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228 幼女の心を抉るのは止めましょう

「ここが精霊の集落?」


「随分と寂れてるわね」


「う、うん……」


 私達は精霊の森を進んで森の精霊の集落までやって来たのだけど、リリィの言う通り、そこは寂れ果てていた。

 幾つかある少し大きめな木に窓や扉が付いていたので、多分それが精霊さん達が住んでいるお家だと思うのだけど、どれもボロボロで木も枯れかけていた。

 そして、そこら中で無造作に散らかっている木の実の皮などのゴミの数々。

 背の高い木々の葉が集落の頭上を覆っているおかげで、雪はそこまで積もってはいなかったのだけど、雪が無い分それだけ寂れた雰囲気が全面に出ている。

 お世辞にも良いとは言えない見た目に困惑していると、話声が聞こえてきた。


「ジャスミン」


「うん。行こう」


 私とリリィは頷き合い、話声の聞こえる方へ走り出す。

 話声の聞こえる場所まで辿り着くと、そこには懐かしい人物が2人。


 相変わらず王子様風の格好をしていて、見た目がイケメンのイケメン女子魔族のフルーレティさん。

 青髭割れ顎の筋肉ムキムキなのに、雰囲気はお姉さんなオネエ系魔族のプルソンさん。


 そして、髪の毛とお洋服が緑色をした精霊さん達が、2人を囲って抗議をしているようだった。


「これ以上は我慢出来ないって、何度言ったらわかるんだ!?」


「そうだそうだ! ドリアード様に会わせろ!」


「ドリアード様がこんな事を許す筈がない!」


「だーかあらー、そのドリアードちゃんが雪を止ますなって言ってるって、言っているでしょう?」


「そんなわけあるか!」


「そうだそうだ!」


「ドリアード様を何処へやった!」


「精霊達、落ち着いてよ。プルソンの言っている事は本当なんだ」


「信じられるか!」


「そうだそうだ!」


 何やらもめているようで、フルーレティさんとプルソンさん、それに精霊さん達も近づいている私とリリィに気付いていない。

 私とリリィが声をかけようかと話し合って、声をかけようとしたその時、背後から声をかけられる。


「おや? 貴女様は、かの有名なパンツの女神様ではありませんか?」


 私は声に驚いて後ろに振り向く。

 振り向くと、ツルツル頭で緑色のお髭の精霊さんが、宙を浮く葉っぱの上で座っていた。

 その精霊さんは優しそうな顔立ちで、緑色のお髭は、まるでサンタさんのお髭のようにフサフサだった。


「え、えっと……」


 私が困惑していると、リリィがドヤ顔になって答える。


「そうよ」


「おお。やはりそうでしたか。ワタシは木の精霊のスーシュと申します。スーちゃん。と可愛く呼んで下さい」


「え? あ、はい」 


「馴れ馴れしいわね。スーシュとか言ったわね。アンタもこの寂れた集落の精霊なの?」


「はい。一応この集落の代表をしております。パンツの女神様の恋人殿」


「恋人だなんて、やあねー。本当の事だけどー」


 いやいやいや。

 違うからね?


 私が心の中で否定していると、プリュちゃんが首を傾げながらスーちゃんに訊ねる。


「代表なのに、向こうに行かなくて良いのか?」


「うむ。ワタシは魔族共の代表と、今さっき話をつけて来た所です。向こうにいる魔族の二人の内一人は元凶。とは言え、所詮はその者の付き添いにすぎませぬ。特に問題はありません。と言いましても、その代表が何故か先に帰られたので、あの者達に帰った事を伝える必要があるので、今から伝えに行くつもりですがな」


 帰っちゃったんだ?

 なら、ベルフェゴールは、もうここにはいないのかぁ。

 実は少しだけ身構えてたから、ちょっとホッとしたかも。


「ジャチュ」


「うん?」


 私はラヴちゃんに呼ばれて、ポーチに入っているラヴちゃんを見る。

 ラヴちゃんは私では無く、私の後ろに目を向けていて、指をさしていた。

 私はラヴちゃんが指をさした後ろを振り向く。


 あ。


 私は振り向いて、苦笑する。

 何故なら、フルーレティさんとプルソンさんと2人を囲む精霊さん達が私達に気がついて私達の事をじいっと見ていたのだけど、精霊さん達が目を点にして驚いていて、その姿がとても可愛かったからだ。


「お姫様、それに百合嬢じゃないか」


「お久しぶりね。お姫ちゃんにリリィちゃん」


「うん」


 私が苦笑しながら返事をしたその時、突然フルーレティさんとプルソンさんを囲んでいた精霊さん達が、一斉に私を取り囲む。


「本物だ! 本物のパンツの女神様だ!」


「本当に純白のパンツだ!」


「可愛いー! パンツの女神様、こっち向いてー!」


 な、何これ?

 って言うか、どさくさにまぎれてパンツ見ないで?


 私が困惑していると、リリィとプリュちゃんとラヴちゃんが私の目の前に出る。


「アンタ達の事は、よーくわかったわ。ジャスミンの事ばっかり考えているから、掃除も碌にやらなくなって、集落がゴミだらけでボロボロになって寂れたのね」


 いやいやいや。

 流石にそれは無いよ。

 って言うか、その突拍子もない発想は、どこから出て来たの?


「な、何故わかったんだ!? すげえ! この姉ちゃん只者じゃないぞ!」


「僕知ってる! このお姉さんはパンツの女神様の恋人様だよ!」


「本当だ! 恋人様だ」


「その通りよ! 将来は結婚して、子供を最低でも三人は作る予定よ!」


「「「おおー!」」」


 ……どうしよう?

 もう、何処からつっこんでいいのかわからないよ?


「違うんだぞ! 主様は前世からずっと、ずぅっと独身なんだぞ! 前世から今まで恋人なんていた事ない人なんだぞ! リリさんは主様の恋人じゃなくて、お友達なんだぞ!」


 やめてプリュちゃん。

 その通りなんだけど、凄く悲しくなってくるから、それ以上言わないで?


「ジャチュ、ひとりぼっち!」


 ラヴちゃんも、そこをそんな力強く言わなくて良いから!

 って言うか、その言い方だと私にお友達もいないみたいで悲しくなってくるよ!


 私は心を抉られるようで段々と悲しくなってきて、泣きたくなりながらも我慢する。


 と言うかだよ。

 つっこむ場所はそこじゃないよね?

 いや、最早どこがつっこむ場所なのかわからなくなっちゃったけど、そこじゃないのは確かだよ!

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