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285 幼女の勘違いは終わりを迎える

「リリィ、大……好き…………」


 私は命が途絶える前に、精一杯の気持ちをこめて、それだけを言葉にした。

 そして、意識が消えた筈の私の身に、不思議な事が起こった。

 私の意識は眠りから覚めた様に、突然少しずつ戻って来たのだ。


 あれ?

 なんでだろう?

 苦しくない。

 おかしいな。

 さっきより意識もハッキリしてきたし、凄く体調が良くなっていくような?

 あっ。

 わかった。

 死んだ時にいくって言う、あの世に来ちゃったんだ。

 納得だよ。

 そうかぁ。

 死んだ後って、意外とあっさりしてるんだなぁ。


 そう思った私は、ゆっくりっと目を開ける。

 すると、さっきまで見えなくなっていた視界が戻って来ていて、何かキラキラ光る宝石の輝きのような光の粒子が私の目に映る。

 そして、大量に大粒の涙を流すリリィの顔が視界に入った。


「リリィ? って、あれ? 私生きてる?」


 私は確かめるように自分の手を顔の高さまで持ってきて、手の平を見たり、キョロキョロと周囲を見回す。

 すると、私の顔を見て、もの凄く驚いた顔をしたリリィと目が合った。


 え、えーと……。


「ジャスミン!」


 リリィが私を強く抱きしめる。


 ど、どうしよう?

 えーと、えーと……。


 リリィは目からボロボロと大粒の涙を流しながら、私を抱きしめ続ける。

 私はそんなリリィを見て、心配かけちゃったなぁと感じて、優しく頭を撫でた。


「リリィ。ただいま」


「ええ。ええ。おかえりなさい。おかえりなさい。ジャスミン」


 泣きじゃくるリリィの頭を撫でていると、それを今まで驚いた表情で見ていたトンちゃん達が、一斉に私に向かって飛び込んできた。


「ご主人!」

「ジャス!」

「主様!」

「ジャチュ!」


「わっ。皆、良かった無事だったんだね」


「それはこっちのセリフッスよー!」


「良かったです! 本当に良かったです!」


「もう駄目だって思ったんだぞ!」


「ジャチュ! ジャチュー!」


 トンちゃんとラテちゃんとプリュちゃんとラヴちゃんの4人もリリィと同じように大粒の涙を流して、私に抱き付いてギュウッとするので、私は4人を撫でてあげた。

 するとその時、いつの間にか地面に立っていたベルゼビュートさんの声が聞こえてくる。


「あの世にいけなかった事を、後悔せよ!」


 ベルゼビュートさんが魔法を放つ。

 その魔法は、さっき私が受けた魔法より、さらに強力な魔法だ。

 幾つもの魔法陣が浮かび上がり、そこから多種多様な魔法が次々と飛んで来る。


「ベルゼビュートさん。トンちゃん達に当たったら危ないでしょ」


 私はそう言って、飛んで来る魔法に手をかざし、全ての魔法をロックオン。

 そして、私はホーミングミサイルを飛ばす要領で、炎の玉を魔法で作りだして放つ。


「なん……だと…………っ!?」


 私の放った魔法は、ベルゼビュートさんの魔法を全て相殺して、ベルゼビュートさんが驚愕して声を上げた。


「あっ。そうだ。リリィにお願いがあるんだけど、いいかな?」


「何かしら?」


 私が訊ねると、リリィは涙を流しながら私と目を合わせるので、私はリリィの涙を手で拭いながらお願いする。


「これをベルゼビュートさんに飲ませて欲しいんだよ」


 私はそう言って、マンゴスチンさんから貰った不老不死を解除出来る魔法薬を取り出した。

 そして私はニッコリと笑って、リリィにそれを差し出す。


「皆を傷つけようとするベルゼビュートさんには、可哀想だけどこれを飲んでもらって、少し反省してもらいます」


 私が説明すると、リリィはクスリと笑って、私から魔法薬を受け取った。


「そうね。任せて」


 リリィが勢いよく急降下して、ベルゼビュートさんに接近する。

 そして、私はこの時に気が付いてしまった。


 あれ?

 リリィ飛んでない?

 ……うん。

 見なかった事にしよう。


 私は飛べるはずの無いリリィから目を逸らして、地面に開いた大きな穴を見た。

 そして、その近くに横たわるたっくんの姿を見つけた。


 たっくん!?


 私は驚いて、急いでたっくんの許まで飛んで行く。

 すると、たっくんの側まで来た私に、鼻水を垂らしながら号泣しているスミレちゃんと、目が赤くなっているサガーチャちゃんが駆け寄って来た。


「幼女先輩ー。良かったなのです。良かったなのですよー」


「ジャスミンくん。本当に無事で良かったよ」


「2人にも心配かけさせちゃったんだね。心配かけてごめんね。それと、心配してくれてありがとー」


「そんなの、当然なのですよ」


「ああ。それより、体の調子は大丈夫なのかい?」


「え? うん。驚くくらいに快調なんだよね。でも……」


 私はそう言って、横たわるたっくんに視線を向ける。


 こうして、私が今生きてるって事は、そう言う事なんだよね。

 どうしてこんな事になってしまったのかは分からないけど、大切な人の命……たっくんが死んでしまったんだ。


「ごめんね。私のせいで……」


 そう言葉にした途端、悲しみが溢れてきた。

 私が耐えようの無い悲しみを感じて、涙が頬を伝ったその時、突然たっくんがムクリと起き上がる。


「え?」


 突然のたっくんの起き上がりに、それを予想してなかった私を含め、ここにいる全員が驚く。


「お。ジャスミン元気そうだな。運が良かったな~。いやぁ。まさか、あんな偶然が起きるなんて思わなかった。流石に俺も驚いた」


 たっくんが笑いながら私に話すけど、正直頭に入って来ない。

 と言うか、本当に何を言っているのか、私にはわからない。

 私が本気で困惑していると、私に代わってラテちゃんがたっくんに訊ねる。


「いったい何が起こったです? タイムは責任を持って説明するです!」


「あ、ああ。悪いな。そうだな。無事にジャスミンも俺の能力、不老不死化に成功した様だし、もう話しても良いだろうな」


 あ。

 やっぱり成功はしてるんだね。


「まず知ってもらいたいのは、不老不死になる事の条件なんだが、まずは失敗のパターンだな。失敗条件は二種類ある。一つは、間違って俺以外を殺した場合だ。それをすると、殺した途端に呪いがかかって、失敗するだけじゃなく死ぬ」


 死!?


「次に自殺だ。この場合は、一度命を無くしてから甦る。わかりやすく言うと、ゾンビの様な存在になるから、その影響で不老になるんだ」


 そっかぁ。

 じゃあ、マンゴスチンさんとソイさんは不老だから、自殺を選んだんだね。


「そして成功の条件が、俺を大切な相手として心から受け入れて、その上で俺を羽で殺す事だ。勿論、この事を知っていたら無効になる」


「そう言う事ッスか。確かにご主人は、フェニックスを兄の様に慕ってるッス」


 うんうん。と、私は頷く。


「でも、さっき主様は何もしなかったんだぞ?」


「がお」


 そうだよね。

 たっくんを殺すどころか、私が死んでた筈だもん。


「そうだな。でも、さっきジャスミンが死んだ時に魔力を放出して、結構強い風が吹いただろ? キラキラ光る魔力の粒子を乗せて」


「え? そうなの?」


「そうッスよ。ご主人は……まあ、知らなくても当然ッスね」


「その時に、ジャスミンに渡した俺の羽が魔力を乗せた風に乗って、一緒に空に舞ったみたいなんだよ」


 私は言われてポーチに手を入れて調べる。


 本当だ。

 無くなってるよ。


「わかったんだぞ! 主様の魔力の粒子を乗せた羽が、フェニックスに刺さったんだぞ!」


 え?

 いやいやいや。

 そんなおバカな事が……。


「その通りだ」


「えええぇぇーっ!?」


「まあ、俺がベルゼビュートに向かって音速で飛んだ時に、たまたま目の前に羽が落ちてきただけだから、殆ど俺の自殺なんだけどな。と言っても、まさか死んだジャスミンの魔力を乗せた羽で死ぬなんて、俺も予想外だった。いやあ、世の中何が起きるかなんて、分からないもんだな」


 何そのミラクル!?

 おバカなの!?


「俺も死人に殺されたのは初めてで、正直驚いた驚いた」


「フェニックスがバカで助かったッス」


「バカは死んでも治らないとは、フェニックスの為にある言葉です」


「バカに感謝するんだぞ」


「バカ。がお」


 皆、バカバカ言わないであげて?

 ほら。

 たっくん少し凹んでるから。


「流石幼女先輩なのですよ! 役に立たないフェニックスを、死んだ後に殺すなんて、それでこそなのです!」


 スミレちゃん?

 今の本当に聞いてた?

 完全に私の意思が関係ない感じだったよ?


「と言うか、フェニックスは死んだッスよね? 何で起き上がったんスか?」


 うんうん。

 そうだよね。


「俺は不死鳥だ。何度だって甦るさ」


 ……えぇぇ。

 何それぇ?

 たしかにそうかもだけど……はあ。

 悲しんだ私がバカみたいだよ。

 それを聞いたら、なんだか凄く疲れたよ。


「あはははは。また百面相しているよ? やっぱり私はジャスミンくんの事が好きだなぁ」


 サガーチャちゃんが笑いだすので、私はなんだか恥ずかしくなって顔を隠す。


「あれ? でもおかしくないッスか?」


「です。ベルゼビュートが不老不死になったのは、どう説明するです?」


 あぁ、そっか。

 そうだよね。

 ベルゼビュートさんも、たっくんの事を大切な人だと思わなきゃいけなかったんだよね。


「そんなの簡単だろ。ベルゼビュートは俺の事を、不老不死になる為に必要な、命を持った大切な道具だと思っていたんだからな」


「それなら私も納得出来るなのよ。ベルゼビュート様は、アスモデちゃんやマモンちゃん達みたいに猫じゃない相手には、そういう所がある人なのよ」


 スミレちゃんがそう言って顔を顰めた時、私はふと思い出す。


 あれ?

 そう言えば、アスモデちゃんって死んだと思ってたけど、生きてたって事だよね?

 もしかして私、とんでもないアンジャッシュ現象を引き起こしていたって事?

 アスモデちゃん……勝手に殺してごめんなさい。

 生きてるなら、本当に良かったよぉ。

 でも、じゃあアスモデちゃんは、何処にいるんだろう?

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