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079 幼女の長い長い一日の終わり

 私にも能力があるとわかってから、少しだけ時間が過ぎた頃、警備や町の人達に説明を終えたサキュバスのお姉さん達が戻って来た。

 だけど、戻って来たサキュバスのお姉さん達は、何故か気まずそうな雰囲気だった。


 どうしたんだろう?


 と、私が疑問を抱いていると、サキュバスのお姉さんの1人が前に出る。


「フルーレティ様~。どうしましょう? エリゴス様が捕まっちゃいました」


「あの太った魔族ッスか? あんなナリッスからねー」


 こらトンちゃん。

 失礼な事言わない!


「説明してくれるかい?」


 フルーレティさんが、サキュバスのお姉さんの髪の毛を、優しく撫でる。


「はい。フルーレティ様の言付ことづけ通りに、町の警備の人や町の住人達に説明していたんですけど、状況確認をするって言って警備の人が館内に入ろうとしたんです」


 うんうん。

 まあ、普通はそうだよね。


「そしたら、エリゴス様が突然いつもの調子で、気持ちの悪い事を言ってしまったんです」


 サキュバスのお姉さんの髪を撫でている、フルーレティさんの手が止まる。


「幼女が入ったお風呂には触るなよ! あの幼女が入ったお湯は全部オレッチのものだから、お前等には渡さん! 全部オレッチが飲み干すんだ! って」


 あ。

 フルーレティさんの顔が青くなって、むしろ白い?


「あのデブ、本当に頭おかしいッスね」


 トンちゃん少し黙ってて?


「トンペット。人の見た目で、悪口を言うものではないなのよ」


 さすがスミレちゃん。

 良い事言うね。


 私がうんうんと頷いていると、トンちゃんが私を見て首をかしげた。


 あ。

 可愛い。


「でも、ご主人もあの太った魔族の事、おデブさんとか言ってるッスよ?」


 あ。そうだった。

 私めちゃくちゃ失礼だったよ!

 人の事言えないよ!


「何言ってるなのよ? 幼女先輩に罵倒されるのは、ご褒美なのよ」


「そうよドゥーウィン。ジャスミンに言われるなら、あのデブも本望に違いないわ」


「そうね。エリゴスったら、お嬢ちゃんにおデブって愛称で呼ばれてるんだって、凄く喜んでいたわ」


 と、スミレちゃんとリリィの話にオネエさんが入る。

 私はオネエさんの言葉を聞いて、若干引き気味に考えた。


 よ、喜んでいたの?

 今度からは、エリゴスさんって名前で呼ぼう。

 うん。

 なんか怖いし、それが良いよね?


「しかし参ったな。エリゴスが捕まってしまったのか」


 フルーレティさんが正気をとり戻したようで、ため息をついてから、いつもの爽やかな顔に戻る。


「私達が魔族ってバレてしまったら、もうこの町で仕事が出来なくなるね」


 あー。

 心配するところは、そこなんだね。


「フルーレティ様。この町から撤退しますか?」


「いいやプルソン。あんなのでも、私の部下なんだ。放ってはおけないだろ? 今から詰所に迎えに行くよ」


「ふふ。流石フルーレティ様。それなら、この場は私に任せて下さい」


 フルーレティさんはオネエさんと言葉を交わすと、私の前に来て跪く。


「すまないねお姫様。急用が出来てしまったから、私はここで失礼するよ」


「う、うん。あ。でも、私もそろそろ帰るね」


「そうかい? それは残念だ」


 そう言うと、フルーレティさんが私の手を取って、手の甲にキスをした。

 前回の時とは違って、フルーレティさんに対しての恐怖心が無くなったからなのか、私は少しドキッとして顔が熱くなるのを感じた。


「お姫様。君から話してくれるのを待っていたのだけど、残念ながら時間が無くなってしまった事だし、私から話す事にするよ」


 フルーレティさんのイケメン顔が、真剣な眼差しで私を見つめる。


「これから先、私は二度と人を苦しめる事はしないと誓う。そして、フェニックスの秘密は守りぬくよ。君を、悲しませたくはないからね」


「うん。ありがとう」


 私が照れながら笑顔で答えると、フルーレティさんは爽やかに微笑んだ。

 のだけど、フルーレティさんはリリィのかかと落としを食らって、微笑んだまま床に顔が埋まりました。


 「次にジャスミンにキスしたら、挽き肉にしてやるわよ」


 もう。リリィったら。

 冗談に聞こえないぞ。


 そうして、私は笑顔のまま、顔から血の気が引くのを感じたのだった。





 ホテルに戻ると、私は何処に行っていたのか、ママに問い詰められた。

 流石に、ホテルを出た時の服装と、帰って来た時の服装が違っていたから、気になったらしい。

 そんなわけで、ママに銭湯に行っていた事を喋って、お風呂に入っていたら服が盗られたという事にして説明をした。

 すると、私から説明を受けたママは驚いて、持っていたチョコの実をコロンと落としてしまった。

 そして、ママはそのまま口を開けて、固まってしまう。


 あ。もったいない。

 服を盗られたって嘘は、失敗しちゃったかな?

 本当の事と嘘の事を混ぜると、意外とばれにくいんだけど、そうだよねぇ。

 よく考えてみると、服が盗られたって普通に事件だもんね。


 そこまで考えて、私はふと思う。


 事件と言えばだよ。

 あんな事件があった直後なのに、ママってばチョコの実を食べていたんだ。

 普通は当分の間は、見たくなくなる気がするんだけどなぁ。

 流石は私のママだよね。

 うんうん。

 神経が結構図太い。


 私がそんな風に考え事をしていると、止まった時間が動き出すかのように、ママが口を開いた。


「え? ジャスミン。あそこの銭湯に行っていたの!?」


「うん」


「あそこの銭湯って、大きな雹が降ってきて、半壊したって聞いたわよ? 大丈夫だったの?」


「う、うん。よく知ってたね?」


「それはそうよ。町の風が止まった次は、雹が降ってきたんだもの。皆何かの前触れなんじゃないかって、大騒ぎだったのよ」


 あー。

 そっか。

 そう言えば、町の風も止まってたんだよね。

 このホテルに戻ってる途中で、また風が吹き始めてたけど。

 でも、納得だよ。

 だから、大きな雹が降ってきて、建物が壊れたって嘘も通じたんだね。

 結構無理があるようにも思ったけど、恐怖心がその無理を通しちゃったんだ。


 私がそんなふうに納得をしていると、トンちゃんがクルクルと私とママの前に飛んできた。


「それよりご主人~。早くボクの事を紹介するッスよ~」


 突然現れえたトンちゃんを見て、ママは一瞬驚いた顔をして、すぐに目を輝かせた。


「あらまあ。可愛い。ジャスミン、この子は?」


「あ。うん。風の精霊のトンちゃんだよ」


「ご主人とは、契約を交わさせて頂いたッスよ」


「け、契約? え? どういう事なの?」


「へー。ジャスミンは風の精霊とお友達になったのか」


 そこで、黙って話を聞いていたパパが会話に入る。


「凄いじゃないか。パパは風の精霊は初めて見たよ」


 パパが私の頭を優しくなでる。


「えへへ」


「はあ。アナタねえ、最近ジャスミンに甘すぎよ?」


「いいじゃないか」


「ご主人のパパさんは親ばかッスね~」


 トンちゃんが呆れた顔をして、私のパパを見た。

 ママはため息をついて、私に目を合わす。


「ジャスミン。きちんと説明してくれるわよね?」


「う、うん」


 いつもの優しいママが、凄く怖い目でこっちを見てるよ。


 私は顔をひきつらせながら苦笑して、その場で正座する。


「えっとね、何から話せば良いかな……」


 そうして、私は一つ一つ今日の出来事を説明していった。

 もちろん、説明をしていたら最初に言った嘘がばれて、もの凄く怒られました。

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