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232 百合は暗闇の中で光を探す

※今回から3話ほどリリィ視点の話になります。

 この日、私は妙な違和感を感じながら目を覚ました。

 眠気眼を擦りながら、私は昨日の事を思い出す。


 昨日は確か……寝る前に、一緒のベッドでジャスミンと話をしながら、向かい合って眠ったのよね?


 そこまで思い出すと、私はその違和感に気がついた。

 いつもなら私の方が早く目を覚まして、眠っているジャスミンの可愛い寝顔を見つめるのが日課だと言うのに、そのジャスミンの姿が無かったのだ。


「ジャスミン、何処行ったのかしら?」 


 私は独り言を呟いて起き上がり、部屋の中を見まわした。

 とくに書き置きがあるわけでもなく、隣のベッドにはビリアとルピナスちゃんが一緒に眠っているだけだった。

 何か変わった事があるとすれば、あと一つあるベッドの上で眠っていたはずのスミレが、ベッドから落っこちたまま眠っている事だろうか?


 私はあくびをしながらベッドを出て、洗面所を覗いてみる。


 ここにもいないわね。

 サガーチャの所にでも行ったのかしら?


 サガーチャは昨日から、ずっと馬車を預けた場所で何かしていた。

 昨日の夜も、ジャスミンが焼いたパンケーキを食べたら、直ぐに戻って行った。

 正直、私としては何をしているのか全く興味が無いのだけど、ジャスミンは興味津々としていたのを覚えている。


 私は厩舎きゅうしゃの近くにある馬車小屋に向かう為に、寝間着から洋服に着替えようとして、ドゥーウィンとラテがいない事に気がついた。


 ドゥーウィンはともかく、あの寝坊助のラテがいない?


 私は段々と嫌な予感がしてきて、プリュとラヴに大声で話しかける。


「2人とも、ジャスミンが何処に行ったか知らない!?」


「ふぁ~……。なんだぞ~?」


「がぉ」


 プリュとラヴは私の声で起きると、眠たそうに瞼を擦りながら私の顔を見た。


「ジャスミンがいないのよ! ドゥーウィンもいないし、それに、あのラテまでいないのよ!」


 私がそう説明すると、プリュとラヴも驚いて目を見開いて、キョロキョロと周囲を見た。


「ほ、本当なんだぞ! ドゥーウィンはともかく、ラテがいないんだぞ!」


「がおー!?」


 私は二人の様子を見て、落胆してため息を吐き出した。


「その様子だと、アナタ達も何も知らないみたいね」


「リリィちゃん、どうしたの?」


「どうしたの~?」


 私とプリュとラヴの声で目が覚めたらしく、ビリアとスミレとルピナスちゃんが困惑しながら私を見つめる。

 私は直ぐに、ジャスミンとドゥーウィンとラテールがいない事を話していると、その途中でスミレが顔を青くさせて呟いた。


「幼女先輩の匂いが、消えているなのよ」


 スミレはそう呟くと、慌てた様子でオロオロとしだす。

 すると、それを見たビリアが眉根を下げながら、スミレに話しかける。


「ちょっと待って? 消えていると言っても、昨日もそうだったんでしょう? それなら、そんなに慌てるような事でもないんじゃないの?」


「昨日とは状況が全く違うなのよ。昨日はリリィと一緒だったから、私もたいして気にならなかったなのよ。でも、今回は違うなのよ。今回はリリィがここにいて、幼女先輩と寝坊助のラテちゃんがいないなの」


「ジャスミンお姉ちゃん、神隠しにあっちゃったのかな?」


「絶対そうだぞ! どうするんだぞ!? 主様、神隠しにあっちゃったんだぞ!」


 皆が次第に顔を青くして慌てだす。

 それは私も例外では無い。

 何故ジャスミンがいなくなった事に、直ぐに気がつかなかったのかと、酷く後悔した。

 ジャスミンが寝ていた場所は冷たくなっていて、ベッドを出てから暫らく時間が経っていたのは明らかだったからだ。

 もし、早く気がついていれば、こんな事にはならなかったかもしれない。

 そう考えた私は、後悔せずにはいられなかった。


 何やってるのよ私は!

 ジャスミンが大変な……。


 その時ガチャッと扉が開かれる。

 ジャスミンが帰って来たと、淡い期待を抱いた私達は扉を開けて部屋に入って来た人物に注目する。

 だけど、扉を開けて入って来た人物はジャスミンでは無くサガーチャだった。

 そして事情を知らないサガーチャは、自分が注目されていると気が付くと、挨拶を口にした。


「おはよう。今日も寒々とした良い朝だね」


 挨拶をしたサガーチャに、私達が落胆の表情を見せると、サガーチャが首を傾げる。


「どうしたんだい? 皆元気がないじゃないか。あれ? ジャスミンくんがいないようだね」


 サガーチャが首を傾げながらそう言うと、ルピナスちゃんがサガーチャに近づいて説明する。


「ジャスミンお姉ちゃんが神隠しにあっちゃったの」


「なるほどね。それは丁度良い」


 私はサガーチャの言葉を聞いて、自分でもわかる程に頭に血が上るのを感じた。

 そして、私は気がついた時には、サガーチャに掴みかかっていた。

 すると、サガーチャは苦笑しながら私に話す。


「リリィくん、すまない。別にジャスミンくんがいなくなって良かったと言っているわけではないんだ」


「じゃあ、どういうつもりよ?」


 私がサガーチャを睨みながら訊ねると、サガーチャはニマァッと笑みを浮かべて何かを取り出して答える。


「これさ」


 私はサガーチャを掴んだ手を離して、訝しげにそれを見る。

 サガーチャが取り出したそれは、直径十センチ位の正方形で四角く平べったい物だった。


「何よそれ?」


「これは私の祖父である親方が、前世で愛読していた漫画の探知用の機械のアイデアを元にして作った装置さ。探知機と言う物なのだけど、私はジャスミンくんレーダーと呼んでいる」


「微妙にアウトな呼び方をしているなのよ」


「おや? スミレくんも知っている様だね」


「名前なんてどうだって良いわよ。そんな事より、それがどんな物なのか教えて?」


「そうだね。まあ、簡単に説明すると、昨日の夜こんな事もあろうかと、ジャスミンくんに強力な電波を流す発信機をこっそりつけていてね。その発信機の場所を、電波を受信して探知が出来る装置なのさ。しかも、これは魔力では無く電波と言う魔力とは違う次元の物を受信するから、どんなに相手が優秀な結界を張ろうとも、流石にこの探知機の妨害は出来ないってわけだよ」


「博士凄いんだぞ!」


「がおー!」


「この世界で、そんな物を作り上げるなんて、本当に凄いなのよ」


「私にはよくわからないのだけど、サガーチャ王女って頭良いのね」


「サガーチャお姉ちゃん凄ーい」


「サガーチャ……。ごめん。私、頭に血が上って、アナタに酷い事したわ」


「良いさ。気にしないでくれ。私の言い方も悪かったんだ。それより、早速こいつを使おう」


「ええ。そうね!」


 私とサガーチャは顔を合わせて頷き合う。

 そして、サガーチャが探知機を起動させた。

 探知機が動き出し、何かを知らせるかのようにピコンっと音を立てて点滅する。

 そうして、探知機が示した場所は…………。

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