092 幼女は友人に同情する
数日前、スミレちゃんが風抜けの町カスタネットに行って、フルーレティさんのお手伝いをしに行くと言って出かけた。
私が壊してしまった建物の修理のお手伝いをするので、暫らくの間は帰って来れないと、その時スミレちゃんから聞いたのを私は覚えている。
◇
スミレちゃんが落ち着くまで、私達は一旦立ち止まる。
それから、少し時間が経ちスミレちゃんが泣き止んだので、私はスミレちゃんを離した。
そして、スミレちゃんから事情を聞いたのだけど……。
「ニクスちゃんとフルーレティさんが、ベルゼビュートに捕まった!?」
「はいなのです」
なんでカスタネットにいるはずのスミレちゃんが、ここにいるのかわからなかったけど、それなら納得だよ。
なんだか、凄く大変な事になってきてるなぁ。
もしかして、村の皆を元に戻して終わりって状況でも、無いのかも……。
「ニクスが……。だから、魔族の君が猫にされてしまったのか。それで、俺がこの村にいる事も、知られてしまったわけか」
「たっくん。ニクスお姉ちゃんが捕まると、何でスミレお姉ちゃんが猫になっちゃうの?」
「ニクスの能力でスミレさんを一度人間にしてしまえば、そこからケット=シーの能力で猫に出来てしまうからね」
「たっくんと一緒?」
「そうだよ。ルピナスちゃん」
2人が話し終わると、スミレちゃんが深刻な顔をして口を開く。
「フルーレティ様は最後まで幼女先輩の事を黙っていたなのですが、ニクスちゃんのパンツを使ってベルゼビュート様が拷問を繰り返したなのです」
え?
ニクスちゃんのパンツを使って拷問?
「見ていられなかったなのです。何度も何度もニクスちゃんのパンツで頬を叩かれ、フルーレティ様は限界だったなのです」
あ。
思い出した。
結局、あの時使わなかったから忘れていたよ。
フルーレティさんの弱点って、女の子のパンツだったっけ?
パンツに触ると、ダメージを食らうんだよね?
うーん。
バカだなぁ。
スミレちゃんが、お目目をうるうるとさせて私を見る。
「だから見ていられなくなって、サキュバスの一人が、幼女先輩とフェニックスの居場所を喋ってしまったなのです」
どうしよう?
申し訳ないけどくだらなすぎて、私は全然可哀想とか思えないよ。
だってパンツだよ?
見ていられなくなってって、もう別の意味で見ていられないの間違いなんじゃないかな?
どちらかと言うと可哀想なのは、パンツをそんなおバカな事に使われてしまったニクスちゃんだよ。
私も色々と、パンツで酷い目に合ったからわかるよ。
私だったら、もうそのパンツ穿きたくないもん。
本当に、ニクスちゃんが不憫すぎて可哀想だよ。
「スミレさん。俺の居場所をってのはわかるが、何故ジャスミンの事までサキュバスは聞かれたんだ?」
言われてみれば、たしかにそうだよね。
私の事なんて聞きだしても、特に何も良い事があると思えないもん。
「それは、フルーレティ様を懐柔させた相手を聞きだして、邪魔される前に猫にする為なのよ」
なるほどだよ。
それで、私は猫ちゃんにされちゃったんだ。
「でも、幼女先輩がまだ猫にされてなくて、良かったなのですよ。幼女先輩の事だから、猫ちゃん可愛いとか言い出して、誰よりも早く猫になっちゃうと思っていたなのです」
流石スミレちゃん。
その通りだよ。
私の事をよくお分かりですね。
……うう。
なんだか恥ずかしい。
真っ先に猫ちゃんになった事は、黙っておこう。
うん。
それが良いよね。
「私も猫ちゃんにはなっちゃったけど、土の精霊さんのラテちゃんと契約して、元の姿に戻ったんだよ」
そう言って、私は頭の上で眠っているラテちゃんを、スミレちゃんに見せる。
「凄いなのです! 流石幼女先輩なのですよ!」
「えへへ」
私は褒められて、嬉しくなってスミレちゃんをなでなでする。
「スミレ。ニクスは無事なのか?」
うん。
そうだよね。
ニクスちゃんが心配だよ。
酷い事されてないといいんだけど……。
「実はサキュバスの一人が情報を流した時に、エリゴスが裏切ったなのよ。それで、ニクスちゃんは裏切ったエリゴスに連れて行かれて、それ以降は見ていないなのよ。多分、今頃はお風呂に入れられてるなのよ」
ど、どうしよう。
連れてかれてお風呂って、もうそれ、絶対アレする為だよね?
安心だけど安心出来ないよ。
と言うか、エリゴスさんはフルーレティさんを裏切ったんだね。
でも、元々はフルーレティさんがベルゼビュートを裏切ってるんだから、元の居場所に戻ったって事かな?
「そうか。……とにかく今は、村へ急ごう。まずはケット=シーの能力を、どうにかしないといけないしな」
「うん」
私は返事をしてから、スミレちゃんを抱き上げる。
モフモフで気持ちが良い。
「私、このままでも良い気がしてきたなのですよ~」
「何言ってるのよスミレちゃん。ちゃんと元に戻してあげるからね」
「はいなのです~」
村に戻ったら、まずはケット=シー。
早く皆を元に戻さなくっちゃ!
私はそう心に誓い、村へと急いだ。




