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267 幼女は目的を諦める

「ありがとな。一時的にとは言え、助かったよ」


「う、うん」


 特殊能力を無効化する装置を使って、たっくんにかかっているベルフェゴールの能力を解除すると、たっくんは元の姿に戻る事が出来た。

 でも、元の姿に戻ると言っても、それは私の知るたっくんの姿、人の姿では無かった。

 何故なら、人の姿も元々はニクスちゃんの能力でなっていて、本来の姿が魔族の姿だったからだ。


 私の目の前にいるたっくんの姿は、フェニックスと呼ばれる魔族の姿。

 漫画やアニメやゲームで出て来るような、空想上の生き物フェニックスそのものだ。


 私は私が知るたっくんの姿でない為に、若干の違和感を感じながら、ぎこちなく返事をした。

 すると、そんな私を見て、たっくんは苦笑しながら口を開く。


「そう言えば、ニクスを助けてくれたんだってな? 直接聞いたわけじゃないけど、話を聞いたよ。ジャスミン、本当にありがとう」


「ニクスちゃんは大切なお友達だもん。当然だよ」


 私が笑顔を向けて言うと、たっくんも私に微笑む。

 するとそこで、話を聞いていたリリィが前に出て、たっくんに話しかける。


「アンタの能力で、さっさとジャスミンを不老不死にしてくれない?」


「会って早々に、またその話か。リリィ、悪いけど俺はジャスミンを不老不死なんかにしようと思わん」


「はあ?」


 リリィにたっくんが言い返すと、リリィがイラつきを見せながらたっくんを睨む。


「タイム、最早そんな事を言っている場合じゃないです。ラテからもお願いするです。ジャスを助けてです」


「ラテール?」


 ラテちゃんの言葉に、たっくんが顔を訝しげながら、ラテちゃんと目を合わす。

 それから、ラテちゃんの真剣な眼差しを受けて、何かを感じたのか驚いた顔で私に目を合わせた。


「ジャスミン、何かあったのか?」


「えっと……」


 自業自得で寿命が縮んじゃいました。

 って、よく考えたら、おバカすぎて言い辛くない?

 なんだか、考えれば考えるだけ、凄く恥ずかしい奴だよ。

 たっくんからしたら、なんで精霊さんと4人も契約結んだんだって感じだよね?

 計画性と言うか自己管理と言うか、色々出来て無さ過ぎだよ。


 私が恥ずかしさで、たっくんから目を逸らして口ごもると、マモンちゃんが横から口を出す。


「精霊と契約を結びすぎて、いつ死ぬかわからないらしいわ。馬鹿よね~。おかげで魔法も使えないんだって」


「マモン、アンタ良い度胸ね?」


「んにゃー! 尻尾を握るにゃー!?」


「あ、リリィちゃん。私にも、それ貸して下さい」


「にゃ、にゃめろー!」


「ボクもモフモフするッス~」


「アタシもモフモフしたいんだぞ!」


「もふもふ、がおー!」


「や、やめ……んにゃ~」


 ……マモンちゃんには悪いんだけど、ちょっと楽しそう。

 って、そんな事考えてる場合じゃなかった。


 私はたっくんに視線を向ける。

 すると、たっくんは私と視線が合うと、大きくため息を吐き出した。


「なるほどな。風と土だけじゃなく、水と火の精霊とも契約してしまったのか」


「あはは」


「笑い事じゃないだろ?」


「う、うん」


「仕方がない。ジャスミンには本当は使いたくなかったんだけど、早死にされるより良いか」


 たっくんはそう言うと突然自分の羽を一本ブチッと抜いて、更に自らの体をその羽で切り、羽に自分の血を塗った。

 そして、血で塗られた羽を、私の前に差し出した。


「えっと……?」


 私がそれを見て困惑していると、たっくんが私の手を取って、私に羽を握らせて真剣な面持ちで説明を始める。


「俺の能力は、俺の羽に俺の血を塗りつける事で発動する能力だ。不老不死になりたければ、この羽を使って、自分が大切だと思っている命を奪え」


「え?」


 命を……奪う?

 それって、大切な人を殺さなきゃいけないって事?


「それが不老不死になる条件だ」


「そ、そんなの出来るわけないよ」


 私は思いもよらない手段に、血の気が引いて行くのを感じながら顔を引きつらせる。

 すると、話を聞いていたリリィが、たっくんを睨みつけた。


「ちょっとアンタ、ジャスミンを不老不死にしない為に、嘘を言ってるんじゃないんでしょうね?」


「嘘なんか言わないさ。でも、これでわかっただろ? 俺がジャスミンに能力を使いたくなかった理由がさ。まあ、不老不死になるってのは、一筋縄ではいかないんだよ」


「もしかして、自分の命をその羽で断てば、不老不死になれるのでは? フェニックスさんは大切な命と言いました。それは、大切な誰かでは無く、大切な自分の命と言う事では無いでしょうか?」


「そうよ! それよ! マルメロ、アンタ中々冴えてるじゃない!」


「それ程でもないですよ」


 リリィとマルメロちゃんが笑い合う。


 そう言う事かぁ。

 良かった。

 それなら、問題ないかも。

 自殺みたいでちょっと怖いけど、頑張ればなんとかなるかも。


 私が2人のお話を聞いて意気込むと、そんな私を見たたっくんが凄く真剣な面持ちになる。


「そう思うならやってみればいい」


「どういう意味よ?」


 たっくんの言葉に、リリィが睨みながら訊ねる。

 すると、たっくんは首を横に振って答える。


「これ以上は何も言わない。俺が教えたら、この効力は消えてしまうのも、条件にあるからな」


「それ、つまりは私の言った事は、違うって事ですよね……」


 リリィがたっくんを睨み、マルメロちゃんが俯く。

 私はたっくんから受け取った羽を見ながら考える。


 やっぱり、大切な人を殺す必要があるんだなぁ。

 でも、そんなの絶対に出来ないし……ぐぬぬ。

 たっくんが私に能力を使いたがらなかったのは、不老不死になって1人で延々と生き続けるのが辛い事だからだとか、そういうのがあるから能力を使いたがらなかったんだと思ってたよ。

 多分、もちろんそう言うのも理由にあると思うけど、まさか大切な人の命を奪うのが条件だなんて思わなかったなぁ。


「まあ、よく考えるんだな。っと、忘れてた。失敗した場合の事だけは教えてやるよ。失敗しても、運が良ければ不老にはなれる。だけど、運が悪ければ命を落とす」


「運が悪いと命を落とす……」


 ど、どうしよう?

 思っていたより、結構ガチな感じだよ?

 もしかして、大切な人を殺して不老不死になるか、自殺してそのまま死ぬかって事じゃないの?

 答えを聞きたいけど、聞けないみたいだし、大切な人なんて殺せるわけないし。

 もうこれ、絶対詰んでるやつだよね?


 私が頭を悩ましていると、マモンちゃんが私を見て呆れた顔をして口を開く。


「だから言ったんだ。おまえみたいな甘狸は、絶対不老不死になるなんて無理だって」


「あはは。困っちゃったよぉ」


 私が苦笑して答えるのを見て、リリィがマモンちゃんに質問する。


「ねえ? アスモデの姿が見えないのが、ずっと疑問だったんだけど、まさかあの子はベルゼビュートに殺されたって事?」


「言ったでしょう? ボスがいなくなった――」


「うわあーっ! 誰か助けてくれーっ!?」


 リリィの質問にマモンちゃんが答えたその時、何処かから助けを呼ぶ声が聞こえてきた。


「仕事部屋の方からだ!」


 マモンちゃんがそう言って、勢いよく走り出す。


「後を追うわよ!」


「うん!」


 リリィに続いて、私も仮眠室を飛び出したマモンちゃんを追いかけた。

 そして、私は追いかけながら、先程の会話の事を思い出して考える。


 大切な人を殺さなきゃ不老不死にはなれないなんて、本気で困ったぞぉ……。

 でも、なんだか納得だよね。

 だから、私が聞いた今までの人達は、皆失敗しちゃったんだ。

 自分が不老不死になる為に、大切な人を殺すだなんて絶対出来るわけないもん。

 うーん……よし。

 不老不死になるのは諦める。

 それが良いよね!

 私は、ベルゼビュートさん……ううん。

 ベルゼビュートのようには、絶対ならないって決めたよ!

 私の大切な人、リリィを殺すなんて絶対にしたくないもん!

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