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211 幼女は悲しい過去を知る

 昔、ドワーフとエルフは仲良く暮らしていました。

 そして、そんなある日の事です。

 山のふもとの鉱山街に住むドワーフ達と、精霊の森のエルフの里に住むエルフ達は、今よりもっと仲良くなろうと考えたのです。

 その方法とは、お互いの王子様とお姫様を結婚させる事でした。

 種族を超えた結婚は懸け橋となって、今よりもっと良好な関係が築けると、ドワーフもエルフも考えたのです。

 そして、ドワーフとエルフの民達も強くそれを願いました。


 勿論、当時のドワーフの王子様とエルフのお姫様は、その考えに賛成していました。

 何故なら、その考えを提案した者こそ、ドワーフの王子様とエルフのお姫様だったからなのです。

 2人は恋仲に落ちていたのです。

 お互いが愛し合い、将来を誓い合った仲だったのです。


 しかし、運命の歯車は残酷に動き出しました。

 ドワーフの王子様は考えてしまったのです。

 2人の愛を永遠にする為に、人を不老不死にする事が出来るフェニックスに頼んで、自らとエルフのお姫様を不老不死にしてもらおうと。


 ドワーフの王子様は、やがてフェニックスを発見し、そして願いを叶えてほしいと頼みました。

 フェニックスは言いました。


 いずれ後悔する時が来る。それでも構わないのか?


 と。

 だけど、ドワーフの王子様は後悔なんてしないと断言して、フェニックスに懇願しました。

 フェニックスはドワーフの王子様の懇願に首を縦に振り、2人に不老不死になる為の試練を与えて下さいました。


 そして、結婚を前にした結婚前夜の事です。

 ドワーフの王子様とエルフのお姫様は、フェニックスの試練を失敗してしまったのです。

 試練を失敗してしまった2人は、一命を取りとめるも、ドワーフの王子様だけが酷い病気にかかってしまわれました。

 結婚は中止となり、ドワーフの王子様の治療が始まりました。

 ドワーフ達とエルフ達はドワーフの王子様を助ける為に必死で治療をしました。

 それは何年も続き、長い年月をかけたものでした。

 しかし、数年後ドワーフの王子様は亡くなってしまわれたのです。


 そして、悲劇は終わりませんでした。

 ドワーフ達が騒ぎました。


 何故、2人とも同じ試練を受けたのに、我等の王子だけが死ぬ程の病を携わったのだと。

 何故、数年たった今でも、エルフの姫が数年前と見た目が変わらないのかと。


 次第にドワーフ達の思いは憎悪に変わり、エルフ達に言いました。


 我等の王子を殺した姫を殺せ。 


 と。

 そして、エルフのお姫様はドワーフ達から命を狙われるようになり、エルフ達は姫を守る為に何人も何十人も何百人も死んでいきました。

 エルフ達も負けじと戦い、ドワーフ達も同じように何人も何十人も何百人も死んでいきました。

 両者の憎しみは高まり、憎悪だけが支配する関係へと変わっていきました。


 エルフ達はお姫様を守る為に精霊の森に結界を張り、ドワーフだけでなく、他種族全てとの関係を切りました。

 ドワーフも他の種族への不信感が募っていき、いつの間にか他種族との交流を遮断していきました。


 こうして、ドワーフとエルフはお互いが憎み合い、そして、他種族を受け入れない種族となっていったのです。

 私がコラッジオさんから聞いたお話は、とても悲しい、こんなお話でした。



◇ 



 私がお話を聞いて悲しんでいると、コラッジオさんが優しく私に微笑む。


「当時は、それはもう大変だったと聞きます。フェニックスを恨む者も、数えきれぬほどにいたようです。しかし、ご安心下さい。病の原因は、既に判明しているのです」


「え? フェニックスの試練に失敗しちゃったからじゃないの?」


「いえ。失敗はしたものの、原因はそこでは無く、当時の流行病が原因だそうです。何でも、当時の王子がフェニックスを捜す為に、不老不死になれば関係ないと所構わず捜していたようで」


 えぇ……。

 それって、ただの自業自得じゃんか。

 じゃあ、それに皆が巻き込まれちゃったの?

 こんな事言ったら駄目かもだけど、王子様最低だよ。


「でも、それがわかってるなら、何でアンタ達は最近まで他種族との関係をっていたのよ?」


 リリィが呆れた様子でコラッジオさんに問いかけると、ベッラさんが代わりに答える。


「この人が頑固なのと、他にもエルフとはいざこざがあったのよ。最近だと、エルフの長マンゴスチンさんの息子さん、ソイさんだったかしら? が、変な言いがかりを私達につけてきたのが原因ね」


 変な言いがかり?


「まあまあ、それは良いではないか。それよりもジャスたん様、もう暫らく滞在していって下さるのですよね? そこにいるサルガタナスにも今回の騒動で中止になってしまったサーカスを、準備が出来次第、改めて公演してもらいたいと考えておるのだ。サルガタナス、やってくれるか?」


「はい。それは勿論ですとも。オイラもコラッジオ様に頼んで、サーカスの公演をやりたいと思っていたんだ」


「うむ。それで、ジャスたん様は?」


「ジャスたん」


 コラッジオさんとアモーレちゃんの視線を受けて、私は考える。

 だけど、私の考えはもう既に決まっていた事で、考えるまでもなかった。


「ありがとー。でも、確かにサルガタナスのサーカスは気になるけど、私はお友達を助ける為に今からここを出て、エルフの里に向かわなきゃなんだ」


「さようですか。もう旅立たれるのですね」


「ジャスたん、いっちゃうの?」


「うん。ごめんね。アモーレちゃん。少しでも早く行って、お友達のルピナスちゃんとオぺ子ちゃんを助けないとだもん」


 アモーレちゃんはおめ目を潤ませて、それでも私に笑顔を向ける。


「がんばってね。ジャスたん」


「うん。ありがとー」


 私はアモーレちゃんの頭を優しく撫でて、笑顔を向けた。


「そうよねー。ニクスの時よりは時間に余裕もありそうだけど、早いに越したことはないものね」


「ハニーの言う通りッスね。早いに越した事は無いッスね。命の危機があるわけでは無さそうッスけど」


「でも、おちんちん切られちゃうんだぞ」


「が、がお」


「唯一心配なのは、そこなのよ」


 私はオぺ子ちゃんなら喜ぶと思うけどなぁ。


 などと私達のお話がおバカな方向へ進んでいると、コラッジオさんがこほんと咳払いを一つする。


「ジャスたん様、せめてものお礼として、エルフの里までニスロクをお貸しします。それに馬車も差し上げましょう」


「え? ニスロクさんって、お料理を作ってくれる人だよね?」


「はい。私も行った事が無いので、聞いただけの話ではありますが、ここからエルフの里までおよそ七日はかかる様なのです。その間の食料問題は、ニスロクを連れて行けば問題ないでしょう」


 7日って……1週間もかかっちゃうんだ。

 しかも馬車をくれるっていう事は、馬車を使って1週間ってことだよね?

 結構遠いんだなぁ。


 私がコラッジオさんの説明を受けると、ブーゲンビリアお姉さんが私の耳に顔を近づけて話す。


「ジャスミンちゃん、お言葉に甘えましょう? 陛下の言う通り、エルフの里までは距離がもの凄くあるの」


「そっか。それなら、お言葉に甘えて、お願いしちゃおうかな」


「是非」


 私が答えると、コラッジオさんは笑顔を私に向けて頷いた。

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