243 幼女を敵に回すと痛い目を見る
スライムにじわじわと着物を溶かされて、肌が少しずつあらわになっていく。
私はスライムを体から剥がそうともがくけど、スライムを掴む事すら出来ないでいた。
どうしよう!?
このままじゃ裸にされちゃうよ!
私が半泣きで焦ってもがいていると、マルメロちゃんが私に手をかざし、緑の魔法陣が浮かび上がる。
「疾風の舞!」
マルメロちゃんが叫ぶと、魔法陣から魔力を帯びた風が飛び出した。
そしてそれは、スライム目掛けて颯爽と舞う。
忽ち、私にへばり付いたスライムが、マルメロちゃんが放った風の魔法に切り刻まれて弾け飛ぶ。
だけど、それと同時に私の着ている着物まで切り刻まれて、私はパンツを穿いただけのあられもない姿へと変貌してしまった。
「きゃーっ!」
「ご、ごめんなさい!」
私が叫ぶと、マルメロちゃんが深々と頭を下げた。
「き、気にしないで? 私を助けてくれようとした事は、わかってるから」
「今すぐジャスちゃんの服を取りに行って来ます!」
「え? 待っ――」
私が待ってと、止める間もなくマルメロちゃんは慌てて走って行ってしまった。
パンツ一枚の状態で取り残される方が困るんだけど?
思いもよらぬマルメロちゃんの行動に私が困惑していると、マンゴスチンさんがニヤリと笑って懐に手を忍ばせる。
「お前さんもここまでのようだね!」
マンゴスチンさんが叫び、懐から何かを取り出そうとしたその時、騒ぎを聞きつけた女の子達がやって来た。
「何々? どうしたの?」
「喧嘩?」
「あれ? マンゴスチン様だ」
「きゃー! パンツの女神様がお肌蹴になっているわー」
「「「きゃーっ!」」」
女の子達は黄色い声を上げながら、顔を赤らめさせて私を見る。
私は胸を隠して、売店に備えてある棚の後ろに隠れた。
叫びたいのはこっちだよ!
その時、女の子達の背後から、静かに苛立ちを抑えているような冷ややかな声が聞こえてきた。
「何事じゃ」
その声に、一瞬で女の子達が静かになり、そして女の子達は緊張した顔で声の人物に注目して道を開ける。
そして、女の子が開けた道を、声の人物はゆっくりと歩いて姿を現す。
「ドリアード様……」
マンゴスチンさんが冷や汗をかきながら、一歩後ずさる。
ドリちゃんは一瞬だけチラッと私に視線を向けると、マンゴスチンさんを鋭く睨みつけた。
「随分と不愉快な事をしているのう? 何があったか説明をせい」
「こ、このジャスミンとか言う小娘が、私共エルフの脅威と成りうると判断し、ここで始末を――」
と、マンゴスチンさんが説明をしている途中で、ドリちゃんが胸元から扇子を取り出して、閉じた扇子の先端をマンゴスチンさんに向けた。
そして、その瞬間にマンゴスチンさんの立つ床に魔法陣が浮かび上がる。
「ま、待って下さい! ドリアード様! 話をっ!」
「吸血花」
ドリちゃんが呪文を唱えると、魔法陣からニョキニョキを紫色の蔓が伸びて来て、その蔓はマンゴスチンさんを縛り付けた。
「ひっ……。お、おやめ下さい。ドリアード様。悪いのは私を探って来た小娘の方なのです!」
「どうやら、お主がビーエル本の犯人だったようじゃのう。どうりで今まで見つからなんだわけじゃ」
「助け……て…………」
ドリちゃんが出した魔法から生まれた吸血花の蔓が、マンゴスチンさんの体を締め上げながら、先端が体に刺さる。
私はそれを見て、マンゴスチンさんが非常に危険な状態だと直感した。
これ、絶対やばい魔法だよ!
私は慌てて胸を腕で隠したままドリちゃんの前に出て、ドリちゃんの腕を掴んだ。
「殺しちゃダメ! 今すぐやめてあげて!?」
「……其方は、それで良いのか?」
「いいよ! だからお願い!」
私が必死にお願いすると、ドリちゃんは扇子をマンゴスチンさんにかざした。
すると、扇子から黄緑色の光の粒子が飛び出して、それがマンゴスチンさんに当たって吸血花が消え去った。
マンゴスチンさんは吸血花が消えると、その場で膝をついて放心状態となる。
私はマンゴスチンさんが無事なのを確認すると、ドリちゃんに勢いよく抱き付いた。
「ありがとー! ドリちゃん!」
私が抱き付いて顔を上げてお礼を言うと、ドリちゃんは頬を染める。
「良い……む? こら、言葉には気をつけろと言っておろう?」
「あっ。えへへ。ごめんなさい」
笑顔で私がそう答えると、ドリちゃんは顔を真っ赤にさせて、瞳の奥をハートにさせながら視線を逸らして頷く。
「うむ」
その時、それを見ていた女の子達が騒ぎ出す。
「「「きゃーっ!」」」
「ドリアード様のあんな顔、初めて見ましたわー!」
「二人の間に挟まれたいですわー!」
「くぉらーっ! 私のジャスミンに抱き付いてんじゃないわよーっ!」
あれ?
この声は?
と、私が思った瞬間だった。
売店の壁が突然轟音を響かせて粉砕されて、先程まで壁だった物が瓦礫となって、周囲に飛び散り煙が上がる。
そして、リリィが粉砕されて煙の上がったそこから、勢いよくこの場に飛び込んできた。
私は驚きながらドリちゃんから離れて、リリィに駆け寄る。
「助けに来たわよ! ジャスミン!」
リリィはそう言いながら私に優しく微笑んで、自分が着ていた上着を1枚脱いで、駆け寄った私に羽織らせてくれた。
「リリィ、ありが……え?」
私はリリィにお礼を言おうとして、リリィの足にしがみついている醜い物体に気がついて硬直する。
「あ、あのね? リリィ、足になんかついてるよ?」
私がそう言うと、リリィの顔がみるみると泣き顔に変化していく。
「ジャスミン、助けてー」
え、ええぇぇ……?
助けに来てくれたんじゃないの?
私は珍しいリリィの泣き顔と言葉に困惑をしながら、リリィの足にしがみついて離れようとしない物体を見た。
その物体とは……。
「そ、ソイちゃん! 私を助けに来てくれたのかい!?」
そう。
リリィの足にしがみついていた物体とは、マンゴスチンさんが仰る通りの、マンゴスチンさんの息子のソイだった。
どうしよう?
本当に状況がつかめないよ?
あ。
でも、泣き顔のリリィって、凄く可愛いかも。
頭なでなでしてあげたくなっちゃう。




