088 幼女の上は気持ちいい
「嫌です。事情はわかったですけど、ラテはこの居心地の良いお家を、離れようとは思わないです」
たっくんの案内で、大地の精霊さんのお家に到着する。
それから、お話をした結果がこれだった。
ラテちゃんは凄く眠そうな顔で私を見ると、大きなあくびをする。
「この猫さんと契約なんてしたら、ラテがごろごろ出来なくなってしまうです」
ご、ごろごろって……。
「村人達は今まで通りラテをごろごろさせる為に、身の回りのお世話をするです。ラテは、ここから一歩も外には出ないです」
わぁ。
可愛いにゃぁ。
もの凄くひきこもりだぁ。
ここは大地の精霊さんの住むお家で、村から南西に進んだ先にある小さな噴水広場の地下。
シロちゃんは村の外に連れて行くわけにもいかないので、ラークのお家に帰ってもらったので今はいない。
だから、ここに来たのは私とルピナスちゃんとたっくんだ。
精霊さんについて、いくつかわかった事がある。
村の大人達は、大地の精霊さんの身の回りのお世話をしているらしい。
なんでも、村周辺の緑豊かな自然を自然災害などから守ってもらう代わりに、お世話をする事になったようだ。
だから、他の精霊さんと違って、人との関わりが深い珍しい精霊さんなのだ。
そして、その大地の精霊さんの自己紹介。
大地の精霊ラテール=スアー。
トンちゃんと同じで、手のひらサイズの二頭身。
違うところは、羽が無いところ。
服装も、ボーイッシュな感じのトンちゃんと違っていた。
頭には小さな冠。
身に着けている服は可愛いドレス。
まるでお姫様だ。
「そこを何とか」
たっくんがラテちゃんに頼むと、ラテちゃんはたっくんを見て、面倒くさそうな顔で大きなあくびをする。
「ラテは今お昼寝で忙しいので、もうこの話は終わりです」
ラテちゃんはそう言うと、ベッドで横になろうとする。
すると、ルピナスちゃんが「はい」と大きく手を上げた。
「なんです?」
ラテちゃんは面倒くさそうに、大きなあくびをしてルピナスちゃんを見た。
「ラテちゃんは、猫ちゃんとお話出来るの?」
あ。
そう言えばそうだにゃ。
トンちゃんは私の言葉を、全然理解出来て無かったもん。
ちょっと気になるかも。
「ラテは大地の精霊だから、大地に生きる生物の言葉くらいはわかるです」
「すごーい」
「凄くなんかないです」
ルピナスちゃんが褒めると、ラテちゃんが言葉とは裏腹に顔を赤らめる。
か、可愛いにゃ。
トンちゃんも可愛いけど、ラテちゃんも可愛いよー。
精霊さん最高だにゃ!
「もう、ラテは寝るです」
ラテちゃんは顔を赤らめながら、ベッドで横になる。
すると、たっくんが大声をあげた。
「ベッドなんかより、ジャスミンの頭の上の方が、寝心地が良いぞ!」
え?
突然何を言いだすにゃ? たっくん。
そんな嘘だと、わかりきった事なんかで――
「それは本当です!?」
起きた!?
しかも、相変わらず眠そうな顔してるけど、もの凄く目をキラキラとさせてるにゃ!?
可愛い!
「本当だとも。いつも、ジャスミンの頭を撫でていた俺が言うんだ。間違いない」
いやいや。たっくん。
それ、全然説得力ないにゃ。
頭を撫でるのと、頭の上で寝るのは別物だもん。
「わかったです。そこまで言うなら、その寝心地の良い頭を条件に、そこの猫さんと契約をするです。早く元の姿に戻して、新ベッドをゲットです」
えぇえーっ!?
いいの!?
て言うか、私ベッド扱いにゃ?
私がそんな事を考えていると、ラテちゃんが私の周囲に小石や葉っぱや木の枝を置き始める。
「えっと。これは?」
「しっ。黙ってるです」
「う、うん」
ラテちゃんに牽制で、私はお口にチャックする。
ラテちゃんが色々と置いている間、ルピナスちゃんは目を輝かせて、その様子を見ていた。
「始めるです」
ラテちゃんが、私の目の前で舞い踊る。
すると置かれた小石などから、だんだんと、淡く黄色い光が発せられ始めた。
それは、私の全身を包みこんでキラキラと舞い、幻想的な光景を生み出した。
私はその時、トンちゃんと契約を結んだ時と同じ温かさを感じた。
そうして暫らくして光が消えると、ラテちゃんが私を見上げて、その眠そうな眼でニコッと微笑む。
「契約完了です。それがアナタ、ジャスの本当の姿ですか」
「え?」
気が付くと、いつの間にか私は、元の姿に戻っていた。
「ありがとー。ラテちゃん。これからよろしくね」
「おやすいご用です。そんな事よりも」
ラテちゃんがぴょーんっと、私の頭の上に乗っかる。
そして、私の頭の上でうつ伏せに寝転がる。
「本当です。ジャスの上は、凄く気持ちいいですー」
本当に気持ちいいんだ?
私の頭の上。
私は思わず苦笑する。
「これなら、よろしくしてあげてもいいです」
そう言うと、ラテちゃんは私の頭の上で、スヤスヤと眠ってしまった。




