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236 幼女は女の涙に弱いのです

 マルメロちゃんに御神木内の施設を紹介してもらった。

 御神木内部は自由に行き来出来る階が、全部で10階あった。


 まずは1階から。

 1階は授業を受ける教室があり、私は前世で学生だった頃を思い出した。

 教室の中では、神隠しで捕まった女の子達が楽しそうにお喋りしていた。


 続いて2階。

 2階は魔法薬の実験や研究をする為のスペースになっていた。

 話によると、授業をする時間以外は、あまり人が寄り付かないらしい。

 それでなのか、今は人が1人もいなかった。


 次は3階だ。

 3階には皆でご飯を食べる為の食堂があった。

 ここでは、朝食を食べている子や、勉強をしている子がいた。

 ちなみにマルメロちゃんのお勧めは、キノコ炒めらしい。


 4階は花嫁修業の実施訓練用スペースだった。

 家事全般をする為の部屋や廊下やキッチンなど、あらゆる物があった。

 ここには、学生が部活でやる朝練のようなものをしている子達が何人かいた。


 5階から上は住居スペースだった。

 驚いたのは、5階から10階まで真ん中が突き抜けになっていた事だ。

 そして5階には真ん中に噴水広場があって、噴水が水を勢いよく噴き出すと、10階まで水が届く仕様になっていた。

 噴水の周りには、可愛い形をした机と椅子があって、女の子達が楽しくお喋りをしていた。


 ちなみに私が寝ていた場所は、5階の空き部屋だったようで、私がこれから暮らす予定の場所なのだそうだ。


 トイレやお風呂は共同で、トイレは各階に、お風呂は8階にあった。

 お風呂には、たまにだけど、長の息子が来るらしい。

 でも、本当に来るだけで、皆がお風呂に入る様子を見て帰って行くのだとか。

 たまにお風呂に入らないか訊ねる子もいるらしいのだけど、決まって入らないとだけ答えるようだ。


 保健室は1階と3階と5階と7階と9階の、奇数の階に一つずつ。

 他にも、3階には購買部などの売店もあって、筆記用具や日用品などが売られていた。


 マルメロちゃんの案内で全てを見終わる頃には、マルメロちゃんも緊張が解けたのか、言葉の始めを詰まらせずに話せるようになっていた。

 そのおかげもあって、私はマルメロちゃんと仲良くなって、マルメロちゃんも私の事をジャスミンちゃんではなく、ジャスちゃんと呼ぶようになっていた。


 私は10階まで昇る噴水を見て、とある事に気が付いた。

 10階の天井には、出入口のような所があり、空を飛べる者なら出入りが可能のように見えたのだ。


「ねえ、マルメロちゃん。あそこから上って、何があるの? 最初に、自由に行き来出来るのはって言い方をしたよね? それなら、自由に行く事が出来ない場所があるって事だよね? あの先がそうなの?」


 私がそう訊ねると、マルメロちゃんは眉根を下げて、顔を青くさせた。


「駄目ですよジャスちゃん。あの先はドリアード様とマンゴスチン様しか入っちゃ駄目な場所なんです。今は凶悪な魔族の、フェニックスを捕らえてるとかで、近づかない方が良いですよ」


 フェニックス!?

 じゃあ、たっくんはあの先にいるんだ!

 どうしよう?

 魔法を使えば、あの先に行けると思うけど、後先考えずに行っちゃっても大丈夫かな……?


「ジャスちゃん? まさか、行こうなんて考えていませんよね?」


「え? あ、うーんと……」


 私が言いよどむと、マルメロちゃんが涙目になって慌てて私の両肩に触れる。


「お願いします! 絶対にやめてください! そんな事をされてしまったら、ドリアード様にご迷惑をかけさせてしまいます!」


 マルメロちゃんは必死に私に訴えていて、ついには涙をボロボロと流し始めた。


 こ、これは逆らえないよ。

 私が言うのもなんだけど、女の子の涙って、凄く凶器だよね……。


「だ、大丈夫だよ。行こうだなんて、思ってないよ」


「ひっぐ……。本当ですか?」


「本当だから、もう泣かないで?」


 私はそう言って、涙を手で拭ってあげる。

 すると、やっと涙は収まって、マルメロちゃんは私に深々と頭を下げた。


「ありがとうございます」


 そんなわけで、私は10階の天井の先に進む事を保留にした。

 本当は、せめてたっくんの無事を確認したい所なのだけど、マルメロちゃんの涙には逆らえないと感じてしまったので仕方がない。


 と、そこで、ラテちゃんが私に加護を使った通信を入れる。


『ジャス。どちらにしても、魔法は禁止です。どうせ魔法で飛べばとか考えていたですよね?』


『あはは。ラテちゃんには、やっぱりわかっちゃってたかぁ』


『いいですか? ジャスは契約の副作用の前兆があったです。これ以上の魔法は、絶対禁止です』


『わかってますとも』


『本当にわかってるです?』


『うんうん。任せてよ』


『加護を利用したこの通信も本当は危険かもですし、もう切るです』


『うん。ラテちゃん、心配してくれてありがとー』


『です』


 ラテちゃんが通信を切ったと同時のタイミングで、マルメロちゃんが私の顔をじーっと覗き込む。


「どうかしましたか?」


「え? なんでもないよ」


 私、また百面相してたのかなぁ?

 気をつけよう……。


「それなら良いのですけど……。あ、そうでした」


 マルメロちゃんが明るい笑顔になる。


「今日の最初の授業はマンゴスチン様主催の特別授業なんです。魔法薬の授業では無く、お料理を教えて下さるんですよ。もうすぐで授業が始まりますし、早く行きましょう」


「うん」


 私は返事をして、マルメロちゃんの後について、下の階へと進んで行く。


 マンゴスチンさんのお料理の授業かぁ。

 ちょっとだけ興味あるかも。

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