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258 幼女はガードが甘くて危ない

 私はお風呂に入ってサッパリすると、売店まで戻って来た。

 ちなみに、お洋服は臭いが気になったので、今は肌着にしていたシャツとミニのスカートだけになってしまっていた。

 と言っても、リリィのくれた胸に巻くベルトのおかげで、寒さには耐えられる。

 だけど、肌に風があたると流石に冷えるので、正直心許なかった。

 本当は御神木の中に連れて来られた後に支給されて貰った着物があるのだけれど、残念ながら私には着付けが出来ないので諦めた。


 そう言えば着物と言えばなのだけど、私はマルメロちゃんにエルフの里の男の人と女の人が着る服が違う理由を聞いた。

 昔ドリちゃんが契約を交わした人が転生者だったようで、その相手は着物の似合う和服美人だったそうだ。

 それで、その転生者の影響で、エルフの女性は皆着物を着るようになったらしい。


 とまあ、それはさておきである。

 私が戻って来ると、ルピナスちゃんが私に気がついて、私の許まで走って来た。

 テテテと走るルピナスちゃんの姿を見て私が可愛いなぁと思っていると、ルピナスちゃんが私の手を取って、私を未だに続く談笑の輪の中に連れて行く。

 リリィのお話は、まだ終わっていないようで、ドリちゃんが楽しそうに聞いていた。


 まだお話続いてたんだね。

 って、あれ?


 私は周囲を見回す。

 私達のドタバタを見学していた女の子達が、いなくなっている事に気がついたのだ。


「キョロキョロして、どうしたッスか?」


「え? あ、うん。皆いなくなってるなって思って」


「主様がお風呂に行ってから、皆家に帰って行ったんだぞ」


「がお」


「そっかぁ」


 神隠しにあった皆が家に帰ったなら、もう花嫁修業は終わりなのかな?

 って、あれ?

 花嫁修業と言えば……。


「ソイさんもいないみたいだけど、何処かに行ったの?」


「アブラムシはハニーとドリアード様の逆鱗に触れて、どっかに吹っ飛ばされていったッスよ」


 え? どういう事?


「ソイさんが、お風呂に入るとか言い出したんだぞ」


 え?


「ソイさんの頭ベトベトだったし臭うから、私は良いと思うけど?」


 私が首を傾げて訊ねると、2人のお話が終わったのか、リリィとドリちゃんが私の疑問に答える。


「あのキモ豚が、今度はジャスミンに手を出そうとしてたのよ」


「左様じゃ。ジャスミン様の前世が男であるならば、風呂に共に入り男同士の裸のつきあいをと、たわけたことを抜かすので追いだしたのじゃ」


「男同士の裸のつきあいかぁ。私、今は女の子だから、一緒にお風呂に入っても男同士にはならないのにね」


 私が苦笑して答えると、リリィとスミレちゃんが眉根を下げて、もの凄く何か言いたそうな顔をする。

 そして、ブーゲンビリアお姉さんも眉根を下げながら、私に話しかける。 


「もしかして、お風呂位なら一緒に入ってあげても良いとか思ってる?」


「え? うん。ここのお風呂は混浴みたいだし、別に問題無いと思うよ?」


 私がそう答えると、リリィとスミレちゃんだけでなく、ブーゲンビリアお姉さんもドリちゃんもマルメロちゃんもトンちゃんもラテちゃんも、眉根を下げてもの凄く何か言いたげな顔をした。


「皆どうしたんだぞ?」


「がお?」


「あ、もしかして、また私が男の人とお風呂に入るのがどうとかって話? 皆考えすぎだよ。私まだ9歳なんだよ? 男の人とお風呂に入るなんて普通だよ」


「普通なわけないでしょう!?」


「そうなのですよ! 幼女先輩は普段パンツ見られてキャーキャー騒ぐのに、お風呂の時だけガードが甘すぎなのですよ!」


 時と場合によるってだけなんだけどなぁ。

 だから、この間のドワーフ城のお風呂の時は、私も嫌だったんだよ?

 って言うか、前も同じようなお話しなかったっけ?

 それに思ったんだけど、リリィもスミレちゃんもいつも変態な行動に出るのに、なんでこういう時だけ真面目なの?


「ご主人には何を言っても無駄ッスよ」


「ジャスはバカだから理解出来ないです」


「お風呂は皆で入った方が楽しいんだぞ?」


「がお」


「うん。私も皆と入るの楽しい」


 プリュちゃんとラヴちゃんとルピナスちゃんが3人でニコッと微笑み合う。


 可愛いなぁ。

 この3人が揃うと、無敵に可愛いよぉ。


「話がややこしくなるから、お子ちゃま三人は黙ってるッス」


 トンちゃんがプリュちゃんとラヴちゃんとルピナスちゃんにそう言った所で、リリィが咳払いを一つして話を戻す。


「とにかく、キモ豚には困ったものよね。ジャスミンの前世が男だからって、そんな事が許されるわけないじゃない」


 お風呂に一緒に入るだけなら、問題ないと思うけどなぁ。

 ソイさんが邪な目で私を見るなら、問題かもだけど……あ。

 そっか。

 スミレちゃんのせいで、その可能性もあるのかぁ。

 さっき酷かったもんね……。

 お風呂でサッパリしたら、すっかり忘れちゃってたよ。


「うむ。リリーの申す通り前世が男であっても、それが通用するのは、婚姻を結ぶ時だけじゃ」


 ……うん?

 どうしよう?

 言っている意味がわからないよ?


「でも困ったわね。ドリアードもジャスミンと結婚したいだなんて。せっかく仲良くなれたのに、取り合いになってしまうわね」


「ふふ。そうじゃな。妾もリリーの様な徳のある素晴らしい者と友人になれたのを嬉しく思う分、ジャスミン様を巡って戦わねばならぬと思うと、少々心が痛む」


 ねえ? 2人とも。

 女の子同士は結婚出来ないよ?


「幼女先輩のペットの私は、高みの見物なのよ」 


 ペットにした覚えはないよ?


「ねえ、ジャスミンちゃん。私は愛人で構わないからね?」


 ブーゲンビリアお姉さんまで何言ってるの?


「ジャスミンお姉ちゃんモテモテだね」


「あ、あはは……」


 私がルピナスちゃんに苦笑して答えた時、今までお話を聞いていたマルメロちゃんが、少し不機嫌そうな顔をしながら控えめに手を上げる。


「あの、お話中にすみません。質問しても、よろしいでしょうか?」


「どうしたの?」


 私が訊ねると、マルメロちゃんの表情が通常に戻って、話を始める。


「その、恐れながらドリアード様に質問です。ソイ様を御神木から追い出してしまって、良かったのでしょうか? ソイ様はマンゴスチン様のご子息ですし……」


 ドリちゃんがマルメロちゃんに数秒だけ無言で目を合わせて、大きく息を吐き出した。


「こうなってしまった以上、後程ジャスミン様には伝えねばと思っていたのじゃが……。マルメロ」


「は、はい」


「里の長であるマンゴスチンに、其方はそむく覚悟はあるか?」


「え?」


 ドリちゃんに問われたマルメロちゃんは驚いて、そのまま固まってしまう。


 マンゴスチンさんに背く?

 あれ?

 ドリちゃんとマンゴスチンさんって、敵対していたの?

 確かにさっきは攻撃していたけど、あれは私のせいだと思ってたんだけど……。

 そう言えば、ビーエル漫画の犯人を捜してほしいって言ってたし、その事と関係あるのかな?


 私が思考を巡らせていると、マルメロちゃんが真剣な面持ちで姿勢を正した。


「私がマンゴスチン様に背く事で、その結果ビリアお姉様の様な方が増えなくなるのであれば、私はマンゴスチン様と戦います」


「マルメロちゃん……」


 マルメロちゃんの答えに、ブーゲンビリアお姉さんが目を潤ませて呟く。

 2人の間に何があったのかは分からないけれど、きっと色々な事があったのだろう。

 真剣に答えたマルメロちゃんと、目を潤ませたブーゲンビリアお姉さんを見た私は、その2人の表情から大きな絆のようなものを感じた。


 ドリちゃんは真剣に答えたマルメロちゃんの顔を見て、静かに話し出す。


「そうか。ならば、其方の前で全てを話そう」


 ドリちゃんはそう言うと、私に視線を合わせて言葉を続ける。


「妾とマンゴスチンは精霊の森やエルフの里、そして精霊の集落を守る為に協力をしておる。じゃが、奴と妾では守りたいものが同じであっても、目的が大きく違う」


「目的?」


「うむ」


 私が首を傾げて訊ねると、ドリちゃんはこくりと頷いた。


「其方等も既に知っている通り、妾が行っている神隠しにしてもそうじゃ」


「そう言えば、何で女の子ばかりを狙って神隠しをしていたッスか?」


 トンちゃんが訊ねると、ドリちゃんでは無くラテちゃんが答える。


「それは花嫁修業目的です。マンゴスチンの息子のソイの花嫁を、ここで育てていたです」


「うわ。大迷惑な話ッスね」


「それはあくまでもマンゴスチンの目的じゃ。妾はマンゴスチンに協力し、それを利用してはいるが、先程も申した通り妾の目的は別にある」


「で、では、ドリアード様は何を目的として、私達を……み、皆をここに連れて来ていたのですか?」


 マルメロちゃんが緊張気味に訊ねると、ドリちゃんはマルメロちゃんを見て、とても優しく微笑んだ。


「ベルゼビュートから其方等を護りたいからじゃ」

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