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217 幼女と博士の裏事情

 サガーチャちゃんのお話が始まると、いつの間にか皆が準備を中断して集まって来て、サガーチャちゃんの話を聞き始める。


「三年前の事だ。私はお忍びで、港町トライアングルへ研究の材料に必要なものを買いに出かけた事があったんだ。エルフの長マンゴスチンとは、その時たまたま出会ったんだよ」


「わりと最近ッスね」


「君達精霊から見たら、そうかもしれないね」


 サガーチャちゃんは微笑みながら答えると、話を続ける。


「マンゴスチンは私と同じ様に、魔法薬の研究に必要な材料を買いに来ていたようで、同じ物を買おうとしていてね。それが最後の一つだったものだから、どっちが先かの口論になったんだ」


「博士はエルフと喧嘩したのか?」


 と、プリュちゃんが眉根を下げてサガーチャちゃんに視線を送る。

 すると、サガーチャちゃんは苦笑しながら、それに答えた。


「そうだね。その頃は私もまだ子供だったから、引くに引けなかったんだよ。まあ、結果として私とマンゴスチンはお互い何に使うかを言い合って、そのおかげで対象は違えど私達はお互い研究者だという事がわかったんだ」


「それで意気投合したなの?」


 スミレちゃんが首を傾げて訊ねると、サガーチャは微笑みながら答える。


「ああ。それからは、お互いの事や研究の内容を色々と話し合ったよ。あの時は、本当に有意義な時間だった。私もまだその頃は、未熟でね。とても為になる話ばかりだったんだよ」


 それで、マンゴスチンと仲良くなったんだね。

 なるほどだよ。

 でも、なんで繋がってるのが裏でなんだろ?


 私がそんな事を疑問に思い無言で首を傾げていると、サガーチャちゃんが私に視線を向けて、察したように話を続ける。


「皆が知っている通り、私達ドワーフとエルフ達は過去からの因縁がある。そのせいで今も関係は好ましくないだろう? だから、表立って仲良くする事は、お互いの立場から危険だと考えたんだ」


 サガーチャちゃんはそこまで説明をしてくれると、ブーゲンビリアお姉さんに視線を向けて微笑した。


「実は、ビリアくんは元々人体実験に使う被験体として、私の所に運ばれて来る予定だったんだよ。受け渡しは、サルガタナスのサーカス公演が終わった直後の予定だった」


「え?」


 ブーゲンビリアお姉さんが顔を青ざめさせて、ぶるっと体を震わせた。


「結局はジャスミンくん達の活躍で、それも無くなってしまったけどね」


「何よそれ? ようするに、私達が来なかったら、今頃ビリアは人体実験をさせられていたって事?」


「そうなるね」


 リリィの質問にサガーチャちゃんが肯定すると、ブーゲンビリアお姉さんが言葉を失い硬直する。


 こ、怖ぁ……。

 本当にブーゲンビリアお姉さんを助け出せて良かったよ。

 ラテちゃん本当によくやってくれたよ。


「そんなわけだから、エルフとビリアくんが鉱山街に入って来られたのは、本当の所は私が裏で手を回していたからなんだよ。ビリアくんがこの事を知らなかったのは、多分逃げない様にする為に、エルフが黙っていたって所だろうね」


「それで、結局アンタはエルフの長と仲が良いみたいだけど、これからどうするつもりなのよ? 言っておくけど、ジャスミンに危害を与えるようなら、私は遠慮なくアンタを潰すわよ?」


「り、リリィ!?」


「安心してくれよ。そんなつもりは無いさ。私がマンゴスチンと裏で繋がっていた理由の一つは、糞親父への反抗心からくるものもあったんだ。今はそんなものより、心からジャスミンくんの手助けがしたいと思っているんだ。その為にマンゴスチンを裏切る事になったとしても、ジャスミンくんの為なら私はそれで良いと思っている。絶対にジャスミンくんを裏切る様な真似はしないさ」


「本当でしょうね?」


「ああ。もちろんだとも。それに、マンゴスチンも私を利用して、ドワーフを滅ぼそうと考えているんだ。今までは私も糞親父を困らせると言う意味もこめて、反抗的になってマンゴスチンを利用していたけど、もうその必要は無いからね。マンゴスチンとこれ以上係わる必要がないのさ」


 なんだか結構爆弾発言が飛び出した気もするけど、つっこまない方が良いよね?

 ドワーフを滅ぼそうとしている人に、手を貸してたって結構やばくないかな?


 私がサガーチャちゃんの国を揺るがすような発言に困惑していると、サガーチャちゃんは肩をすくめて話を続ける。


「まあ、そう言うわけなんだけど、私はエルフの里がどんな所かまでは知らないんだ。エルフの里自体には行った事が無くてね」


「そうなんだ……」


「サガーチャ。アンタ、ジャスミンを騙して、エルフの連中に差し出そうと考えてるんじゃないでしょうね?」


 リリィがサガーチャちゃんを睨む。


「そんなまさか。もしそうだとしたら、わざわざこんな事を教えたりなんてしないだろう?」


 サガーチャちゃんがリリィに微笑みながら答るけど、リリィは睨み続ける。


「そうだよリリィ。話してくれたって事は、信じていいんだよ」


「ジャスミン……。わかったわ。そう言う事にしておきましょう」


「ありがとう。ジャスミンくんの信頼の為にも、私は自分の立場を利用しようと考えている。エルフの里に到着したら、是非私を頼りにしてほしい」


「はあ。わかったわよ。頼りにしてあげるわ」


 リリィはサガーチャちゃんを睨むのをやめ、明日に備えた準備を再開した。

 他の皆も、リリィにつられるように準備を再開する。

 ブーゲンビリアお姉さんは未だにショックが抜け切れず、若干動きがぎこちない。


 さて、どんな準備をしているのかと言うと、例えばリリィが進めている明日の準備は防寒用のお洋服の準備だ。

 エルフの里がある精霊の森は、今や止む事の無い雪が降り続けているようなので、今の内に準備しているのだ。

 リリィは私の代わりに、トンちゃん達のお洋服なんかも準備してくれている。

 ちなみにプリュちゃんは水の精霊さんだけあって、相変わらずの旧スクール水着姿なのに、全然大丈夫らしい。

 と言っても、私も加護のおかげで、半袖とミニスカなのだけど。


 それはともかくとして、私も事前準備を再開する。

 私の担当は、食料の在庫確認と必要であれば調達である。

 本当は食料に関しての管理は、料理担当のニスロクさんがしていてくれているのだけど、今は馬車を雪道用に準備してくれているので、私が代わりにやっているのだ。

 私は馬車から積荷の食料を出して、一つ一つ確認していく。


 えーと……流石ニスロクさんだよ。

 食料は問題なさそうだね。

 でも、水はやっぱり少ないかも?

 毎日、食料だけじゃなく、水浴びにも使っちゃってるもんね。

 ニスロクさんが何も言わないから気にしてなかったけど、結構迷惑だったかも?

 よし。

 念の為、魔法で増やそう。

 どうせだから、水の加護で美味しい水を作っちゃおう。


 私は水の加護の力を借りて、水の魔法で食料用の美味しい水を増やす事にした。


「ご主人。博士が言っている通り、博士を利用出来るッスね。ドワーフと一緒でエルフも他種族を嫌っているんスよね? 取り入るのに調度良いッスよ」


「うーん……。たしかにそうかもだけど」


 どうなんだろう?

 私のイメージするエルフって、なんて言うかこう凄く良いイメージなんだけど、この世界のエルフって結構危険な感じなイメージがするんだよね。

 今にして思えば、港町トライアングルでアモーレちゃんに絡んでた大きい人がぼっちゃんとか言われてたし、やっぱりエルフかもだよね。

 それにブーゲンビリアお姉さんを奴隷にしてたみたいだし、ルピナスちゃんとオぺ子ちゃんの件もあるしなぁ。

 あまりサガーチャちゃんに頼りすぎると、サガーチャちゃんの身が危ない気がする。

 そうなると、サガーチャちゃんの事が心配だし、出来れば頼りたくな――


 その時、私の身に異変が起こる。

 魔法に使用している魔力に突然乱れが生じて、私は魔力のコントロールが出来なくなり魔法を中断する。

 そして、魔力に生じた乱れと同時に、私は急に胸が苦しくなるのを感じたのだ。

 私は酷い胸の苦しみとめまいを感じて、胸を押さえてうずくまった。


 何……こ……れ?

 苦しい。

 息が……出来な……。

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