。ただ、過ごしやすい環境を作りたいだけだ。

 前の用務員さん、戻ってこないかなーと思うのは贅沢だ。


 そういえば。


「ねえ、颯太郎。新しく来た用務員さん見た?」


 周りであんなに騒いでいたら、嫌でも気になる。もしかして、見ていないのは紅花だけじゃないだろうかと勘繰る。


「見たことないよー」


 颯太郎の言葉で少し安心した。

 騒いでいるのは女子生徒だけだ。ゆるふわこと古床も、血清を打って元気になったためかきゃーきゃーうるさく騒いでいる。颯太郎をボウガンで撃ったことを微塵も覚えていないとは、都合がいいと同時に、やるせない気分にもなる。


 あの時の彼女はまだ、吸血鬼の催眠が抜け切れていなかったのだろうか。

 他の吸血鬼もどきの人間たちは、彼が気を失うと同時に気を失っていたのに。


「あっ、でも」


 颯太郎は何かを思い出したかのように、つぶやいた。ぱちりと伸びすぎたいばらが落とさせる。


「変な視線感じるじようになったよね、最近」

「ええっと、気のせいだと思うんだけど」


 それがどうしたというのだろうか。


「ちょうど用務員さんが入ったころくらいじゃないのかな?」


 颯太郎のその言葉に、紅花の眉がぴくりと動いた。





 

 聞き耳を立てた情報を合わせて見ると、用務員さんは放課後、校内を一周回って、なにか不備がないか見回っているらしい。

 

 掃除を終えた紅花たちは、学園の外周を回ることにした。


「ねえ、本当にやるの?」

「やるの」


 颯太郎はあまり乗り気じゃない。多分、今日の午前中でおやつの煮干しが切れて食べるものがないからだろう。

 昼間、紅花が巨大おにぎりをあげたのに、まだ足りないのだ。


「お迎えはいいの?」

「まだ、時間あるから」

 

 今日はまったくアレを見る気配はない。アレさえ見なければ、紅花はそうそう怖いものはない。


 颯太郎も渋りつつ、ついてくるのはそういう危ない感じがしないからだろう。


 むしろ、お腹さえ満たしていれば、乗り気になるかもしれない。なにかを追いかけて捕まえようとする本能は強そうだ。


 紅花は、スポーツバッグから食パンを一斤取り出す。行儀が悪いかもしれないが、帰りの車の中で食べようととっていたものだ。それを半分に千切る。


「はい」

「おおっ!」


 颯太郎が目を輝かせる。

 たかだが食パンだが、食べ盛りの颯太郎にとってはご馳走だろう。チューブ式のバターを塗りたくって食べる。


 もぐもぐと咀嚼しながら外壁の内側を歩く。用務員さんは、学校の見回りが終わると一度、用務員室に立ち寄って日誌を書くらしい。そう考えると、用務員室をスタート地点にして、紅花と颯太郎がそれぞれ反対側に歩いていけば出会えるだろう。


「なにかあったら連絡するのよ!」

「あいさー」

「携帯充電切れてないよね!」

「だいじょーぶ」


 颯太郎が敬礼して壁にそって歩いていく。


 紅花はどこか不安だなと思いつつ、反対側を歩く。


 それにしても広いなあ。


 元々、東都学園の生徒数はけっこうな数だし、初等部と高等部も一緒だ。敷地面積も、どこかのドーム何個分と形容される広さだ。

 

 もちろん、そんな広い場所を用務員さんが一人で回れるわけがないので、高等部と初等部には別の用務員さんがいる。だから、中等部の敷地だけでいいけど、それでも広い。


 ときおり、がさごそと音がする。多分、山が近いこともあり、小動物が色々住み着いているんだろう。


 不安と言えば不安だけど、恐怖までにはいかない。


 もっと怖いものがたくさんあるって知っている。


 五分ほど歩いた頃だろうか、なにか小さな影が見えた。


 なんだろう。


 体育倉庫の裏当たりだ。

 

 四つん這いの生き物が数匹。

 犬がいる。


 そういえば、野犬がでるとか話で聞いていた。

 もしかして、それがこんなところに集まっているのだろうか。


 紅花は思わず走っていた。

 その足音に特に耳のいい犬が、気が付いたらしい。驚いて一目散に逃げる。他の犬も散り散りになる。


 そして、そこにもう一つ影が見えた。

 

 派手な金色の髪をしたつなぎの男の姿だ。


 男もまた、紅花に気が付いたのか、その場を走って逃げ出す。


 逃げたら追いかける。それが生き物の本能というものだろうか。紅花は走る。


 男と野犬たちがいた場所にはなにか食べ物が転がっていた。ドッグフードの類だとわかる。

 

 だけど、そんなことはどうでもよくて追いかけるほうが先だ。


 逃げるということは、それだけまずい行動をしているからだろう。

 

 もしかして、紅花たちをずっと観察していたのかもしれない。


 すぐに捕まるかと思ったけど、そうでもなかった。

 相手の足は速い。紅花の足では追いかけるのに精いっぱいだ。

 

 一般人の足じゃない。


 紅花は追いかけながら、そろそろだと、男の向こう側を見る。


 男は逃げる方向を間違えた。逃げるなら、校舎側に逃げるべきだった。学園の外壁に沿うように逃げるべきではない。


 案の定、見慣れた影が視界の端に映った。


「颯太郎!」


 電話をしなくても、聞こえるだろう。


「そいつを捕獲!」


 その瞬間、颯太郎の目がきらんと光った。遠くからでもわかる目の色の変わりようだ。


 颯太郎は地面を蹴り、一瞬姿が消えたかと思った。

 いや、消えたのではなく飛んだ。

 飛んで、獲物を一発でおさえこんだ。


 まさに猫の狩りだった。


 颯太郎におさえこまれた影はばたついている。いきなり出てきた伏兵に混乱しているのだろうか。

 颯太郎がおさえているうちに紅花は、急いで走る。


 そして――。


「紅ちゃん、これでいい?」


 颯太郎が目を細めて、上にのっかっている人物を肉球でぺたぺた触った。


 褒めて褒めてという顔は、猫というより犬っぽかった。


「上出来よ」


 上出来だけど……。


 紅花は、おさえこまれた男の顔をみて眉を歪めた。


 噂通り、チャラそうだけどまあまあかっこいいほうに入るんじゃないかなという容姿だった。

 おそらく、身内贔屓を抜いても。


「なんでここにあんたがいるの?」

「ひどくない? すげー、ひどくない?」


 そこにいたのは、金髪で黒目の男だった。でも、本来の色彩は、黒髪に金色の目だ。目はカラコンでもはめているのだろう。


「なにやってんのよ、ニート」

 

 それは、紅花の兄だった。


 ニートこと恭太郎だった。

 


 


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