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050 幼女が結局一番強い

 言葉を喋る大きなゴブリンを一撃でノックアウトしたリリィが、私に真剣な眼差しを向ける。


「ジャスミン。2人の交際なんて、私は認めたくないけど、でもジャスミンが……」


 リリィが涙をいっぱい目に溜めて、言葉を詰まらせる。

 私は呆れながらも苦笑して、リリィを優しく撫でてあげた。


「そんなんじゃないってば」


「本当?」


「うん。本当だよ」


 私がリリィの涙を人差し指で拭うと、リリィが少し頬を赤らめて笑顔になる。


「そう。そうなのね! それなら良かったわ!」


「ねえ? ところでリリィ。リリィって、こんなに強かったの?」


 私は気絶している大きいゴブリンに指をさす。


「ああ。この間、オークの事件があったでしょう?」


「うん」


「あの時、このままじゃジャスミンの純潔を守れないと思って、体を鍛える事にしたのよ」


「そうだったんだ」


「すごーい」


 ルピナスちゃんがリリィの話で、目をキラキラさせる。


 ルピナスちゃん可愛い。

 って、うん?

 あれ?

 一瞬納得しちゃったんだけど、少しおかしいよね?

 だってそうでしょう?

 オークが現れたのが、たしか10日くらい前だったはず……え?

 嘘でしょ? リリィ。

 たったの10日で、そんなに強くなっちゃったの?


「私の負けなのよ。リリィに見事に美味しい所をもっていかれたなのよ」


 と、そこでスミレちゃんがリリィに握手を求める。


「貴女も中々のものだったわよ」


 リリィとスミレちゃんが握手を交わす。


 何だかよくわからないけど、2人でなんか納得し合ってる。


 リリィとスミレちゃんが握手をしていると、気絶していた大きいゴブリンが唸りながら目を覚ました。

 そして、目を覚ましたゴブリンを見た時に、私はある事に気がついた。


 あれ?

 よく見たら、他のゴブリン達が動きを止めてる?


 そう。

 どういうわけか、ゴブリン達が動きを止めて、こっちを見ていたのだ。

 しかも、何かに怯えるように、歯をガチガチとさせて足を震わせている。

 そして、私はゴブリン達の視線の先の人物に気がついた。


 スミレちゃん?

 あっ!


「そう言えばスミレちゃんって、元々魔族の幹部なんだっけ?」


 私がそう口にすると、スミレちゃんが「そうなのですよ」と返事を返す。


 なるほど納得だよ。

 スミレちゃん本当に頼りになるなぁ。

 ゴブリンからしたら、スミレちゃんは逆らう事が出来ない絶対的な相手なんだ。


「バティン様。ドウシテココニ?」


 目を覚ました大きいゴブリンが、スミレちゃんを睨みつけた。


「お前の様な下っ端に、教えてやる義理はないなのよ」


 スミレちゃんも、大きいゴブリンを見下すような目で見る。


「ソウカ。ヤハリ、サルガタナス様ノ報告ハ本当ダッタノギャ」


 サルガタナス様?

 先日のピエロの格好をした変態さんだよね?


「バティン様……イイヤ。バティン! オ前ノ抹殺命令ガ出テイル! ココデ死ンデモラウギャ!」


「お前程度に出来るのかしらなの」


 場の空気が一転し、ビリビリと張り詰めた空気が流れ出す。

 私も思わず息を飲んで、スミレちゃんと大きいゴブリンに注目した。

 のだけど、その時、リリィの悲痛な叫びが響き渡る。


「きゃああぁっっ!」


 私はもちろん、この場にいる全ての者がリリィに注目する。


「私とジャスミンの、初めての共同作業の愛の結晶がーっ!」


「え?」


 愛の結晶?

 何それ?


 疑問に思って見てみると、途中まで作っていたボールに入ったチョコが、一連の騒動でひっくり返ってしまっていた。


 ああ。

 勿体無いけど、仕方がないよね。

 食べ物を粗末にするのはよくないけど、それどころじゃなかったんだもん。


 私は仕方がないと納得したけど、リリィには無理だったようだ。


「アンタ達、覚悟は出来ているんでしょうね?」


 リリィが物凄い怒りの形相で、ゴブリン達を睨む。


 ひぃ!

 怖い!

 怖いよリリィ!

 落ち着いて!


 以前にも感じた事だけど、綺麗な顔立ちをしている為、怒ると凄く怖いのだ。

 そして、そんなリリィの前にスミレちゃんが立った。


 良かった。

 スミレちゃんが止めに入ってくれた。


「リリィ。そのひっくり返っているものは、もしかしてもしかするなのよ?」


 ん?

 なんか嫌な予感がするよ?


「そうよ。出来たら、分けてあげるって約束していた、ジャスミンの手作りチョコアイスの成れの果てよ!」


 スミレちゃんに衝撃が走る。ように見えた。

 そして、ほんの僅かな間だけ俯いたと思ったら、スミレちゃんの体がわなわなと震えだす。


「楽に死ねると思うななのよ!」


 スミレちゃんがそう叫ぶと、髪の毛が赤黒く、そして大きく燃えだした。


 ええぇっ!?

 何それ!?

 めちゃくちゃ怖いよそれ!

 って言うか、絶対やばいやつだよね!?

 熱がこっちにまで伝わってくるくらいに、もの凄く熱いよ!


 ゴブリン達もたじろいて、恐怖のあまり後ずさる。 


るわよ。スミレ」


「了解なのよ」


 本当に2人の雰囲気が、もの凄くやばくなってきてしまった。

 このままだと、本当にゴブリン達をあやめかねない勢いだ。


 2人は、一気に大きいゴブリンとの距離を詰めて掴みかかる。


 止めないと!


 ゴブリンは危険な存在だ。

 もし、2人がいなかったら大変な事になっていた。

 だけど、だからって殺すとか、私はそんなの嫌なのだ。

 そして、大切なお友達に、殺しだとかそんな事をしてほしくない。


 正直、今の2人は、ゴブリンなんかよりよっぽど怖い。

 スミレちゃんは、本当に魔族なんだと思わされるような、凄い常識外れな熱を帯びている。

 リリィだって、いつもの優しいリリィとは思えない程に、殺気を出して大きいゴブリンを襲っている。

 だけど、怖がってもいられない。

 私は勇気を振り絞る。


 リリィとスミレちゃんがいよいよ止めをさしてしまいそうになった時、私はギュウッと2人を後ろから同時に抱きしめる。


「殺しちゃダメッ! そんな事、大好きなリリィとスミレちゃんは、絶対にやっちゃダメなんだからね!」


 私が2人を抱きしめて叫ぶと、2人の動きが止まった。


「え? ジャスミン。今のは愛の告白?」


「私も幼女先輩が大好きなのですよ! 今のって、告白なのですか!?」


 良かった。


 私の想いが届いたようで、いつもの2人に戻ってくれたようだ。

 私はホッとして、2人を離す。

 すると、2人とも私に振り返り、目を輝かせる。


「告白じゃないよ。でも、大好きなのは本当なんだからね」


 2人は少しだけしょんぼりして、なんだかそれが可笑しくて、私はクスリと笑う。

 しかし、私達が和やかムードになっている中で、大きいゴブリンの殺意が膨れ上がっていた。


「ヨクモヤッテクレタナ」


 大きいゴブリンが、怒りでワナワナと震えだす。


「シカシ、バティンモ地ニ落チタナ! コレナラ大先生ノ敵デハナイギャ!」


 大先生?


「大先生! 出番デス!」


 大きいゴブリンが誰かを大きな声で呼ぶ。

 私は周囲を見まわした。


 ゴブリン達にも助っ人がいたなんて!

 どうしよう?

 あのゴブリンの余裕な態度を考えると、絶対にやばいのが来ちゃうよね?


 私は次第に焦りを感じて、手に汗を握った。


「大先生? 大先生出番デスヨ!?」


 ん?

 あれ?

 出て来ない?


 その時、ゴブリン達に手を引っ張られ、そして背中を押されて大先生が姿を見せた。

 そして、その大先生は「ばっ! おまっ! やめろー!」と叫ぶ。


「あ」


 私は現れた大先生を見て、その見覚えのある姿に驚いて、ポカーンと口を開けて目を丸くした。


「ドウシタンデスカ? 大先生。元幹部ノ、バティント言エド、今ノ奴ナラ敵デハナイハズ!」


「ば、馬鹿かお前! バティン様なんておまけみたいなもんだ! もっとヤバいのがいるのが、わからないのか!?」


「ド、ドウ言ウ事デスギャ?」


「どういう事もこういう事もあるか! さっきの、あの凶暴な2人を止めた時の魔法を見てなかったのか!?」


 懐かしいなぁ。

 もの凄い久しぶりだよ。


「あのお嬢ちゃんはな! 魔法で目にも止まらぬ速さで凶暴な2人の所まで移動して、しかもお前に止めをさそうとした一撃を魔法で止めたんだよ!」


 あ。

 凄い。

 アレ見えてたんだ。

 でも、それもそうだよね。


 簡単に説明すると、氷のレールを魔法で引いて滑りやすくして、その上を重力の魔法で滑ったのだ。


「あんなのと戦えとか、お前はオラを殺す気かーっ!?」


 大先生の悲痛な叫びがこだまする。

 すると、リリィが呆れた顔をして、大先生に近づいた。


「いつかのオークじゃない。アンタ、何でこんな所にいるのよ? 反省したんじゃなかったの?」


 そう。

 大先生の正体は、村で以前パンツを盗んでいた、あのオークだったのだ。


 それにしても、全く困ったオークだよね。

 また悪いことしてるなんて。

 反省の色がうかがえない子には、お仕置きしちゃうぞ。


 リリィに話しかけられたオークはゴブリン達の手を解き、ジャンプして私の目の前まで飛んで来ると、そのまま土下座した。


「どうもすみませんでしたー! 反省します! もうしません! 許して下さいー!」


 ジャンピング土下座なんてする人、初めて見たよ。

 実際に目の前でされちゃうと、若干引いちゃうかも。


 その、見事なまでの土下座をするオークの姿に、ゴブリン達が大口を開けて驚愕して固まる。

 そんな中、私はクスクスと笑う。


「しょうがないなぁ」


 そう言って、私はオークの頭にそっと優しく触れた。

 オークは顔を上げて、私の顔を怯えて見つめる。


 私って、そんなに怖いのかな?

 ちょっとだけショックかも。

 もしかして、笑顔で喋ると逆に怖いと感じちゃうあれなのかな?


 そんな事を思いながら、私は一つため息をする。


 でも、それなら。


 私はちょっと怒った顔をして、オークの鼻先に人差し指をちょんとあてて口を開いた。


「今度こそ、ちゃんと反省しないとダメなんだからね」

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