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216 幼女は便利な移動手段を耳にする

 5日目の夜。

 エルフの里まで後少しという事で、今夜はキャンプテントを張って、ゆっくり休もうという事になった。

 そんなわけで、今はテントを張り終わり、皆で雑談をしている所だ。

 雑談をしていると、ブーゲンビリアお姉さんが真剣な面持ちで話を始め出す。


「皆もうある程度の事は知っているとは思うのだけど、明日にはエルフの里がある精霊の森に到着するから、これから向かう先の事を一度説明するわね」


 私達はブーゲンビリアお姉さんに注目して、こくりと頷く。


「今の精霊の森は、止む事の無い雪が降り続けているわ。この影響で、既にこの辺も気温が少し他より低く、皆も少しだけ肌寒さを感じている事だと思うわ」


「え? そうなの?」


「主様は水の加護を受けているから、寒さには強いんだぞ」


「なるほどだよ。じゃあ、リリィ達は寒いんだ?」


「少し肌寒いって思う程度にはね」


 そっかぁ。

 水の加護って、水の中で自由に動けるだけじゃなくて、そう言う利点もあるんだね。


「精霊の森に雪が降り続ける理由、それはベルゼビュートの配下のフルーレティという名の魔族のせいよ」


 フルーレティさん!?


 私がフルーレティさんの名前を聞いて驚いていると、スミレちゃんが口を開く。


「フルーレティ様は雪では無く、ひょうを降らす能力のはずなのよ」


「そのようね。私が知る限りだと、覚醒? という事があったらしいの。それで雹だけでなく、雪を降らせる事が出来る様になったらしいわ」


 サルガタナスも能力を増やしていたもんね。

 フルーレティさんの能力に変化があっても、頷けるかも。

 って、あれ?

 フルーレティさん?


「ちょ、ちょっと待って? ビリアお姉さま。フルーレティさんもエルフの里にいるの?」


「フルーレティ、さん? ええ。そうだけど、ジャスミンちゃんはフルーレティを知っているの?」


「う、うん。知っているというか……」


「風の抜けの町で雹が建物を破壊する騒動があったでしょう? その時に色々あって、ジャスミンとフルーレティが友人になったのよ」


 私が少し言いよどんでいると、リリィが説明してくれた。

 すると、それを聞いたブーゲンビリアお姉さんは驚いて、目をパチクリとさせた。


「そうだったのね……」


 ブーゲンビリアお姉さんはそう呟くと、私に視線を向ける。


「なら、次は――」


 と、ブーゲンビリアお姉さんのお話はまだ続く。

 話の内容は、魔族とエルフについてだ。

 話によれば、いつもアスモデちゃんがベルゼビュートさんの代理で動いているらしくて、ベルゼビュートさんは殆ど表に顔を出さないらしい。

 それと、エルフは皆、犬をペットとして飼っているらしい。

 犬は鼻が利くので、自給自足で生活をしているエルフ達には、良き相棒なのだそうだ。

 でも犬小屋とかは無くて、基本は家の中で飼っているから、外を歩いていても散歩の時間と狩りの時間以外は見れないらしい。

 私はそれを聞いて、少し残念だなと思った。

 他にも色々と聞いたのだけれど、その中でも、私が気になったものがあった。


「え? エルフの長の息子のソイって人も、転生者なんだ?」


「そうなのよね。能力は、一瞬で場所を移動する能力よ」


「一瞬で場所を移動って、ワープが出来るなの? 空間跳躍だなんて、めちゃくちゃ便利なのよ」


「良いなぁ」


 私が羨ましがると、リリィが頷く。


「確かに、そんな事が出来るなら、トイレを覗く事も可能ね。それだけじゃないわ。眠っている寝室に忍び込む事だって出来るじゃないの!」


「なんて羨ましい能力なのよ!?」


 うーん……。

 とりあえず、この2人にそんな能力が無くて良かったよ。


 私がリリィとスミレちゃんに呆れていると、ブーゲンビリアお姉さんが苦笑する。


「残念だけど、それは出来ないわよ」


「どうしてよ?」


「そうなのよ。納得出来ないなのよ」


「移動出来る場所は一度言った事のある場所だけで、更に屋根が無い場所と言うのが条件なの。まあ、それにしたって便利なんだけどね。触れた物に記録? みたいな事が出来て、ソイ以外の人も、それを使えば跳躍が出来るの。一度使えば記録が消えてしまうんだけど、記録出来る物には個数の制限が無いし便利よ。私もドワーフの街がある鉱山までは、それで行ったのよ」


 なるほどだよ。

 某有名ゲームの、村や町やお城に飛べる魔法みたいなものだね。

 って、あれ?

 じゃあ、それを使えば簡単に移動出来ちゃうんだから、鉱山街からケット=シーちゃん達がいなくなったのも頷けるのかも。

 ブーゲンビリアお姉さんを奴隷にしていたエルフもいなくなってたみたいだし、今頃はエルフの里に戻ってるのかもだよね。


 私が納得する横で、リリィとスミレちゃんはつまらなそうに肩を落とした。


「あっ。話は変わるけれど、エルフの里で神隠しの他にも変な事件が起きているのよ。全ての人では無いのだけれど、殆どの人が朝起きると、その……糞が枕元にあるらしいの」


「は?」


 ブーゲンビリアお姉さんの発言に、リリィが顔を顰める。

 スミレちゃんとサガーチャちゃんも困惑していた。

 私はと言うと、首を傾げてトンちゃんと目を合わせた。


「ご主人、これって……」


「うん。そうだよね」


 私とトンちゃんの反応を見て、リリィが顔を顰めたまま口を開く。


「あの馬鹿と一緒の現象ね」


 色々あって有耶無耶になっていた事を、私は思い出したのだ。

 ベルゼビュートさんがケット=シーちゃん達を連れて、トランスファを襲った事で、すっかり忘れていた事だ。

 ラークが私達にワンちゃんの糞がと、私達に相談しに来た。

 結局その時、私は猫ちゃんにされてしまって、なんの解決もせずに終わってしまったのだ。


 私とリリィ、そしてトンちゃんを見て察したブーゲンビリアお姉さんが、少し驚きながら私に訊ねる。


「知っているの?」


「知っていると言うか……」


 私はリリィと一緒に、トランスファでラークに相談された事を教えると、ブーゲンビリアお姉さんはそうだったのねと頷いた。

 こうして、ブーゲンビリアお姉さんのお話を全て聞き終わり、精霊の森に入る為の事前準備を始めると、サガーチャちゃんが私に向かって話しかけてきた。


「私からもジャスミンくんに話しておかなければいけない事があるのだけれど、聞いてくれるかい?」


「え? うん」


 私が返事をすると、サガーチャちゃんは微笑む。


「私はエルフの長、マンゴスチンと裏で繋がっているんだ」


「え?」


「と言っても、マンゴスチンは私の事を利用して、ドワーフを滅ぼそうとしているみたいだけどね」


「えええぇぇっ!?」


 私はサガーチャちゃんの予想外のカミングアウトに驚愕して、口を大きく開けて暫らく固まってしまった。

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