264 幼女の親友は容赦ない
「精霊と契約して寿命を縮めた? 馬鹿ね~。甘狸の自業自得よ」
皆に精霊と契約した事で起こってしまった事の説明を終えると、皆は暗い表情になって俯いてしまった。
私も皆に心配をさせてしまった事に、申し訳なく感じて顔を俯かせる。
そんな中で、一緒に聞いていたマモンちゃんが、呆れながら言った言葉がそれだった。
私はマモンちゃんの言葉を聞くと、たしかにその通りかもと思い、顔を上げてマモンちゃんを見た。
すると、ルピナスちゃんが涙を流しながら眉根を上げて、再びマモンちゃんの尻尾をギュッと掴む。
「マモンちゃん!」
「んにゃ~」
マモンちゃんが地面にペタリと力無く寝転がる。
「私は本当の事を言っただけだにゃ~」
そうだよね。
うん。
その通りだよ。
そう思った時、私はなんだか可笑しくなってきて、自然と笑みが零れだした。
すると、皆が私に視線を向けて困惑する。
「ジャスミン、どうしたの?」
「ご、ごめん。マモンちゃんの言う通りだなって思ったら、なんだか可笑しくって」
私はリリィに答えると、ペチンと自分の頬を両手で叩いて気合いを入れる。
そして、私の行動に驚く皆にそれぞれ順番に視線を向けていき、最後にリリィと目を合わせる。
「くよくよなんてしていられないよね! だって、マモンちゃんの言う通り自業自得なんだもん。だからリリィも、それに皆も気にしないで? 早くたっくんを助けて、不老不死にしてもらったら良いだけだしね!」
と言うか、つい重たく考えちゃってたよ。
自業自得なんだから、もっと気楽にいかないとだよね!
私の言葉に、皆は笑顔とまではいかないけれど笑ってくれた。
ルピナスちゃんもマモンちゃんの尻尾を離して、涙を拭っていた。
「甘狸なんかが、不老不死になれるわけないわ」
マモンちゃんが不機嫌そうにそう言うと、リリィがニッコリと微笑みながら、マモンちゃんに視線を向ける。
「そう言えば、ネコネコ編集部出張所にフェニックスがいるって話じゃない。アンタ、勿論知ってるわよね?」
「んにゃ!? 何の事かさっぱりわからないわね~」
ルピナスちゃんが再びマモンちゃんの尻尾を掴もうとする。
だけど、マモンちゃんは凄い速度で逃げ出した。
あっという間に私達から距離をとったマモンちゃんは、一度立ち止まり、私達に向かって大声を上げる。
「今度あったら覚悟しろよー!」
やっぱりその捨て台詞言うんだね。
などと私が考えていると、マモンちゃんが逃げて行ってしまった。
と、思ったのだけど、可哀想な事に失敗に終わったらしい。
捨て台詞を言っている間に、脅威的なスピードでリリィがマモンちゃんとの距離を詰めて、マモンちゃんの頭を片手で鷲掴みして持ち上げたのだ。
「にゃーっ!?」
マモンちゃんの叫びが響き渡る。
そして、リリィがニッコリとマモンちゃんに微笑むと、マモンちゃんは顔を青ざめさせながら必死に抵抗を始めた。
だけど、現実は甘くない。
マモンちゃんがいくら攻撃をしても、リリィはビクリとも動かない。
途中で能力を必死に使おうとも、リリィには意味の無い行動に終わってしまった。
そして、暫らく経つと、マモンちゃんはにゃんにゃんと泣き出してしまった。
「うにゃーん。ごめんなさいにゃー。私が悪かったにゃー。もう悪い事しないにゃー」
マモンちゃんが泣き出すと、リリィがマモンちゃんを離し、マモンちゃんはその場で座って泣き続ける。
なんだか可哀想だよ。
私達は泣いているマモンちゃんに近づいて、泣かしたリリィに視線を向ける。
すると、リリィはばつが悪いそうに顔を顰めながら、私達から視線を逸らす。
「いい子いい子なんだぞ」
「がお」
泣いているマモンちゃんの頭を、プリュちゃんとラヴちゃんが優しく撫でる。
「リリィは容赦がないから仕方ないです」
「ぷぷ。馬鹿ッスね~。化け猫の自業自得ッスよ」
「こら、トンちゃん」
マモンちゃんが私に言った言葉を真似したトンちゃんを叱ると、トンちゃんは口笛を吹いて私から隠れる。
「リリィちゃん、気持ちはわかるけど、あまり酷い事をしては駄目よ?」
「そうなのよ。マモンちゃんが可哀想なのよ」
ブーゲンビリアお姉さんとスミレちゃんにそう言われると、リリィがため息まじりに答える。
「悪かったわよ」
あ。
リリィ、少し落ち込んでる。
ほんの少しだけど、リリィが顔を曇らせているのに気が付いた私は、リリィに近づいて声をかける。
「リリィ」
私がリリィの名前を呼ぶと、リリィは少し落ち込んだ表情で私と目を合わす。
「責めちゃってごめんね。私の為に、マモンちゃんを捕まえてくれてありがとー」
私がリリィに笑顔を向けてそう言うと、リリィの落ち込んだ表情は明るくなって、リリィも笑顔を私に向けた。
「ええ。ジャスミンの為ですもの」
「飴と鞭を上手に使い分けるなんて、ご主人は流石ッスね」
トンちゃん、ちょっと黙っててもらえないかな?
私がトンちゃんに抗議の目を向けていると、何故か不機嫌そうな顔をしたマルメロちゃんが、マモンちゃんの前に立つ。
「マモン様。フェニックスの居場所まで、連れて行って下さい」
「わかったわよ」
マルメロちゃんはマモンちゃんの返事を聞くと、マモンちゃんの腕を掴んで立ち上がらせる。
そして、今度は私の目の前に歩いて来て、私の手を取った。
「ジャスちゃん。行きましょう!」
「え? うん」
私が返事をすると、マルメロちゃんがマモンちゃんに催促して歩き出す。
私もマルメロちゃんに手を握られながら、マモンちゃんの後をついて行く事になった。
マルメロちゃん、どうしたんだろう?
……もしかして嫉妬したとか?
いやいやいや。
そんなまさか……私達女の子同士で友達だもんね。
って、あれ?
たっくんの所って、マンゴスチンさんが向かったネコネコ編集部出張所だよね?
先に馬車小屋に行こうと思ってたんだけど……。
どうしよう?




