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209 幼女を象徴にするのはやめましょう

 ルピナスちゃん大丈夫かなぁ……。


 と、ブーゲンビリアお姉さんからのお話でルピナスちゃんの事を心配していると、フウさんとランさんが声を上げる。


「「サルガタナスが目を覚ましましたよ~」」


 フウさんとランさんの言葉に振り向く。

 サルガタナスは上半身だけ起こして、キョロキョロと周囲を見ていた。

 そして、俯いたかと思うと、サルガタナスは自分の両手の手の平を見つめだす。


「オイラ、助かったの……か?」


 サルガタナスがそう言うと、アマンダさんがサルガタナスに近づいて話しかける。


「貴方、ジャスミンに感謝する事ね。ジャスミンがいなかったら、死んでいたわよ」


 アマンダさんの言葉を聞いたサルガタナスが、私をじっと見つめる。

 私は微笑んで、サルガタナスにゆっくりと近づきながら話す。


「初めて回復の魔法を使ったんだけど、痛い所って残ってないかな?」


「……ないね」


「そっか。それなら良かったよ」


 私がそう言って笑顔を向けると、サルガタナスは俯いてボソリと呟く。


「そうか。あの時にオイラが見たのは、幻なんかじゃなかったんだね」


「え?」


「オイラは凶悪な女に蹴り飛ばされて、死を覚悟したあの時に見たんだ」


 サルガタナスが顔を上げて、まるで拝むような表情で私と目を合わせる。


「パンツの女神様を」


 またそれ!?


「パンツの女神様、今までのオイラの無礼を許しておくれよ。オイラが間違ってたんだ」


 ど、どうしよう?

 呼ばれ方が酷すぎて、本気なのか冗談なのかわからないよ?


 私が困惑していると、リリィがサルガタナスの肩に手を乗せて囁く。


「エロピエロ、アンタもやっとわかったのね」


 リリィが囁くと、サルガタナスがリリィに目を合わせて頷く。


「そうさ。オイラは今まで、おっぱいこそが至高だと思っていた。だけど、それが間違いだと、パンツの女神様のおかげで気がついたんだ」


 ごめん。

 ほんっとごめん。

 なんの話をしているの?


「ボクはパンツなんかより、おっぱいの方が好きッス」


「アタシはどっちも好きとか嫌いとかないんだぞ」


「がお?」


「あの。そう言うのは、人それぞれの好みの問題だと思いますの」


「フェール、おバカ達の言葉は聞き流すのが正解です」


 うん。

 ラテちゃん、私もそう思うよ。


 私がラテちゃんに同意していると、スミレちゃんがサルガタナスに近づいて微笑む。


「幼女先輩の神々しいパンツを見たなのね?」


「そうさ。オイラ達は死ぬ時、全身にヒビが入って、体が爆発して死ぬだろう? だから、オイラも全身からヒビが入ったあの時に、死を覚悟したんだ」


 やだ怖い。

 魔族って、死ぬ時に爆発しちゃうの?


「でも、オイラは死を覚悟したあの時に、空から現れたパンツの女神様のパンツを見たんだ。その姿は街の光に照らされて、本当に空から女神様が舞い降りたかのように、それはもう美しいパンツだったのさ」


 私のバカ。

 だから、ここにいた人達が皆で、私の事をパンツの女神とか言い出したんだね。

 こんな事なら、リリィに貸してあげるのをズボンじゃなくて、スカートにしておけばよかったよ……。


 私が落ち込みだすと、アマンダさんが私に優しく話しかける。


「サルガタナスの息の根を止める?」


「ううん。ありがとーアマンダさん。気持ちだけで嬉しいよ」


 私を気遣ってくれるアマンダさんとは対称的に、フウさんとランさんが楽しそうに話す。


「「へいへい。新たに目覚めたロリコン野郎~。ジャスミンちゃんのパンツの色は何色だー?」」


「その名に違わぬ純白だったよ」


「当然よ。ジャスミンは同じ柄のパンツを何枚も持っているのよ。そしてそれは、全て白なのよ!」


 そういう事、言わなくて良いから!


「前から思っていたけど、ジャスミンちゃんって本当に何にでも一途よね」


「ビリア、流石はわかってるじゃない。ジャスミンの良い所ね」


「幼女先輩はパンツにも一途で尊いなのよ」


「今のオイラには、それがわかるよ」


 恥ずかしいからそれ以上言わないで!?


 私は段々恥ずかしくなってきて、恥ずかしさのあまりしゃがみ込んで顔を手で隠す。


「貴女、大変ですわね」


 私がしゃがんで顔を隠していると、フェルちゃんが私に同情して頭を撫でてくれた。

 すると、プリュちゃんとラヴちゃんも私の頭まで登って来て、私の頭を撫で始める。

 そうして私が3人に慰められていると、オライさんがやって来た。


「サルガタナス様、お目覚めになられたのですね」


「パンツの女神様のおかげだよ」


「パンツの女神? 流石です。サルガタナス様もお気付きになられたのですね」


 オライさんはそう言うと、私に視線を向けて言葉を続ける。


「陛下がお待ちです。城へ来て頂いても、よろしいでしょうか?」


「コラッジオさんが? うん。わかったよ」


 よし。気持ちを切り替えよう。

 パンツの女神とか言われるのは最悪だけど、気にしてなんかいられないもんね。


 私は気持ちを切り替えて立ち上がり、お城へ向かって歩き出した。

 この時の私は、まだ気がついていなかった。

 本当に恐ろしいのは、これからなのだという事を。


 私はお城に到着すると、城門前に新たに設置されていた物を見て、声にならない声を上げて絶叫した。

 そして、がっくりと項垂れて膝をつく。


「な、何ですのこれは!?」


「でっかい主様だぞ!」


「がおー!」


「パンツが丸見えです」


「ぷぷぷ。ご主人、ここ見るッス。我等が英雄パンツの女神像って書いてあるッス」


 そう。

 お城に到着して私が見た物、それは、全長5メートル程はあると思われる私そっくりな像だった。

 しかも、ただの像では無い。

 像が着ている服は今の服で、下から覗けばと言うか、近づけばパンツが丸見え。

 そもそも像と言うより、フィギュアに近い代物だった。


「す、すまない。ジャスミンくん。後で私から糞親父にきつく言っておくよ」


「何言ってるのよサガーチャ。これは称賛に値する行いだわ」


「リリィの言う通りなのよ。パンツの女神像だなんて、センスありまくりなのよ」


「ええ。私もマラクスの同胞として、彼を称賛します。きっとこのパンツの女神像を象徴として、パンツの女神の伝説が未来永劫と語り継がれていく事でしょう」


「元々他種族との交流を嫌うドワーフから英雄扱いされるやなんて、ジャスはホンマに凄いなぁ。ウチも鼻が高いわぁ」


「この国はバカしかいないです?」


「残念ながら、言い返す言葉が見つからないですわ」


「主様かっこいいんだぞ」


「がおー!」


「じゃ、ジャスミン大丈夫? 気をしっかりもって!?」


「「アマンダさん、あまり揺らさない方がいいですよ。これは重症です」」


「ジャスミンちゃん、暫らく見ないうちに、随分苦労しているのね」


 私が私の像を見上げながら、あまりのショックに意識を失いかけていると、私の横に立つリリィが爽やかな笑顔で呟いた。


「マラクス。アイツ、ついにやり遂げたのね」


 と。

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